生活習慣病管理#1 それで、糖尿病って何が怖いんですか?
意外なことに糖尿病の薬をなぜ飲んでいるのか、すぐ答えられない方が多いのです。『血糖まだ高いからな、薬増やしとくよ。はい、お大事に。』と先生言ってたけど。この6月から外来で生活習慣病管理という制度が始まりました。なんか計画書にサインされてるのではないでしょうか。国もいよいよ重症疾患の予防に本腰を入れ始めました。
まず、血糖とは血液の中の、ブドウ糖(グルコース)濃度です。よく果物は果糖(フルクトース)だから血糖が上がらない、だからいくら食べてもいい、と言われますが。それは違います。フルーツには、ブドウ糖、果糖、ショ糖(砂糖)が含まれています。果糖はブドウ糖を上昇させませんが、やはりブドウ糖と同じく代謝されて、中性脂肪として蓄積されます。しかも、です。ブドウ糖が上がると体に満腹感が生じて、食欲が抑えられます。ところが果糖をいくら食べても、ブドウ糖が上がらず満腹にならないため、どんどん食べてしまいます。そうなると、かえって果糖の方がよりタチが悪い、と思われませんか?果糖はコーラなど清涼飲料水に多く含まれています。血糖が上がらないから安心なんて到底言えないのです。本当は、果糖は油断がならないのです。
さて、いつもの通り糖尿病で最も危険なことからお話しします。脳卒中、心筋梗塞は誰でも知ってる最重症の病気です。元来血管は圧力が急にかかっても、柔軟に伸びて広がり、血液をうまく流すのが、血管の信条です。心臓がより多くの血液を送り出しても、体中の大小色々の血管が伸び縮みして、血圧が大きくは上がりません。健康時のそうした利点を失った硬く狭くなった血管は、上手く流せないどころか、圧力に負けて破裂してしまいます。これらは動脈硬化と言って、元々細い最終の先端の血管が硬く狭くなると、いかにも血が流れにくなりそう、と想像できるのではないですか?血液つまり酸素が不足すると、これはいけないと脳まで警告の信号が伝わって、心臓はもっと血液を送ろうと頑張り始めます。先の方の血管の圧力が上がり、それに耐えきれなくなった血管は。。。万事休すです。
そんな細くて硬くなった血管の一番先は、脳の一部の領域と眼の網膜にも行っています。脳では、脳出血、血液が流れなければ脳梗塞を引き起こします。網膜でも血管が詰まったり、出血を繰り返し、視力が落ちていき、ついには失明してしまいます。こうした血管の動脈硬化が至る所で起きてしまい、冠状動脈(心臓自体を養う血管)で起きれば心筋梗塞、大動脈の壁に生じれば大動脈解離や大動脈瘤の原因になることも、想像できると思います。こうした病気を総称して血管病と言っていますが、糖尿病が血管病の重要な原因であることを思うと、いかにも恐ろしいと感じられるでしょう。
ならば糖尿病の進行の度合いをチェックして、食事や運動、薬の調整をしていかねばなりませんね。他の病気も同じで、そう言ったことが生活習慣病管理なのです。特に糖尿病の進行は、目に見事に現れます。眼科の先生に眼底検査をしてもらえば、末梢血管の姿がまさに目の当たりに正しく評価できます。だから、眼底検査を定期的に受けることが推奨されています。
今回の制度では、特に歯周病管理が含まれています。なんで歯医者さんが糖尿病と関係があるの?と疑問ですよね。
個人的なことで恐縮ですが、私は敗血症性ショックという、感染症の最重症病態について研究していました。感染症が原因で、循環動態(難しい言葉ですが、心臓と血液の流れの状態)が最悪になる病気です。その時いつも決まって、感染源がどこなのか、が一番問題になります。原因が見つかれば手術などの対処が可能になるからです。全身の診察やレントゲン、CTを駆使して、感染源を血眼になって探すわけですが、感染源が不明の場合も実は少なくはありません。特に発見がとても難しかった例を2つ覚えています。
その一つが歯周病でした。もう一つは手足の指の間の関節炎でした。糖尿病では痛みを伝える神経が侵されて、本来なら痛いのが感じなくなります。糖尿病性神経症と言われています。痛みの症状が出なければ、そう言った細かい部分の感染に気づかないことがどうしても避けられません。その結果、感染源の発見が遅れてしまいます。歯周病菌の感染でも同じことが言えると思います。最近では歯周病自体の予防や治療が糖尿病を改善するとも言われています。
そもそもが糖尿病では感染に対する抵抗力が著しく落ちています。同じ感染症にかかっても、糖尿病それと肝硬変の患者さんは、どうしても回復しにくい、重症になると命を落とされる可能性が高い。それは医師の共通した認識だと思います。感染症が治りにくい、見つけにくいならば、早期に診断治療が重要です。コロナの時もこうした病気をお持ちの方はハイリスクとして別格扱いになってたのはそのためです。
糖尿病の恐ろしい点はまだまだ言い尽くせません。糖尿病性腎症、血行障害による足趾の壊死、糖尿病性ケトアシドーシス、については、また別項でお話しします。
糖尿病はとても怖い合併症を起こす病気だから。それが答えです。尿の量が異常に多い、不必要に多尿のため喉が渇く、体重が減ってきた(痩せてきた)、そうしたことが最初に自分で発見するきっかけになります。それはセルフ検査で十分可能です。より詳しくは、セルフメディケーション講座でお話ししたいと思います。
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2024年6月18日
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