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通過儀礼を自己言及的に描く―レミオロメン「3月9日」のMV
2004年にリリースされて、今や卒業式ソングの定番ともなっているのが、レミオロメンの「3月9日」である。なあんて書いたが、流行りに疎い私は、発表から20年も経って、こちらの曲を知り、つい最近、ミュージックビデオを見た。
ミュージックビデオには、ブレイク前の堀北真希がすっぴんに見える姿で出演している。私は彼女を2005年のテレビドラマ「野ブタ。をプロデュース」で知った。根暗な女子高生が華麗に変身していくさまを演じており、彼女の演技力にびっくりした覚えがある。
ミュージックビデオは、3月9日に一人の女性が高校の卒業式を迎え、同じ日に彼女の姉が結婚式を執り行うさまを描いている。姉妹が人生における新たなステージに移行する、通過儀礼をわずか1日に凝縮して描いて見せたといえよう。
興味深いのは、堀北真希演じる妹が、姉の結婚式の様子をビデオカメラで撮影していることである。妹がビデオカメラで式を撮影している様子を撮影するという、メタビデオというべき設定になっているのである。撮影するということに非常に自覚的なのである。
結婚後の新居で姉がホームビデオを見るシーンについても、同様の自己言及性が見られる。ホームビデオには、姉妹がひとつのブランコに楽しそうに乗っている様子がおさめられている。幼い頃、おそらく両親によって撮影されたビデオを見ている姉をカメラが撮影しているのである。
姉妹が幼い頃は、両親のいずれかが二人の姿を記録することで、無償の愛を示した。姉妹は成長し、今度は妹が姉の姿を記録することで、姉に対する無償の愛を示しているといえよう。
姉妹が二人でブランコを漕ぐ様子は、ジャン・ルノワールの『ピクニック』(1946)へのオマージュであろう。『ピクニック』で若い女性が一人でブランコを漕ぐシーン(予告編の33〜38秒)を二人の子供がブランコを漕ぐシーンへとパロディ化したものといえる。
二人でブランコを漕ぐほど仲がよく、息の合っていた姉妹は、もしかしたらその仲のよさのゆえに、同じ日に通過儀礼を経験することになったのかもしれない。二人の心情がシンクロしていることは、二人が同じ時間に青空に白く見える月を見ていることからもわかる。二人が同時に見上げるのが、太陽ではなく、女性の体に大きな影響を与える月であるのも興味深い。
妹は姉に結婚式の際にビデオを撮影するが、妹が自宅に戻り、クローゼットを開けると、姉からのプレゼントである真新しいスーツがかかっている。姉妹が通過儀礼に際して、互いに愛を贈り合っていることがわかる。
ラスト、妹は姉がプレゼントしてくれた黒いスーツに身を包み、定期入れには「3月9日」で期限が切れた古い定期券の上に新しい定期券を入れて、電車に飛び乗る。妹の高校の卒業式で始まったビデオは、大学の入学式に向かう妹の姿を映し出して終わるのである。
わずか4分のミュージックビデオだけれど、ストーリー性があり、ずいぶんと映画的だなあと思った。調べると、監督されたのは、映画『重力ピエロ』(2009)などを手がけた森淳一氏だという。映画を手がけている方だからこそ、先行する映画にオマージュを捧げ、撮影することに言及しているのだと気がついた。みなさんもわずか4分の映像の小旅行を楽しまれてはいかがでしょうか?