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降水確率0%の通り雨3《君の遠雷 僕の健忘性体質》2

「漂っていたんです、私。気が付いた時には舟の中にいて、その舟も消えてしまいました」
「え、どういうこと?舟が家だったてこと?」
「いえ、舟に乗り込む記憶はあるので、家はどこかにあるのでしょう。でも、どこにあるかはわかりません。」
「舟は座礁したのかしら、お怪我とかはなかったのですか」
「それが、気が付いた時にはあの海岸に立っていて、ぼーっとしていたら、あの方に声をかけられて、」
「そうよ、あの男、」
どん、いきなり衝撃が走る。
「なに!」
『おい!変な女』
外から大きな声が聞こえてきた。窓から外を見ると、さっきの男が、あきつたちの飛空艇に蹴りを入れている。たかが蹴りなのにすごい衝撃だ。
「でてこいよ、話があるんだ」
「私が行く」
「あきつ」
「あまねはここにいて、大丈夫、すぐに追い返すから」
あきつはひらりと外へ飛び出す。
「あまねに何の用?」
「あいつ、あまねっていうのか。まあいい、つれてこいよ」
「しつこいわね」
あきつが長鋏を宙にだした。
「おとなしく帰んなさい、はっ」
男に攻撃を仕掛けるが、ぎりぎりのところで避けられてしまう。
「この、ちょこまかと、だまってやられなさい」
「馬鹿か、そんな奴いるか!次こっちからいかせてもらう」
男が手のひらをあきつに向けると、衝撃波が飛んできた。
「くっ」
両腕でガードするが、あきつは後ろへ飛んでしまう。
「あきつ!」
いつの間にか後ろにいたあまねがあきつを受け止める。
「大丈夫ですか!」
「いや、あなたどうやって」そこにいるのとの問いには答えず、あまねは男に対峙する。
「ごはんをくれないばかりか、あきつをいじめるなんて残虐非道ですね、あなたは!りっぱな成敗対象です!」
「ちょっと待って、こいつは私がやるから、あまねは下がっていなさい。危ないわ。大丈夫、私が守ってあげる」
あまねがあきつをじっとみる。
「な、に、?」
「、、かっこいい、、」
「え?」
「私があなたを守るーなんて台詞、私も使ってみたい!いいですよね!」
「え?え?」
「あきつ、私があなたを守ります、さがっていてください」
「おーい、こっちの話も聞いてくれないか!」
と、あまねを中心に銀の光が集まり始める。光に包まれたあまねが手のひらを上にあげると光は一つに集い大きなエネルギーの塊となる。
「、、おい?」
あまねの表情が冷たく煌めき
「絶対零度の殺風、私に従え・・・漸!」
言葉と同時に男に向かって手を振り下ろすと、刃のような冷たい風が男に向かった走っていった。
「盾(ガード)!」
男はとっさに避けるが、ドリルのように鋭い風全てはよけ切れず、傷を負ってしまう。
「うっ」
たまらずしゃがみ込む男に、我に返ったあまねは駆け寄る。
「あの、大丈夫ですか?」
「あんたがやったんだろうが!」
「すみません、あきつに酷いことするからかっとなって。ご飯もくれないし」
「そのご飯だが、、、ほら」
「えっ?」
男は、袋を差し出す。カラフルな包み紙にくるまれた一口菓子がたくさん入っていた。
「土産に買っておいたものだ。旅行者だといっただろうが。船に行けば食料もあるとな、あんたは聞いていなかったようだが」
「あ、の、これ私に?」
「ああ」
「きゃーっ」
あまねはがしっと男に抱き着き、
「ありがとう!!うれしい!なんていいひと!」
それから、身体を離して、きらきらした目でお菓子を見つめ始めた。
「ああ、かわいいわ、なんてかわいいのかしら、きっとおいしいわよね」
ぼうぜんとしゃがみこむ男の傍にあきつが寄ってくる。
「お菓子をあげたかったの?」
「ああ」
「ほんとうにそれだけ?じゃなんで、あまねを」
「おれはなにもしてない」
「、、わかった、信じる。でも、初対面のあまねに、どうしてわざわざお菓子をもってきたのかは理解できない」
「俺にもわからん。あの飢え死にしそうな眼を、ほっとけなかった、からかな」
「、、そう。ま、攻撃したことは謝る、ごめんなさい」
「こっちこそ、むきになった、すまん。てか、肝心の奴から謝ってもらってない」
男はあまねに近づいていった。あまねはお菓子を一つ一つ取り出しては光にかざしてうれしそうに見つめている。
「おい」
「どちらさまでしたっけ」
「そのお菓子をあんたにあげたやつだよ!」
「ああ、あのときの。その節はありがとうございました。」
「ついさっきのことだろ、なんでそうなる」
「時は過ぎゆくものです」
「あのね、まあいい、いやよくない。あんた、俺に言うべきことがあるだろう?」
「お菓子のお礼は言ったと思いますが、足りなかったらもう一度ハグしますか」
「ち~が~う!俺をケガさせたことについて!」
「でも、あれはあなたがあきつに攻撃したから正当防衛でしょ?」
「あんたには何もしてない、そもそも俺はあんたを襲ってもいないだろうが!」
「でも、あなたは私を傷つけた」
「はあ?」
「私を空腹のまま放置した、まあそれは私の誤解でしたが、あの時は知らなかったわけだし」
「え、と」
だから、喧嘩両成敗ということで手打ちにしましょう、はい、しゃんしゃん」
「おまえな~」
「おまえじゃなく、あまねです、私の名前、あなたは?」
「あ、たける」
「たける、いい名前ね、はい握手、お友達になってくれますか?」
「う、うん」
握手すると、たけるの身体の中を風が吹き抜ける感じがした。
「えっ」
「傷は治しました、ごめんなさい」
あまねがささやくように言う。思わず見やると、静かに笑っていた。
(調子が狂う)


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