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わたしのためのライブ【清香と結芽乃】



「周平くんところのアーティスト、今日ライブやってるんだけど、見てこれ」

「ん?」

 無料で見れるので、主人に配信動画を見せる。

「どこか分かる?」
 映し出されるステージの映像。

「うぉ!? 消防法違反のところ!!」

「ね! ここでやってるんかい!! って笑っちゃった」

 新宿44ファンタジーホール。
 地下アイドルをやっている主人の推しちゃんの舞台で行った。  
 新宿44ファンタジーホールは、数々の現場に行っているわたしたちが、最もクソ箱だと判断した箱である。

 調べた画像だけを見ると30人くらい入りそうだけど、狭い上に段差もないので、後ろの方はほぼ見えない。

 それだけならクソ箱認定しない。
 この箱の何が問題かというと、ビルに入ってエレベーターで上に行くのだが、上がるときは気づかない。問題は舞台が終わって帰るとき。

 5人も乗ればギュウギュウになるエレベーターを、20人以上の客が待つ。
 
 「階段で降りた方が早いわ」

 と、階段の方を振り向き気づく。
 観葉植物やら舞台セットの小道具やらでみっちりと埋め尽くされた階段。物置として使っているみたいだ。
 
「これはあれだね、火事になったら全員死ぬね」

「だな」

 それ以降、この箱の呼び名は「消防法違反のところ」になった。

 さすがの主人も推しちゃんに、
「いくら安くてもああいうところではやらない方がいい」
 と、苦言を呈した。まぁ、予約した段階ではどんな箱なのか分からなかったのだろうけど。
 
 それが2年くらい前なので、改善されているといいなぁと思いながら、そっと配信を閉じる。

 
「それより1月24日さ、わたしのためのライブがあるの!!」

「なんだ? わたしのためのライブって」

「清香ちゃんと結芽乃ちゃんの対バン!!」

 推している福島清香ちゃんの自主企画ライブで、清香ちゃんは結芽乃ちゃんを呼んだらしい。他に2組呼んで、4組で行われる対バン。

「結芽乃ちゃん呼ぶってやばくない? わたしが結芽乃ちゃん好きなの知ってるよね? だから呼んでくれたんだよ、わたしのために!」

「あんた自惚れすぎ」

 福島清香ちゃんと結芽乃ちゃん。

 清香ちゃんは路上ライブでお客さんのリクエストに応えたり、楽しませるために小ネタをしたりする。

 対照的に結芽乃ちゃんは、「わたしの歌を聞けぇぇぇい!!」くらい闘志のある目で歌う。ライブでも「結芽乃だけ見てほしい」と言う。

 タイプは違っても2人とも自分のキャラに合っていて、路上ライブをガツガツやって本気で上を目指しているので、わたしが今推しているアーティストは主にこの2人。

「清香ちゃんも結芽乃ちゃんも、オタクがちゃんとついてるんだよね。「俺の清香」ってみんな思ってる。「わたしの周平くん」みたいな」

「なんだそりゃ」

「mixi2で清香ちゃんのコミュニティ作ったんだけどさ、ファンの人から「清香を応援してくれてありがとうございます」って言われるの。何目線? みたいな。でもすっげー気持ち分かるんだそれ。わたしも清香ちゃんがサポートギターに周平くん使ってくれたとき「周平くん使ってくれてありがとう」って言いたかったんだけど、絶対ウザがられるから言わなかった」

「お前のために使ってるんじゃねぇって話だな」

 強いオタクほど、推しは自分の所有物って感覚がある。

「分かってるんだけど! でもね! やっぱりわたしの周平くんだから、今はわたしの周平くんをあの団体に貸し出してあげてるって感覚なの。わたしの周平くんだから、変なことさせたら絶対許さないし、いじめたらテメェぶっ殺すぞって思うじゃん? だってわたしの周平くんだから。でもわたしの周平くんは優しいからゴミみたいなアーティストの横でも我慢してるから、わたしも今は我慢しなきゃって思うの。わたしの周平くんだか」

「うるせぇな」

 わたしの周平くんだし、わたしのためのライブだし。勝手に勘違いして勝手に幸せになるのならそれでいい。

「他の2組も、清香ちゃんに呼ばれるくらいだから実力派だろうね。すっげー楽しみ」

 どんな箱なのか、どんな人と対バンするのか。
 魅力のない人は魅力のない人同士で群れていて、魅力のある人は魅力のある人を引き寄せる。
 そして、頑張っている人は頑張っている人がわかる。

 1月24日(金) 17時半オープン、18時15分スタート。
 横浜7th AVENEW、スタンディングキャパ350の広くて綺麗な箱です。

 座り5000円、スタンディング3000円、学生2000円(ドリンク代別)

 わたしの推しが2人揃うライブです。
 本当に素晴らしいので、お時間ある人はぜひ。

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