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モテる人は相手の話をする
「ちょっと出かけてくるわ」
ドルオタの主人がわざわざわたしのいる部屋に来て言う。この場合、たぶんわたしに話を聞いてもらいたいのだと思う。
「なに、無銭?」
どうせ「ライブに行く」という報告なので、無銭ライブかどうかだけ確認する。
「無銭なんだけどなぁ、本当は行きたくないんだけどなぁ、Cちゃんに呼ばれたんだ」
Cちゃんというのは最近できた主人の新しい推しちゃんである。
「呼ばれたって何?」
「俺が昼にコンビニで見たキムチ鍋を、【辛そう】って書いてツイートしたんだ。そしたらその後Cちゃんが、俺がツイートしたのと同じキムチ鍋の写真をツイッターに上げたんだ」
「なにそれめっちゃ仕事できるじゃん」
「だろ? だから私信を回収しに行かないと」
【私信を回収】というオタクにしか分からないパワーワード。
「あんたもチョロいね」
「そういうのでオタクがつくってことを学んでもらうために行くんだよ」
「まぁたしかに。大事だね」
仕事のできるアイドルはこの【私信】が上手い。
オタクに「あ、俺のこと見てるわ」「俺に言ってるのか?」と思わせるテクニックである。
「梓だって最初の頃、俺がきなこもちの写真をあげたら、そのあときなこもちの写真あげてたんだぞ」
梓とは真っ白なキャンバス(もう解散した)というアイドルグループにいたアイドルである。ラストライブは幕張メッセだった。
「梓は私信の天才だよね。【大丈夫? 今日も頑張ってね】とか一言だけ書いて写真一緒にポストするじゃん。朝なんてオタクが「今日も社畜です」とかポストしてる時間だから、そんなときに【大丈夫? 今日も頑張ってね】なんて梓に言われたら、「おおおおおお俺のために言ってくれてるのかぁぁぁぁ」ってめっちゃテンション上がるよね」
「それができる奴は人気出るんだよな」
「ほんとそれ。自分の話しかしない奴なんて誰も好きにならないよね」
「じゃあ行ってくるわ」
「じゃあねー」
私信を回収しに出ていく主人。
自分の話ばかりする人はモテない。
「知ってもらいたい」「話を聞いてほしい」「見てほしい」
モテる人は相手の話をする。
「最近どうですか?」「大丈夫ですか?」「頑張ってくださいね」「何かいいことありました?」
私信は「あなたのことを見ていますよ」「あなたの話を聞きたいです」というサインである。
一部例外はいるけど、大体の人は自分に興味を持ってくれた人のことを好きになる。
【私信の回収】がライブに行く理由になるのだから、どれだけ私信を送れるかが大事である。
「このアイドルさんはきちんと私信を送っているか」
推すべきかどうかを判断する一つの基準です。色んなアイドルさんのアカウントをそんな目で見てみると面白くなります。