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桑田佳祐とビートルズ Vol.01

これは桑田佳祐がビートルズ関連の書籍に寄稿した文章で題名のとおり、ジョンレノンが射殺された翌年の1981年4月4日に書かれ、『もし自分が今、ビートルズのアルバムをリリースするなら』というイメージで書かれたものと思われる。
この、ねじ曲がったビートルズ観。これこそが彼の音楽観そのものだと私は感じる。とてもピュアだ・・・・。

「The Beatles Album,Release '81.4.4.」

サイドA

<A-1 Things I said today>
 ジョンが死んだことで、なぜかポールが引き合いに出され、そのたび、幼稚とか、コマーシャルに走り過ぎとか、言われている。
冗談ではない。ジョンがビートルズという言い方があるなら、ポールがビートルズだ。
強いて選べと言えばジョンを選んできた僕も、今、このことだけは吐かずにいられない。
ジョンの話は、ポールを認めてからのことだ。頼むよ・・・って、言いたい。

<A-2 They're so heavy>
 勿論、残念なジョンの死がきっかけだが、最近、先のポールへの様々な言葉で、ビートルズらしさとはなんだったのか、ということをしきりに考えるようになっている。
あのストロングタイプ、フリースタイルのミュージックは、とても一言では言えそうにない。
ポールも、ジョンも重い。ヘビーという言葉にしてしまうと、またまとまり過ぎてしまうほど重いのだ。

<A-3 I'm lookin' through you>
 あの日以来、「ラバーソウル」の音が突然優しくなった。
ビートルズをその流れと共に体験してきた人たちからは、そもそも「ラバーソウル」は優しかったと聞いていた。
しかし僕には、それまでやっぱりヘビーだった。
どんな重みがとれて、そのかわり、どんな温もりが表れてきたんだろう。
感じの中で言えば、前者がジョンで後者がポール!?いや、それも絶対違う。

<A-4 They're in black>
 「ユーキャントドゥザット」「デビルインハーハート」・・
僕らは、いつもこんな曲を好んで演奏していた。マイナーだけど黒い曲だ。
そしてその歌い方とヴォーカルが、僕らにはすごくよくわかったような気がした。
 ソウルフル、ハートフル・・いや、そんなもんじゃないんだ。
それ以前のところで僕らの身体が、ビートルズの黒さに、応えていたような気がする。

<A-5 Because>
 世界が丸いから、僕にのしかかってくる。風が激しいから、僕の心も、吹かれる・・・
「ビコーズ」の体験。見に覚えがあるんだ。とてもよくわかるんだ。
 ジョンは東洋的だ。そしてそんなジョンがそんな声で歌うから、僕も泣けてくるんだ。
 ラブイズオール、ラブイズ・・・、ラブイズ・・・ジョンがくれた世界の中だ。
 今日も空、青い山。

サイドB

<B-1 Come Together>
 ジョンの止まりをしらない空想が好きだ。
こうするとこうなるだろう、するとボクはこうするから彼女たちはこうこたえるだろうか、
困ったな、そしたらどうしよう、愛してる心、途中でわかってもらえなくなってしまうのではないかな、
それなら飾りもなにもなしにありのままボクを伝えようか、いやいや、それはこわいから、やっぱりああしようかな・・・
僕も実は性格が似ているんだ。

<B-2 Goodday Paul Shine>
 ところでポールのいつも春めいた雰囲気も羨ましいほど好きだ。
 まるで太陽だ。あったかい陽ざし。暑くない、あったかい陽ざしだ。
 のどかだ。それに、のどかでなければいけない、とでも言っているようだ。
 ところでポールのいつも春めいた雰囲気も羨ましいほど好きだ。

<B-3 We wanna be Your style, man>
 ハッキリ言って、リンゴって滅茶苦茶カッコいいドラマーだ。
あれさえやってればいいっていう感じで叩いている。不足なし、余りなし。
要するに、そこで叩いている。
「アイムダウン」のドラム、本気で聞いたこと、あるかい!?
僕らがめざす音っていうのも、リンゴがサジェストしてくれている部分がある。
そうさ、叩き出す音も、絶対にいいんだ!

<B-4 Long and Winding road>
 「ロングアンドワインディングロード」はブルースなんだ。半端じゃない。
あれはレイチャールズが歌っても似合う歌だ。クラプトンでも、いい。
 ドロドロ、混沌、哀愁の底からの声。たまらなくいい。
 僕も、行きたい。その境地に達したい。ポールやレイチャールズ、クラプトンのヴォーカルの出所に。

<B-5 Good morning,good morning>
 僕はうぬぼれている。彼らの理解者として他の人にも負けない。彼らの気持ちを代弁してあげられる。
 時代が違う、って!?そんなことはない。
 雨の日、舗道が光っている。10メートル先を歩く人の影が、その面でかすかに揺らぐ。
 こんな情景、今も60年代も、ちっとも変わりはないじゃないか。言うことないよ、もう。でも気分はOKさ!

<2000.05.09記>


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