出世する人
「台湾遠征行ってるオッチさんからめちゃくちゃツイート流れてくる」
アイドルさんを追って台湾遠征中のオッチさんは、わたしと主人の共通のフォロワーさん。
「オッチさん、推しちゃんのこと大好きだねー。もうオッチさん見てるだけで幸せになれるよ。なんかプロポーズした写真あげてたよね」
花束を抱えたオッチさんが、推しちゃんに跪いてプロポーズしてる様子の写真。好きが爆発してる。
「最高だね。オタクはあれくらい吹っ切れてたほうがマジで良いよ。人生幸せすぎ」
オタクがオタクしてる時の顔が好きで、ライブ中もチラチラとオタクを見てしまう。アイドル現場はアイドルも可愛いけど、オタクはもっと可愛い。推しちゃんのために全力を尽くすオタクを見るのが、わたしは好きなのだと思う。
「あんたのチャラ男はどうした」
我が推しのサポートギタリスト、周平くん。
9月の清香ちゃんワンマンから更新されないアルバム。
「ホスト業に勤しんでる。まぁわたしはドルオタみたいに接触したいタイプじゃないから、蓄えた写真を眺めてるだけで幸せだからコスパ良いわ」
ライブなしチェキなしグッズなし。
過去に撮られた写真を眺めたり、妄想したり、作文作ったり、オリジナルグッズ作ったり、そんな自己完結型の推し活で毎日幸せになれるのだから、まるで現実世界にはいない二次元キャラクターのような、とてもコスパの良い推しである。アイラブ周平♡
「ところで結芽乃ちゃんの路上ライブどうだった」
Zepp新宿の横で行われた、公認路上ライブ。
「よかったよ。カメコが多かった。盛り上げ方だったら清香ちゃんの方が上かな」
「まぁカメコもいないよりは全然いいな。あの子の写真見たけど、撮るの上手いんだよな。自己満カメコで、下手くそな写真あげてる奴も多いんだけど、あの子は良いカメコがついてる」
「あとねー、やっぱ若さってデカいね。23とかかな。「ビッグになるために上京しました」って言っててね。あのくらいの年齢にしか言えないなって思った」
【「大分からビッグになるために来ました」】
7月に上京してきて、夏の間は「東京の人にCD100枚届ける」と目標を掲げ、路上ライブをやりまくり、結果1ヶ月半ほどで120枚を届けたそうだ。
「結芽乃ちゃんのCD、結構若い人向けでしっかり作られてるから、曲でハマる人は多そうなんだよね。めっちゃ路上もやってるし、なんかもっと上がっても良さそうな感じなんだけどなー。結芽乃ちゃんに火がついてるからさ」
「火?」
「上がってくる人ってさ、火がついてんのよ。「ビッグになります!」とか、口だけじゃなくて、誰が見ても努力してるなって分かるような行動を、本人は当たり前だと思って淡々とやってるの。周りの人はその火を見て、だんだんとそれに合わせて動くようになる。会社で出世するタイプと同じよ」
火は色んな形に変化する。
会社で出世するタイプは、求められることを淡々とこなし、尚且つその火をけして消さないで守れる人。グレない。落ちこぼれない。諦めない。水をかけられることもあるけれど、柔軟に変化しながら燃え続ける。
「会社で出世する人ってさ、自分から上に行こうとしてるんじゃなくて、上が抜けて下が入ってきてってときに、「この人にしか任せられないよね」ってなって必然的に上に行くんだよ。そのときに任せられるくらいの信頼を得ていなかったり、「今のままがいい」とか頑なに自分を通そうとする人は出世しない。わたしも自分で言うのもあれだけど、出世するタイプってか、出世してきた人間じゃん。日本一の店で」
「まぁそうだな。俺のほうが上だけど」
【日本一の店で日本一になる】という密かな夢を、目の前のこいつさえいなければわたしは叶えられていたのにと、今でも思う。
「だからあんた潰したかったもん、マジで」
「ひどいな」
経歴、年数には、どうしても勝てなかった。
だから結婚して、仲間にしたのだ。えっへん。
「アーティストもさ、広い目で見たら同じだと思うんだよね。上の方にいる人たちも、いつかは辞めるし、飽きられたりするから。音楽とか芸能とかって、常に新しいものを求めてるし、タイミングというか、チャンスが来たときに乗れるように、信頼と実績を積んでおくと良いかもね」
例えばテレビの取材が来たり、例えば大物芸能人に紹介されたり。
くれぐれも【30人規模のワンマンを月一でやれれば良い】などと言うアーティストにはならないでほしい。
そんな人、だれも紹介しない。
流れは突然やってくるかもしれない。
そのときに備えて、今は淡々と、やるべきことをやっておくといい。