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韓国と私⑥ remedyとしての音楽

0.noteはじめました こんばんは🌹6日目です 韓国と私⑥

 厳しい暑さが続いたこの夏、私を含め、疲れもピーク、という方も数多くいらっしゃるのではないかと思います。そんな時に聴きたいのはまさにこの曲。私のremedyとしての音楽「Jamis Vu」です。2019年に発売されたこの曲、BTSの「Jamis Vu」は、ジンとJ-HOPEとジョングクのユニット曲で、2022年に発売されたアルバム『Proof』CD-2の収録曲としてジンが「Moon」と共に選曲した曲です。
 この曲の歌い出し、冒頭は私の最愛ジンくんの美声で始まるので、まさしく、極めて個人的な感想で恐縮ですが、私にとって最上の薬としてのremedy songには間違いないのです。ジンくんも、この曲について、 「Jamis Vu」の歌詞にあるように、疲れ切って苦しくなった時は、いつだって僕を励ましてくれたBTSのメンバーとARMYの皆さんのことを想って、これからもよい音楽を作っていきたいです、と述べています。
 治癒や治療としての音楽、remedyとしての音楽は、それぞれお好きな曲がおありになると思います。1990年代後半、慶應義塾大学でご講義を拝聴した芥川賞作家の故日野啓三氏がその当時バッハを愛聴されているとお伺いし、その表現がまさしく治癒的な音楽鑑賞をされているのではないか、という、強い印象を受けました。それからも、とりわけ、クラシック音楽をご自身のremedyとしての音楽として、大切に、大事にお聴きになっている方々に出会いましたが、そのエピソードをお伺いするたびに、特にバッハに対する想いに触れるごとに、作家日野啓三氏のバッハ愛溢れるお言葉が甦り、既視感に包まれます。

1.韓国と私⑥ デジャ・ヴュの反対語としてのジャメ・ヴュ

 バッハがお好き、と異なる方から伺うたび既視感に包まれる私のように、デジャ・ヴュという言葉はよく耳にします。最近では、米国のオリビア・ロドリコの同名曲「Deja vu」が秀逸でしたが、反対の言葉であるジャメ・ヴュはフランス語で「未視感」「未視体験」という意味を表し、日常で見慣れたものをまるで初めて見たと感じる体験を指します。
 そもそも、この曲のタイトル、BTSの「Jamis Vu」のジャメ・ヴュはフランス語の言葉通り、BTSの表現世界を日常的に触れていたはずなのに、発表時まるで初めて接したように感じる楽曲でした。大好きなジンの美声シルバーヴォイスも、ジョングクの卓越した歌唱力もJ-HOPEの優れたラップもバックコーラスも聴き慣れていたはずなのに、まるで今初めてその表現に触れたような初々しさ。remedyと歌詞内で何度も繰り返されるので、まさしくremedy songには間違いないのですが、ずっと同じグループの曲を聴いてきたのに、まさしく「Jamis Vu」、ジャメ・ヴュ、そのものの体験でした。

2.韓国と私⑥ 音楽を贈る、ということ

 自分への薬、治療や治癒として、remedyとして音楽を聴くことは、よくあることだと思います。疲れた自分へ、音楽を贈る、という感じでしょうか。一日が終わって、ほっと一息ついて、好きな音楽を自分で聴くことこそ、自分へ音楽を贈る、ということかもしれません。前回書かせていただいた韓国ドラマ『愛の挨拶』でも、国文科専攻の大学生達が、文学だけでなく、音楽に対して深く関わっていくことも強調され、丁寧な描写と共に描かれます。 
 舞台は1994年の韓国ソウル。ジンくんは1992年生まれですから、彼が幼い頃の、ドラマで描かれたレコード屋さんには、クラシック音楽や洋楽を中心に、カセットテープやLP、CDなどが豊富に並んでいました。そのお店は、主人公の国文科の大学生ヨンミンの姉が経営する街のレコード屋さんで、大学生達のたまり場にもなっています。ヨンミンを演じるペ・ヨンジュン氏は、同じ学科で幼なじみのヘミンにショパンの『雨だれの前奏曲』のCDを誕生日にプレゼントするものの、姉の店の包み紙を見たヘミンは「あら、お姉さんからのプレゼントね。お礼を言っておいてね」とつれない態度。大学の音楽鑑賞室のDJを担当するヘミンがショパンを好きと知り、とりわけ彼女が好きな前奏曲を贈るヨンミンの姿をはじめ、1994年、1995年当時の大学生達がいかに音楽を愛し、さも嬉しそうにお気に入りのLPやCDのアルバムを買ったり、時には心を込めて友人や恋人に好きなLPやCDなどの音楽を贈る風景が牧歌的に描かれます。今の様なSportifyなどサブスクがない当時として、とても微笑ましい情景でした。私も、NHKFMのリクエスト番組で仕事をしていた当時の癖で、今も、音源をCDで持っていたいタイプ。特に、2022年に発売されたアルバム『Proof』CD-3の収録曲「Epiphany(Jin Demo Ver.)」は感動でした。大の「Epiphany」好きとしては、英語の歌詞の Demo Ver.に感涙そのものだったのです。

3.韓国と私⑥ 文学と音楽と映像制作と建築とデザインと

 韓国ドラマ『愛の挨拶』は、クラシック音楽、特にショパンとジョルジュ・サンドの関係が言及され、文学と音楽に対する感性が重要です。同じように、映像を撮影、編集する大学生も音楽のMV監督として登場しますし、それは、美しい女性を撮るフィクションだったり農村出身の大学生を撮るノンフィクションだったりします。この『愛の挨拶』を監督したユ・ソクホ氏は、きちんと劇中で、エルガーの「愛の挨拶」を流していますし、のちに大ヒットした『冬のソナタ』では、高校の放送部員がお昼の放送にアバの「ダンシング・クィーン」を流すだけでなく、オリジナルのピアノのタイトル曲
を効果的に使ったことが特筆されます。さらに、『冬のソナタ』では、文学ではなく、建築を学んだ建築家の感性が存分に描かれ、名セリフ「あなたの心に建てる家」という比喩表現が当時有名になりました。
 私の身近でも、一級建築士の建築家の方が、自身で設計した住宅や店舗、博物館や美術館の解説をされると、その言語表現の豊かさに目を瞠ります。大抵、そういう感性豊かな優れた建築家の方は、同じ建築家の方をはじめ、宝石や洋服のデザイナーの方がパートナーだったり親しいご友人だったりして、その普段の生活や何気ない会話から、常にクリエイティヴな環境に身を置かれていることをしみじみ実感させられます。
 芸術的な発想、という事を大切に作られている韓国ドラマ『愛の挨拶』。現在から見ると、古い時代の韓国ではあるのですが、単に古いと一蹴せず、当時の音楽の受容の仕方一つをとっても、現在のバンタンをはじめとするKPOPの世界的成功の萌芽をも感じられる作品であることを忘れてはならないと思います。古いドラマにも「既視感」ならぬ、新しい「未視感」があること。それは、ちょっとした、嬉しい発見には違いありません。
(韓国と私⑦に続く)

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