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愛撫と殺意の交差点

<詞>

今や、桑田佳祐のお得意となった現代日本を切り取ってコラージュして行く「日本の闇と病み」シリーズ(←私が勝手にそう呼んでいるだけ)の、おそらく一番根源となる作品。後の「ニッポンのヒール」~「漫画ドリーム」~「貧乏ブルース」~「汚れた台所」~「YARLEN SHUFFLE」~「爆笑アイランド」等々へと発展していく。

このような作品の場合、それらの“社会悪”を声高に叫ぶわけでも、糾弾するわけでもなく、事実をただ淡々と羅列して、ただ淡々と韻を踏んでいくだけ、という手法を多く使う。これは、現象を茶化したり、自分の考えを押し付けたりするというよりは、余白(“行間”ともいう)を聞き手の感性に委ねているということを忘れてはならない。
これが桑田佳祐のポップミュージックであり、エンターテインメントである所以なのである。

<曲>

まず、前提として書いておくが、この時期の桑田佳祐はホントに尖った発言が多かった。
ソロアルバムのプロモーションのためのロングインタビューなのだが、折しも「みんなのうた」リリース、復活祭のリハーサル、それらのプロモーション等々、精神的にグシャグシャになっていた頃なのか、(←「みんなのうた」の項参照)桑田佳祐のいらついている姿が如実に表れている。

―このアルバムには、ビートルズの影が見え隠れしてますよね。<愛撫と殺意の交差点>は、<サージェントペパーズ・・><マジカルミステリーツアー>の頃のビートルズのオマージュとも取れるように思うんですけど。

桑田佳祐
「別にそうじゃないんだけどね。<愛撫と殺意の交差点>に関してひとつ言うと、あれはブルースなの。勘違いした。
ほら、ポールマッカートニーの<ラム>の中に<三本足>って曲があったじゃない?俺さ、昔からあの曲がキライでね。<ラム>を聴く時、いつもあの曲だけとばしてたの。ただ、ずっと気になっていたんだ、あのブルースっぽい曲のこと。
それとリトルフィートの<セイリンシューズ>の中に<アポリティカル・ブルース>っていう曲があるでしょ?あれも必ずとばしての。“やっぱりリトルフィートはファンキーにやってくれないと、ダメだ”とか言って。
ローリングストーンズの<スティッキー・フィンガーズ>に入ってる<ユー・ゴッタ・ムーブ>もそう。あれって、ちっとも良くないブルースだったでしょ?全然正統派のブルースじゃないのね。あの曲もイヤでイヤで、いつもとばしてた。

でも、これらの半端なブルースが今になって良く思えたの。ブルースの解釈なんて、人それぞれでいいんだって思った。
で、俺も<愛撫と殺意の交差点>っていう自分なりのブルースをやったの」

―どうしてそれらの曲をとばしちゃったんでしょうね。

桑田佳祐「ポップじゃないし、キタナイから。あれって、レコード買う人間をなめてるもの。だから必ずとばしてたの。でも、よく考えてみると、あれってとんでもないことなんだよね。あんな最低の曲をあんな最低の解釈でやるっていうことは、さ。きっと本人たちは本気で楽しんでたんだと思うの。ああいうブルースをやることを。

これはあくまでも仮説なんだけど、ああいうへんなブルースに比べると、ポールマッカートニーの<アナザーデイ>とか、エリッククラプトンの<レイラ>とかは、けっこう色気出して作った曲って気がする。もちろん、それは悪いことじゃないけどさ。でも、そのぶん<アナザーデイ>や<レイラ>は、今や季節の風物になっちゃってる気がする。
その点、ポールマッカートニーやリトルフィートやローリングストーンズがやっていたブルースって、なんか永遠のものなんだよね。俺に言わせてもらうと。」

―それじゃ、このアルバムを買った人も<愛撫と殺意の交差点>だけは、とばしてしまうかもしれない。

桑田佳祐「そうかもね。俺、仮説たてたの。きっとみんなこの曲をとばすだろうって。俺らの頃は、CDなんてなかったから、わざわざターンテーブルのとこまで行って、とばしたじゃない?でも、今はCDだから、もっと楽にとばせるよね。もしとばしてくれたら、俺としてはしてやったりなんだけどね。」(1988年)

すんげぇー、皮肉たっぷり(笑)。
上記の発言はロングインタビューからの一部抜粋なのだが、実は、この時のインタビューは、最初から最後まで、かなりズバズバと本音を吐き捨てるような過激な皮肉な発言ばかりであった。
そういったニュアンスで読んで下さい・・。

この日がたまたま機嫌が悪かったのか?インタビュアーとの相性が悪かったのか?いずれにせよ、いつものようなファンに対しての気づかいを全く見せない、オール本音のインタビュー。こういうのが私、一番好きです。

<1999.12.30 記>

桑田佳祐
「オレがブルースをやるとどうなるか、みたいなさ、それで気軽に作ったもんなんですよ。スリーコードでブルースやるとさ、とたんに人間性が出ちゃうみたいな事あるでしょ。ポールマッカートニーのブルースとジョンレノンのブルースは全然違うし、ブルースって題材としてすごく興味深いでしょ。」(1988年)

個人的な話で恐縮だが、リリース当時から私、この歌がホントに大好きで。
歌詞の構築の仕方が1988年には斬新で、冗長でなく俳句のような世界で名フレーズ揃い。特に「享楽の病に怯えて防具」が秀逸で。韻を踏みつつ当時の世相を1行で言い表している。しかもコミカル、シニカル、そしてエロ。

また上記で桑田本人は否定しているが、しかしやはり狂気をはらんだビートリーなサウンド。そこに絡む竹内まりやのコーラス。88年復活祭のソロコーナーではブギ調にアレンジされたバージョンもカッコよかったのだ。

今、これを書きながら気が付いたのだが、この曲って翌年の「女神達への情歌」の助走になっていたのかなあ?ブルースについて書きたい事がたくさんあるがまた今度。

<2024.10.21 追記>

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