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嫌ってくれてありがとう



「明日早いんだから早く寝ろよ」

「今日だけで8000文字書いた。もう立派な小説家かもしれん」

「調子に乗るな」

「はい」

ギターを辞めて早一年半。五年も習っていたので記録として残しておきたくて、ギターの先生とのエピソードを、ざっくりnoteに書いた。
もう読み返すことはないと思っていたけど、今回、加筆修正して本にして、文学フリマで販売することにしたので読み返した。

「いやー、読み返したんだけどさ、めっちゃめちゃキレてたね当時の私。今読んでてもムカムカしてくる。てかあの人、BARの予約すっぽかして来なかったキャンセル代の3000円、払うって言ってたのに払ってないわ。今思い出した。むかつく」

「せこいなチャラ男」

返せー。返せよ3000円ー。

「でもさー、辞めてよかったって思ってる。おかげで違う道に進めそうだし。ギター向いてなかったもんわたし。理論の方が面白くて」

「チャラ男もあんたの面倒をよく五年間も見れたよな。今は結局なんなんだ? 仲良いのか? 悪いのか?」

嫌われたり、嫌ったり、怒ったり、怒られたり、そういうマイナスな感情ほど、次に進むきっかけになったりする。
あのとき辞めていなかったら、小説スクールに通い出すこともなかったし、noteを書こうとも、文学フリマに出店しようとも思わなかった。

「分からんけど、一言で言うと「他人」だね」

「5年も習ってて他人なのか」

「他人だよ。もうギター習ってないし。周平くんはレッスン中は先生を演じきってたし、わたしも生徒を演じきってたし。その関係性が崩れたら、もうどう関わったらいいのか分からない。お互い役作りするタイプの人間だとさ、親密性がなにも生まれないんだよね。まぁ時計座のあんたには分からないだろうけど」

「あんたの本性知ってびっくりしてんじゃないか」

「いやいや、それはお互い様だよ。やばくないマジで。どんだけお互い本性隠して付き合ってたんだよって話。めっちゃウケる。本当に最高の先生だったと思うわ」

ネタバレになるので言わない。

「なんかさ、嫌われるってすごいパワーをもらえるんだ。「この人私のこと嫌いなんだ。だったら私が何をしても構わないよね?」って思って、もうなんでもやっちゃおう感じになるの」

「あんたは異常だよ。普通は嫌われたくないからって臆病になるんだよ」

「逆だなー。わたしは好かれる方が臆病になっちゃう。好きでいてほしいって思っちゃうから。嫌われないようにするのは大切だと思うんだ。挨拶をするとか、お礼をきっちり言うとか。でもさ、こっちが冗談で言ったつもりが、相手が勝手に卑屈に受け止めるときあるじゃん。シャレが通じない奴。ああいうつまらない連中にはわたし全然嫌われていいと思うんだ。むしろ嫌ってくれって。そうすればこっちもそいつらを思いっきりネタにして笑い飛ばせるから」

芸人メンタル。嫌なことほどネタになる。
わたしは書ける人間なので、書けばいい。

「わたしは嫌われたり無視されたほうが動ける人間だから、だから他人に対しても嫌いな奴にはハッキリ嫌いだってアピールするし、興味ない人は無視するの。その方が相手のためになるとすら思う。でも普通は違うんだよね。みんな好かれるためだったり、興味関心を持ってもらうために頑張るんだよね」

「だからあんたは異常なんだよ」

「その感覚の違いを理解するのにすんごい時間かかったね。だから今は周平くんをとことん推すの。すんごい好きってアピールすればもっと頑張るかなって」

好かれて頑張る?
嫌われて頑張る?

周平くんは、どっちだろう。

「でもちゃんと本にできるか不安なんだ。本って読むまで分からないじゃん? お金払って買って読んで、つまらなかったらもう2度と買ってもらえないかもしれないね」

「それはない。ライブと一緒だよ。あんたもよくライブ行くんだから分かるだろ」

「ライブ?」

「ライブって、一度見てクソだったからもう二度と見ないってことはないんだ。知ってさえいれば、数年後に「そういうば前見たあのアーティストどうなったかな」って思い出して、数年ぶりに見に行くこともある。対バンで被って、たまたま見ることもある。作家だって一緒だよ。本はとくに、すべて読まなければ内容は分からない。時間をかけて読むんだ。その内容がクソだったら、しばらくはもうその作家の本を買わなくなる。でもあるとき思い出して、そうだな、新作が出たみたいなタイミングだったり、書店でたまたま目にしたりしたときに、どのくらい成長して変わったのかなってまた読んでみたくなったりするんだよ。だからまず、知ってもらうことが何よりも重要なんだ。中身の分からないものを売る商売だからこそ、一回じゃだめで、二回三回と見てもらうことが大事なんだ。まず買ってもらって、知ってもらわなきゃ始まらないんだ。良い作品を作ってやろうっていう意欲は大事だけど、それと同じぐらい知ってもらうための努力も怠っちゃいけないんだよ。まず売る。まず買ってもらう。とにかく、あんたの作品を初めて読むって人を増やし続けるんだよ。ライブと一緒だ。固定客よりも、新規を集め続けるんだよ」

「なんか良いこと言うじゃん」

嫌ってくれてありがとう。おかげで本気になれた。
歩む道は違っても、目指す方向はみんな一緒。

上だよ、上。

みんな、頑張ろうね。

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