
人間中心設計(HCD)の学習における、新しいマインドセットの獲得
本記事は、特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)のコラムに寄稿した文章を、事務局の許可をいただいたうえで転載しました。なお、転載に際しては、掲載媒体の違いと特性を踏まえて、補足のための文言や図版を適宜加えております。
私は普段、様々な組織の皆様が人間中心設計(HCD:Human Centered Design)の考え方を業務で活用できるようになるための人材育成活動、つまり研修やライブトレーニングに携わっております。
人間中心設計(HCD)を学ぶ研修やライブトレーニングというと、インタビューや観察の練習から初めて、価値マップやカスタマージャーニーマップ等を用いた分析、アイディエーション、プロトタイピングと一連のサイクルを実施することが概ね定番と言えるかもしれません。ただ、教える側と教わる側の双方にとって最も難しいことは、そのような概念や手法の習得ではなく、「マインドセットの獲得」です。
これは人間中心設計(HCD)に限らず、デザイン思考・サービスデザインなどデザインの方法論全般について言えることですが、デザインというものには、論理的な思考法に基いて考えるマインドセットとは、相反する様々な要素が含まれます。
仮説を探索・発見するための発散的な思考、課題定義から検証に至る過程を1回限りではなく反復することの重要性、何らかの仮説をもとに「まず、手を動かしてカタチにしてみる・やってみる」というスタンスなど。これらはデザインという行為を実践する際の基本的な姿勢ですが、いずれにせよ、正しい解は何かしらの基準や指標から演繹的に導出されるという考え方とは大きく異なります。

この違いを理解することは学ぶ側にとっては、今までない新しいマインドセットの獲得にあたり、人によっては障壁を感じさせる場合もあるでしょう。しかし、その過程を踏まないまま、人間中心設計もしくはデザイン全般にまつわる様々な概念・手法を学ぶだけでは、プロセスを表層的になぞるだけの実践に陥る可能性も孕んでいると考えます。そのため、私は研修やライブトレーニングの場では、学ばれる皆様に向けて、「人間中心設計のようなデザインプロセスには、みなさんが慣れ親しまれてる従来の考え方・やり方とは、(おそらく)異なる要素も多く含まれている」ということを、手法や概念の説明に入る前に丁寧に伝えるよう意識しております。
人間中心の価値観に根ざして、新しいマインドセットの獲得や態度変容を促すための人材育成活動はどうあるべきか、今後さらに深めていきたいと考えております。