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強いオタクが1人他界すると10人は他界する



「メルカリで4000円のクラッチバッグ買っちゃった」

「そうか」

「なぜかと言うとね、7、8年くらい前に買ったラグナムーンのクラッチバッグがね、新品のまま出てきたの。で、今日「たまにはクラッチバッグ使ってみるかー」って思って使ったら、合皮が経年劣化でボロボロしてきて使えなくてさ。使えないってなるとなんか無性にクラッチバッグ使いたい気分になって、メルカリでポチっちゃった」

「そうか。ヴィトン? ヴィトンのクラッチバッグはヤクザしか持ってないぞ」

「そうそう! そのイメージわたしもあったからヴィトンはやめたの。でね、クラッチバッグって、なんかカジュアルなイメージだから、ハイブランドだと重くなるなぁって思ったの。あとちょっと冒険しても許されるのがクラッチバッグだと思ったから、あえてケンゾーにしてみた」

「ケンゾー……虎か。大阪のおばちゃんだな」

「なんか1箇所外すのも楽しそうだなって。ファッションってさ、個性を表すものだから、新宿とか渋谷歩いてるとみんなハイブランドばかりで、逆にケンゾーとかの方が個性的でカッコよくない?って思ったんだ。ライブの現場減ったし、元は4、5万するやつが中古で4000円なら良いよね! 届くの楽しみだなぁ」

「ん? 現場減ったのか?」

「周平くんのフェス、大嫌いな奴が執着してていい加減ウザイからもう行かないんだ。ムカつくからもう1円も払いたくない。だから毎月5000円浮くの。あとなっちゃんの髪の毛2月までシルバーだから行きたくないし、それで3000円浮くでしょ。月に8000円浮くわ」

 オタクが自分のためにお金を使うときは、現場が減ったときである。推し活最優先で、余ったお金を自分に使うのだ。

「BAND-MAIDは最近行かないのか?」

「んー、最近はあんまり。バンメに7000、8000使うなら清香ちゃん現場2回行けるし。小鳩さん、髪の毛ピンクになってからなんか既視感あるどっかのおばさんと被ってババ臭く見えるんだよね。まぁ曲は良いから聞いてるけど。あんたは? なっちゃんの定期行くの?」

「いつもいるおっちゃんいるだろ? あの人と俺がコールかけなきゃ盛り上がらないんだけど、今俺が他界してるからおっちゃん1人で、おっちゃんいないときはお葬式状態らしい」

「おっちゃん行かないときあるの? いつもいるじゃん」

「あの人もともとポピエモが主だよ」

「え!? そうなの!?」

「義理堅いんだよ、その繋がりでなっちゃんとこにも来るから。ポピエモは全通って感じ」

「ポピエモ今度OMGと対バンするよ。わたしのフォロワーさんのオッチさんいるじゃん? 今OMGのシウちゃんめっちゃ推してるから多分被るよ。なっちゃんとことは被らないのかなぁ」

「界隈違うな」

「ポピエモとOMGとなっちゃんとこが被ったらやばいね。強いオタク勢揃い。アイドルが売れるかどうかはオタク次第だね」

「まぁオタク大事にしないとな」

「OMGもオッチさんいるから、結構上まで上がってくると思うんだ。シウちゃんあり得ないくらい顔可愛いし、見る?」

「知ってるよ。あのグループにいるから可愛く見えるのもあるな。アイライフとかにいたら普通になる」

「あぁ、アイライフは別格すぎるね。白キャンの梓も辞めちゃうし、なっちゃんは髪シルバーになっちゃったし、あんたも現場減るね。清香ちゃん推すか」

「それは別だよ。シンガーソングライターだろ。俺はアイドルがいいんだよ」

「清香ちゃん、今カバーバトル参加して視聴回数競ってるから、ちゃんとYouTube回しといてね」

 推しの清香ちゃんは、今カバーバトルという企画に参加している。16組中、1日ずれで4組ずつ動画が投稿され、最終的に視聴回数が多いアーティストが、12月に大阪のホールで行われるライブに参加できる。

「あれ普通に考えて最終組が1番有利になるだろ」

「いやまじそれ。不公平すぎるわ」

 締切もそれぞれ1日ずれになるので、最終組はそれまでに締め切られたアーティストの視聴回数を見れる。

「最初の組の清香ちゃんめっちゃ不利じゃんって思った。絶対あとから追いつかれないように数万回再生ぐらいしておかないとダメな気がする」

「なかなかキツイな」

「わたしも強いオタクだったらなぁ」

「1位になったら大阪行くのか?」

「そりゃ行くよ。別の界隈なんだけど、呼んだら来そうな大阪のフォロワーさんいるんだ。会ってみたいし」

 オタク同士は思った以上に簡単に繋がる。人を応援することが好きな人なので、繋がったオタクが応援する推しのことも一緒に応援する。そうすると、繋がったオタクが喜ぶのを知っているから。人が喜ぶことをするのが好きなのだ。

 わたしはわたしを応援してくれる人より、わたしの推しを一緒に応援してくれる人が好きだ。

 オタクを1人他界させるということは、その裏にいる何十人、下手したら何百人ものオタクを他界させる可能性もある。

「大阪遠征したらいくらかかるかな?  2、3万かな? じゃあ毎月浮いた8000円貯金しておかないと。今日4000円も使っちゃった」

 自分に使うお金はとても惜しく感じる。

「ギター売れば? もうやらないんだろ?」

「いやー、それね。どうしようかな」

 ギターがわたしと周平くんを繋いでくれた。それを売ったら、ギターの繋がりは消える。

 我が推しの周平くんは、サポートギター。

 今度は何が、誰が、わたしと周平くんを繋いでくれるのだろう。

 幅広く推し活を続けていれば、またどこかで見れる機会があるかもしれない。

 それまで、わたしはオタクとオタクを繋げていこうと思う。

「まぁとりあえずまずは清香ちゃんが大阪行き決めるかどうかだね。決めたらケンゾー持って大阪行くわ」

「大阪のおばちゃんだな」

 虎が描かれたケンゾーのクラッチバッグを持って、大阪に行くのだ。

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