降水確率0%の通り雨3《君の遠雷 僕の健忘性体質》6
不思議な組み合わせの、6人旅だった。
運命の3姉妹、吸収の国の皇子とその側近、そして、素性のわからない謎の姫。旅の途中で、私も姫だったのとあまねがぽつりと言った。追放されたんだから、もう姫とはいえないね、あははと笑って言うから思わず抱きしめたら、あきつの本気の殺気のこもったパンチが飛んできた。
そんな、多少の(多少じゃない!byあきつ)いざこざはあったけれども、総じて俺たちはうまくやっていたと思う。運命の三姉妹の姉二人はとても良くしてくれた。末妹のあきつとは好敵手、俺の幼馴染兼お目付け役の門脇も、楽しそうについてくる。そして、あまね。
あまねの話は短く、よくわからない。姫だったこと。追放されて、舟と呼ぶ銀色の空間にいたこと。それがいきなり消えて海岸でぼうっとしているときに俺たちに合ったこと。おしまい。
「おしまいってあまね」
「だって他に言いようがないわ。本当に何もないんだもの。」
あまりにもあっけらかんというものだから、そんなこともあるのかと、それ以上は何も聞かなかった。どんな、哀しみを抱えていたのかは、けっしてあまねは、悟らせなかった。
外でご飯にしましょうといったのは、ありささんだったか。その材料を買いに、あまねと市場へ行ったときに、行った先で、きな臭いうわさを聞いた。
ー吸収の国が創始に戦争を仕掛けるんだそうだー
ーすでに、軍が隣の国まで来てるってー
「たけるの国は、戦いを望んでいるの?」
「王が何を考えているのかは知らない。皇子とは名ばかりで、国の中枢を知る立場にはなかったからな」
「ふーん、無責任なのね」
「なんだと」
「言葉通りよ、責任がない」
さらっと言い放ち、あまねはすたすたと歩いて行ってしまう。
知らないわけではなかった。あちこち、旅をしているうちに、戦争のうわさはどんどん信ぴょう性を増してきていた。だがー
(どうしろというんだ)
俺の立場でできることなど何もない、流されるだけだ。
そうして黙り込んでしまった俺の傍を、あまねは、ただ歩いていた。
「何もすることがなかったから、ずっとドラマを考えていました」
「あら、興味深いですね。あまねちゃん、いつかその話聞かせてくださいね」
「あはっ、あずさねえさんほど上手じゃないわ。でも登場人物とか、会話とか考えるのは楽しかったな、かけひきとかね」
「自分自身を主人公にしたりしなかったのか?」
森の中での夕食後、俺たちは薪をくべ、火を囲ってのんびりと話をしていた。あまねは、昼間の一件を蒸し返しはしなかった。
「全然面白くなかったんだもの。一度そう、やってみようとしたんだけど、物語にならないの。空白しかなかったの。で、やめちゃった。それより、いろんな人を想像でこしらえた方が楽しいわ」
あまねはにっこり笑う。
「でも、こうしてみんなといることは、私の想像をはるかに超えているわ。こんなの、想像もできなかった。こんな幸せなー」
言葉に詰まってあまねは下を向いてしまった。あきつがそっと肩を抱く。
「確かに、こんなあほ面は想像できないよね、しかも二つ」
「おい」「こら」
「あら、ほんとうに、難しいですね」
「「あずささん」」
「いいじゃない、存在の証明にはなったでしょ」
「「ありささんまで」」
「ふふ、そうね、私はここにいるわ」
「そういうことですよ。さ、デザートにしましょう」
「きゃー、やったー」
目の前には嬉しそうに、果物を頬張るあまね。
(自分は空白でしかなかった)
その言葉は俺の中でスルーしてしまって、皆でいることが幸せ、それしか残らなかった。だから、俺はー
「ねえ、この果物の種、地面に植えたら芽が出るかな?」
「そうですね、育つと思いますよ、丈夫な植物ですから」
「その子が育って、大きくなって、実をつけて、またその種がこぼれてー」
「あまね?」
「そんなずっと先の未来でも、こうしてみんなと一緒にいられるかな」
あまりにも、寂しげな顔だった、今まですべてを失ってきたかのような
「あったり前じゃない!絶対、離さないんだから」
「とうぜんだろ、お前の隣には俺しかいない」
「ちょっと!何言ってんのよ」
「そうですよ。あまねちゃん、一緒にこの木育てて、ケーキ焼きましょうね」
「わーい、ずっとあずさねえさんと一緒にいるわ!離れない」
「あずさの勝ちだね」
「たける、どんまい」
「慰めはいい、門脇」