嵐の前の鳥羽の海で
自然環境リテラシー学 第3回
尾鷲回 プランB 9月16〜17日 実施
今回は、尾鷲の海で2泊3日のリテラシーとなる予定。久しぶりのシーカヤックに、ワクワクの止まらない夏休みを過ごしていました。
しかし、そんな中忍び寄る不穏な影。その影の正体は「台風14号」。勢力の強い台風は、私のワクワクした気持ちを吹き飛ばしていきました。サブタイトルにもある通り、なんとリテラシーの実施場所が尾鷲から的矢湾に変わってしまったのです。更に、実施日に近づくにつれ、台風が直撃するような予報に変わっていき、実施すら怪しい雰囲気が出てきてしまっていました。しかも、まだ一回しかやったことがないのに、台風のせいで波が高くなってしまったら転覆するのでは…という不安も襲い掛かります。
ですが、とりあえずは実施となったので、いざ的矢湾へ。さぁ、波乱の第3回リテラシー学の始まり、始まり…
1日目:嵐の前の静けさ
第3回初日は天気も良く、台風が近づいてきていることを忘れるほどでした。しかし、嵐の前は逆に天気が良くなると言われているので、油断せずに現地へ向かいました。
ただ、現地へ到着すると、それはそれは天気も良く、海も綺麗で気持ちの良い環境でした。正直、台風なんて近づいていないのでは?と疑ってしまうほどでした。
一通りのブリーフィングや準備を終え、いざシーカヤックに乗って出艇!…の前に柴田さんが今回のリテラシー学において、なぜここ的矢湾を選んだのかや、波の現状について解説してくれました。
その中でも、波についての解説はとても印象に残りました。
私のような素人がパッと見ると、少し高いものの、ごく普通の波にしか見えませんでした。しかし、柴田さん曰く、台風が近づいてきている時独特の波の立ち方をしているとのことでした(確かに言われてみるとそんな感じが…)。ただ、波が高いことに変わりはないので、大丈夫かなぁ…と思いつつ、カヤックに乗り込み出艇しました。
不安と共に出艇したものの、出艇後にそんな不安は吹き飛んでいきました。
波は高いもののそれがとても楽しく、逆に高い波があってコントロールが難しいからこそのスリルがたまりませんでした。更に、前回カヤックに乗った第一回リテラシー学の実施場所だった「マリーナ河芸」さんと違って、切り立った岸壁があったり、秘密基地がありそうな小さな浜辺があったりしていたため、ちょっとした冒険に出た気持ちになりました。
加えて、カヤックを漕いでいるすぐ近くを魚が跳ねたり、水面の手が届きそうなところをクラゲが悠々自適に漂っていたりと、普段陸にいる時には見れないような様子を見ることが出来たのがとても新鮮でした。
だいぶ漕ぎ進んだところで、無人浜に上陸をしました。
無人浜の広さはそこまで大きくなく、まさに秘密基地を作ったら楽しそうな広さでした(表現の仕方が難しい…)。上陸してからは自由時間だったので、無人浜の端のほうにあった岩場で生き物探しをしていました。生き物探しは楽しかったのですが、岩場がかなりゴツゴツしていて、足を挫きかけたのはここだけの話。ただ手を少し切ってしまったので、手袋を持って来ればよかったなぁと少し後悔していました。
無人浜での休息と遊びを終えた後は、無人浜のある場所からより奥の方を目指して漕ぎ進めました。
その道中でメンバーの1人と並走していると、そのメンバーのカヤック近くで魚が跳ね、ぶつかりそうになっていました。カヤックをする時には漁船などとの接触に気をつけなければいけませんが、それに加えて魚との接触にも気を配らないとなぁ…と思いました。
カヤックで漕いでいける限界まで進み、その帰り道でメンバーの写真をパシャリ。筏を組んでいたものの、転覆しかけたメンバーがいてちょっと焦ってしまいましたが、思い出に残る良い写真が撮れたと思います。
帰り道で先輩と来年の講義の話をしつつ、海藻を拾っていました。リテラシーとは関係ないのですが、海藻の種同定って難しいですね…。カヤックを漕ぎつつ、先輩から異なる二種類の海藻を貰って見比べていたのですが、同じ種類にしか見えませんでした(似たようなやつが多すぎる…)。
関係ない話はさておき、帰り道はかなり余裕がありました。
先輩や受講生のメンバーとも話しつつ、景色を楽しみ、クラゲを捕まえようとする。かなりほのぼのと航海を味わうことが出来たと思います。
そんな中、ふと前を見ると柴田さんが遠くの方まで漕ぎ進めていて、「やっぱりプロの人は漕ぐのが速いなぁ…」とポツリ。今回のリテラシーの後に、海回で柴田さんにお世話になった人に話を聞くと、リテラシーメンバーの漕ぐスピードは柴田さんにとってアイドリングストップなんだとか。いやぁ、プロって凄いですね…。
そして、今回のカヤックの航路がこちら。漕いでいる時はなんとも思っていなかったものの、いざ地図で見てみると鯨の姿のような航路をとっていたみたいです。
無事転覆することなく戻ってくることが出来、そこからはテントの設営に取り掛かりました。
ただ今回のテント設営、一筋縄ではいきませんでした。何故なら、台風の影響で風が強くなり始めていたから。グランドシートを引くことすらおぼつかず、せっかく立てたテントも油断をするとふっ飛ばされ、中には木にテントが引っかかっているという中々に混沌とした状況になっていました。
吹き飛ばされないように、土嚢に石を詰め込み、タープやテントを固定してはまた石を詰め込み固定する…。中々の肉体労働は流石に堪えました。テントの設営をしているうちに、気づけば周りは真っ暗に。飛ばされないようしっかりテントを固定した後は、いよいよ晩御飯の時間です。
リテラシー史上1番豪華な晩御飯
2日目以降の実施が絶望的になってしまったということもあり、晩御飯は当初2日目以降に食べるはずだった食料全てを使っての料理となりました。その量はリテラシー史上1番多くて豪華と言っても過言ではないと思います。ジャーマンポテトにスパゲッティ、丼の具にご飯…。満点の夜空の下、沢山の晩御飯に囲まれるのはとても幸せでした。
私のグループでは、ジャーマンポテトに使うジャガイモを少なくし、残りの分を揚げ焼きにして食べました。この揚げジャガイモ、ポテトチップよりも厚く、かと言ってフライドポテトよりは薄かったので、ポテトチップとフライドポテトの良いところを掛け合わせた様な美味しさでした。
夕食を終えた後は、世界の海をカヤックで旅してきた柴田さんによるトークショー。経験豊富なカヤック乗りの話すことは、一つ一つに重みや深みがあり、聞いていてとても面白いものでした。
その中でも、柴田さんの「沈」に対する意識はとても強いものだと思いました。
「沈」とは、カヤックに乗っている時に転覆してしまうことです。私たちが漕いできた海は水温が少し冷たいか、もしくは気持ちの良いほどの温度で、沈してしまってもそこまで問題はありません。しかし、柴田さんの漕いできた海は全てがそうというわけではなかったそうです。
水温は極度に低く、カヤックに乗り直すことが出来ても体温が持っていかれてしまうために、命すら危ぶまれるという海をも柴田さんは乗り越えてきたと話されました。その話の中で柴田さんは、「沈したら死の海を漕いできたからこそ、今の海(今回は的矢湾)で漕ぐときも絶対に沈をしない様にする」とおっしゃっていて、たとえ大丈夫な場所でも常に危険を意識して漕ぐその姿勢がとても印象的でした。
そのほかにも実際に漕いできた場所の写真を、その時のエピソードを添えて話してくださったり、カヤックとの出会いを話してくれたりと、短いながらもとても濃い時間を過ごすことが出来ました。
トークショーの後は自由時間。翌日は予定通り実施するのが絶望的であったため、とにかく夜更かしをするという時間になりました。一方ではグループで焚き火を囲みワイワイ話をしていて、もう一方ではのんびりと波打ち際の音を楽しみながらお喋りを楽しんだりと、各々が海の夜を堪能していました。
その中でも、海の夜を堪能し尽くしている人が2人。柴田さんとメンバーの1人が、浜辺で相撲を始めたのです。しかも、生半可な相撲ではなく、割と本気の相撲でした。突如として始まった「大相撲 的矢場所」。その熱狂具合は、もはや言葉では表せないほどのものでした。
夜更かしをしてもいいとは言われたものの、1〜2時を過ぎれば流石に睡魔が襲ってきました。最終的には睡魔に負け、ソロソロとテントの中へ。2日目が予定通り実施できるという一縷の望みを胸に、床につきました。
2日目:早めの撤退
2日目の朝を迎えた時は、まだ雨も降っておらず、なんとなく行けるかも?と思いました。しかし先輩に話を聞くと、風上の方の海はかなり荒れ、出港するのは危険であるとのことでした。結論としては早期撤退。残念ではあったものの、自然の力には勝てません。しかし、台風という自然現象を前に、安全のためにどうするかを先輩方や先生方が考えていたため、今回の様子をしっかりと目に焼き付け、いざという時に正しい判断を下せる様なスキルをつけていきたいと思いました。
帰り支度を終え、バスのくる時間まで待っていると、ポツポツと雨が降ってきました。雨が降ってきちゃったなぁ…と思っていた矢先、横降りの大雨に変わり、軒下にいても濡れてしまうほどになってしまいました。「確かに今日出航していたら、かなり危ない航海になっていたな…」と心の中で思いました。
後日、台風真っ只中の的矢湾の様子の動画が送られてきたのですが、もはやリテラシーどころの話ではないほどの荒れ様。早めの撤退をしておいてよかったです…。
今回は1泊2日の形にはなってしまったものの、夜更かししたり、豪華なご飯を食べたりと、また違った楽しさがあったのが良かったと思います。更に、自然の脅威を目の前にした中での予定組みを直で感じることが出来たという事も、普段のリテラシー学では中々学べなかったので、とても貴重な経験になりました。
しかし、折角なら2泊3日でカヤックを漕ぎたかったなぁ…という思いはなかなか消えません。台風、次会った時は覚えておけよ…。
○今回お世話になった場所
・浅利ヶ浜海浜公園
〒517-0032
三重県鳥羽市相差町819