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女神達への情歌(報道されないY型の彼方へ)

<イントロダクション>

桑田佳祐
「ベスト3に入りますよ、自分の作った曲の中では」(1999年)

桑田佳祐
「僕が思うサザンのベスト5に入るナンバーですよ。
これをやっている時の門倉君と菅原君の相性が僕にすごく合った。
これ以上言うと、コード進行がどうのとか、何だかワケがわからなくなっちゃうけど、まずコード進行はイイよね(笑)。あとガットギターでやったリフ。それとあとは歌詞とコーラス。
あらゆる出来映えを考えてベストテイクだと思うもん。」(1992年)

今まで色々な場面で、この曲はフェイバリットである事を桑田佳祐自身が語っている。とにかくこのレコーディングは楽しかったと。

<詞>

一言でいうと「AV賛歌」。素晴らしい!最高!エラい!スケベ!
しかし、それだけではない。

桑田佳祐
「最近のAVギャル。なんでこんなにキレイなの。レコーディングしてればそういう話題になりますから。彼女たちってもう“有象無象”じゃないでしょう。今のバンドもAVギャルも、いいのがいっぱいいるから目立たないっていうのがあるじゃない。

で、それってなんか現代のカルチャーと同じじゃない。もう巨大な象徴はいらないというか。昔ならばケネディとかマリリンモンローとか、そういう巨大でシンボリックな存在がいたけど、今は時代がそれを呼んでいない。
時代が呼んでるのは非常にコンビニエントなものでしょ。マンションの一室とモニターとちょっとした消費財。それがぼくらを含めて中堅どころ社会人のステイタスだったりするわけでしょ。
世界のニュースから何から、ビデオをピッとやればまかなえる。密閉された中での熱狂というか。それを皮肉ってやりたいってのはありましたね。」(1989年)

スケベなだけじゃなかったのねえ~。

サザン名義でのTOMY SNYDERの補作詩もこれが初作品。詞に出てくる「Videofy」は造語だそうで。

また、日本語詞における韻の踏み方は相変わらず目をみはるものがある。

<曲・アレンジ>

桑田佳祐
「デビュー以前のサザンをね、やりたいっていう・・・。ブルースっていうか、そういう古くせえもんをやりたいと思った。クールなんだけど熱い!っていう。」(1989年)

桑田佳祐
「(前年に『みんなのうた』、復活祭があって)今年1989年にレコードとしてサザンが復活するんだけど、そのためのハズミをつけるためにこのシングルを慎重にやりたかった。メンバーが集まった時に言ったんだけど、設計図を引くようにアレンジをやろうって話をしたんだよね。せーので全員でボカーンとやって終わりじゃなくね。」

-「みんなのうた」はそういう作り方だったよね。せーのって。

「そうだね。あの時は違う勢いがあったからね。要するにマスコミ的なアオリもあったりして、うまくノせられましたから(笑)。ノせられたっていうか、違うハッピーさがあったからね。ただ、正直言うとガッカリしたんだ、俺は『みんなのうた』に。」

-自分で?

「うん。いろんな意味でね、何か違うと。
もっとメンバーが自分の力で自分の好きな事をやるっていう。グループとして集まってワーッとやるっていうのは楽しそうなんだけど、やっぱり世の中に出すレコードとして納得のいくものを作りたいっていうか。今年はもう一度出直しっていうか。
デビューアルバムってものにものすごく憧れがあるんだよね。俺は個人的に。ぼくらが好きなブルースとかロックンロールとかを、この10年間キチッとやったことがなかったっていうのがすごくあって。デビューした頃にめざしたものがね。自分たちもマスコミに登場したサザンに合わせて自分たちをコントロールしだしたところがあったじゃないですか。それはとっても楽しかったけど、ほんのちょっぴり残念だった。やっぱりブルースとか、暗い音楽ね、体験音楽、自分たちでやることに意味があるっていう音楽のフィールドだね。だってサザンロックのサザンなんだから、そうやりたいなって、いまさら(笑)。サザンロックのサザンはいつしか南のサーフィンの方にいっちゃったんだ(笑)。そっちの方の業界に流れちゃった。それは俺も悪いんだけど、いつしか加山雄三と並べられることに快感を覚えてきましたからね。
でも本来、グレッグオールマンのつぶやきとか、レオンラッセルとかのバター犬のようなボーカル、何というか女性の恥部をなめるような歌い方というか、バンドというか、ネトネトしたのがやりたくなったわけですよ。」

-ネトネトしてて、設計図があるってややこしいね。

「ややこしいよね。ただやっぱりブルースって形をとりたかった。あのね、ブルースってリトルフィートとか、レッドツェッペリンとか、みんなやってるんだよ、アルバムの中で。ところがさ、ブルースに聞こえないのよ。特に白人がやると。いくらいろんなことやっても、ブルースがそのバンドの本性を出してしまうところがある。俺、そう思ったの。だから今、サザンのブルースをやりたいなあって。」

-1枚目のアルバムにはそれがあったと思うけど

「何となくね。ただ1枚目には“筋肉”みたいな部分がすごく見える。サザンっていうのはだんだん時間が経つにつれて、筋肉っていうよりも“神経”とかさ、そっちの方向を漂わせてきたでしょ。それで(サザンのブランクの間にKUWATABANDとかソロを経験して)サザンオールスターズを客観的に見ると、今、何をやったらいいのかなっていうと。『勝手にシンドバッド』以前の筋肉をね。」(1989年)

桑田佳祐
「(日本の音楽シーンが細分化され)今はその辺の微妙なテイストの違いを、みんな嗅ぎ分けてるでしょ。受け取る側の感覚とか、マスコミの意識とか、あとミュージシャン本人たちの出どころが変わってきたとか。立ちはだかる歌謡曲の巨大な壁っていうのも、今はもうないしね。とにかく、そういう音楽性の差とか違いとかをあえて極端に打ち出しながら、産業ロックの法則に乗っ取って活動しなくてもわかってもらえる時代なんじゃないか、と。産業ロック=歌謡曲だからさ。その法則に乗っ取ってがんばるっていうのはね。今となっては、あんまり刺激ないし。」(1989年)

ここで、またおなじみ「産業ロック(!)」という言葉が登場してくれる。
よほど「みんなのうた」には懲りたのか(笑)。
しかし、この言葉と裏腹にその後もサザンは産業ロック街道をバリバリ爆進中である(笑)。

桑田佳祐
「ほら、今も年寄りのミュージシャンが根強くやってるでしょ。キース・リチャーズとか、スティーブ・ウインウッドとか、ブライアン・ウイルソンとか。自分の世代と自分の音楽に対して忠実な姿っていうか。そういうものを平然と出しているじゃない。ナチュラルだなって思うわけ。
サザンも、まあ去年復活して、横浜球場なんかでライブやったでしょ。で、何万人って客とみんなで『Oh ! クラウディア』を歌ってしまうという世界にいよいよ来てしまったから。なんか、こう、全日本プロレスみたいになってきちゃって(笑)。馬場が16文キックやると、それだけで“おーっ”っていう世界が。それはそれでうれしいんだけど、同時にそういうパターンだけにおちこんでしまうといかんなって匂いをすごく感じたわけ。ある種、グランドテクニックというか、関節ワザとか、渋いところもちょっと繰り出さなきゃ。」(1989年)

萩原健太氏いわく「往年のリトルフィートを彷彿させるブルージィなサウンドに、ビーチボーイズ的なコーラスが絡むという、なんともプログレッシブな仕上がり」という作品で、ブルースというルーズなフィーリングでありながら、アレンジは偏執狂的完璧主義型だという、このパラドクスがすごい。「設計図を引くようにアレンジをやろう」と言っているとおり、シンプルで無駄のないアレンジである。イントロは形態こそ違うがリトルフィートの「ディキシーチキン」を彷彿とさせる。(単にキーが一緒だからかもしれないが・・)

ちなみに冒頭のコメントに登場する門倉聡(キーボード)と菅原弘明(コンピューターオペレーション)とはこれが初仕事。

この曲のポイントは何と言っても桑田佳祐の一人多重コーラスであろう。これにさきがけ、前年のソロアルバムの「今でも君を愛してる」で、初の一人多重コーラスを試みているが、本格的に全編にわたり、やったのはこれが初めて。

「ちょいとビーチボーイズの気分でやってみました。」(1999年)

その後、現在に至るまで、サザン作品におけるコーラスの多くを占めているのが桑田佳祐の一人多重コーラスであることを考えると、非常に重要な試金石の楽曲であったと思われる。ちなみにエンディング部のコーラスはマンハッタン・トランスファーの「BOY FROM NEW YORK CITY」を思い起こさせる。

また、原点回帰や、デビュー作の認容の発言。はたまた、カブト虫アルバムへのパイロット的役割であった事を考えるにつけ、強いてはその後のサザンの活動全般に大きく影響している事は間違いない。小品ながら優れた一曲である。

<背景>
シングルCDと同時にシングルビデオもリリース。ビデオにはAV女優である松本まりなが出演した。

「かねてからの念願だったビデオギャルとの共演を実現させただけっていう噂もあるんだけど(笑)。普段、サザンのメンバーなんてビデオの仕事を異常にいやがるくせに、今回はノリが違ったもんね。ハラ坊はともあれ、男のメンバー5人の結束力が一段と増しちゃって。やっぱ芸術より性欲ですよ(笑)。」(1989年)

余談であるが、発売日が1989年4月12日になったのは、当初は2月には発売される予定だったが、この年の4月1日から消費税が導入された事の余波で、価格設定等の絡みで、そうなってしまったようである。ブルースやなあ~。

<私見>
私、個人的に書かせていただきますと
「この曲、最高!!」
私の中でもサザンの楽曲ではベスト5に入っちゃうなあ。
まず、タイトルがいい!詞よし、メロよし、ボーカルよし、アレンジよし、コーラスよし。そして何と言っても、桑田さん自身が自分でホントにやりたい事やってて、それをシングルでリリースしたという点が最大に評価している。すべてよし!!

<資料提供:陸ちゃん>

<1999.05.02記>

もちろんデビュー前からそうだったが、デビューしてから数年の間、『桑田佳祐=ブルースの人』という世界線があって。
「俺たちの音楽的趣味を分かってくれよー」としきりにブルースを前面に打ち出していた割にはファンには全く受け入れられなく、あんなお祭りバンドみたいな感じになっちゃったんだけど…。

これまでに何度か1stアルバム『熱い胸さわぎ』への回帰を口にし、度々デビュー前後の感覚感触の話題を口に出してきた。それはとどのつまり「ブルース」なのである。

「デビュー以前〜ブルース〜設計図を引くようにアレンジ~蟻の子一匹這い出さないアレンジ~最新のテクノロジー~一人多重コーラス」
このキーワードをつなぎ合わせてみると行き着くのはドナルド・フェイゲン「Ruby Baby」かなあ。ドリフターズも大枠で捉えるとブルースっちゃブルースだからねえ。

<2024.11.21追記>

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