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文学フリマ東京40に申し込んだ話
「あんた、5月11日空けといてよね」
「なんで??」
「文学フリマに出店することにしたから。ビッグサイトまで本運んで」
「は? なんだそれ、もう決定??」
「早くに申し込むとすぐ決定みたい。遅いと抽選になるっぽいけど」
「申し込んだんか?」
「うん」
「本は?」
「これから」
インディアン座って計画性が全くないんだよなぁと、自分のことながら思う。
「やだよ。自分で運べ」
「いや、わたしはギター持ってくから本は持てないの」
「は? なぜギター??」
「ギターの小説書くから」
「だからなぜギター??」
「その方が目立つでしょ。本なんてどんな素晴らしい本でも読んでみなきゃ分からないんだから。目立って売ったもん勝ち」
「だからなんでギター持って行く必要があるんだよ」
「いたんだよね。この前の文学フリマでギター持ってた人が」
「は!?」
いたんですよ。ギターを持っていた出店者が。文学フリマに。本と一緒になぜかギターストラップまで売っていて、すごく目立っていた。
本って、ライブのチケットと同じ。最初から最後まで読んで、初めてその良さが分かる。
ライブも、どんなライブになるのかは見るまで分からない。
じゃあなんで本やチケットが売れるのかというと、営業努力とお客さんの期待値。
本の場合は、パッと見たとき表紙やタイトルで買う。パラパラとめくって、漢字や使われている言葉で、ざっくり読みやすさを見て買う人もいるだろう。
「でね、わたし文学フリマでBL小説買ったんだけど、読むの中学生以来なのね。で、読んでびっくりしたんだけど、すごく稚拙な文章なの」
「稚拙?」
「全然中身も心理描写も薄ーい感じなの。中学生のときは読みやすいから気づかなかったけど、今読んだら物足りない感じ。とくにさ、エロシーン以外はマジで稚拙」
「あー、AVみたいなもんだろ」
「AV?」
「AVだってエロシーン以外は茶番劇だろ。だれもエロシーン以外に期待なんてしてないんだよ」
相変わらず主人は例えが上手い。まさにそれだ。
「あー、スパイものとかあるよね。拘束されて「知ってることを喋らないとこのバイブでお前のあそこを〜」みたいなやつね」
「あんたどんなAV見てんだよ」
「BL小説もそうなんだよね。エロシーンはさ、やけに生々しくて、お尻の穴に指突っ込んでトントントンみたいな。中学生のときはさ「トントントン」ってなんだよみたいに思ってたけど、今は分かるよ。前立腺!!」
「もうやめろ」
中学生のときはエロシーン以外は読みやすくて、エロシーンは理解できないことが多かった。
「正直さ、こんな文章でも本にして売ってるんだって思うものも多かったの、文学フリマ。でも本ってさ、誰が読むかによって感じ方も変わるし、それこそ中学生だったらBL小説だって知識を得るにはすごく読みやすくて楽しいと思うんだ。だからわたしも、noteにもう300記事以上書いてるからさ、それを加筆修正すれば本を作れるんじゃないかって思ったの」
文学フリマに行って、本を作ることに対してのハードルが下がった。みんな自分の作品を本にして発表しているようで、楽しんでいた。
「本作るったって、金かかるだろ」
「そう、調べたんだけどね、100ページの文庫本を30冊作ると1冊5、600円かかるの。それを700円で売ったとしても、色んな経費を引いたら赤字。でもね、それでいいと思うんだ」
「それでいい?」
「100ページって薄いじゃん。でも文字数だと5万文字。短編くらいにはなるんだ。文学フリマって、300ページのきっちりした文庫本を販売してる人ってあまりいなくて、みんな100ページくらいのを700円とかで売ってるの。利益なんて求めてないの。自分の作品を見てもらうためにやってる感じでね、それがなんかすごく楽しそうだなって」
もちろん100冊200冊まとめて作れば安くなる。でも売れなかったときが大変だから、みんなある程度控えめにする。そうなると作る費用は高くなる。
「で、チャラ男の話を本にするのか」
「あれさー、とにかく読みやすく簡潔に書くことを意識したから2万文字くらいなんだよね。だから、5万に増やそうかなって」
「倍以上だな。話変わらないか?」
「大筋は変わらないようにしたいけど、もっと際どい部分も書く思う。心理描写も増やしたいんだ。あんたには見せられないものになるかもなー」
「あんたチャラ男と何があったんだ?」
「でも大丈夫。文学フリマでしか販売しなければ、周平くんに見られることは絶対にないからね。マジで面白くない? ワクワクしてくる。全部書いた上で、ライブとかギターとか推し活のこととか、アーティストのこととか、わたしが経験して知ってることを詰め込みたい感じ。実話を基にしたフィクション。経験したことしか書けないんだよねわたし」
「まぁ頑張れ」
わざわざ本にしなくたって、noteに書けばみんな見れるし。そう思っていたけど、わざわざ東京ビッグサイトまで足を運び、わざわざ本を買う人がいるのなら、
その「わざわざ」の人たちに向けた本を、「わざわざ」作ってみるのも面白そうだ。