降水確率0%の通り雨3《君の遠雷 僕の健忘性体質》8
「何のための戦いですか」
軍事会議をしている広間へ、周りの制止を振り切って乗り込んでいく。
「放蕩息子が何の用だ」
「聞いているのはこちらです」
「向こうに人質がいる。取り戻しに行くだけだ」
「誰の事ですか、そんなの聞いたこともない」
「長く行方不明になっていた姫だ、お前は知るまい。最近隣国にいることが分かった。だから救いに行く、それだけだ。もういいだろう、行け」
「皇子、退室を」
数人がかりで、部屋から追い出される。
「離せ!王!」
考えるんだ、誰に聞けばいい?行方不明の姫とは、おそらくあまね。この感は当たっているはず。しかしー
向こうから門脇が小走りでやってくる。
「聞いたか?」
「ああ、だが訳が分からん」
「年寄りにも聞いてみたが、行方不明になった姫など聞いたことがないそうだ。」
「だが、父王が探しているのはおそらくあまねで間違いない。」
「俺もそう思う。あまねちゃんが現れた時期と軍の進行の始まった時期が一致する」
「あまねちゃん?」
「今はそこにこだわるな。隠された何かがあるのかもしれない。王立図書館に行ってみようと思うんだがおまえはどうする?」
「行くさ」
「意外だな、一人で調べるというかと思った」
「手は多い方がいい」
「そうだが、お前変わったな」
「でないと、あいつに助けを呼べとは言えない」
「ああ」
王立図書館
「くそ、ないな」
「そう簡単にはみつからないさ、隠れ姫、隠れ姫、と」
「時止め返すよ、隠れ姫」
「おい、お前!」
「きゃ」
「今のは」
「こら、たける、脅かすんじゃない。ごめんね、その、隠れ姫ってなんなのかな?教えてくれる?」
やさしく門脇は、その女の子に尋ねる。
「あ、時止めの隠れ姫?童謡よ、女の子なら皆んな知っているんじゃないかしら」
「どんな童謡?聞かせてくれる?」
「時止めの隠れ姫、時止め返して隠れるよ
ふくらめの時、かま入れの時
時止め返すよ、隠れ姫
パンを上手に焼く呪文なの」
「あ、そうなんだ」
「ただ、この隠れ姫って実在した姫で、今も生きてるって、おばあちゃんが言ってた」
もう一人の子が言う
「でも、そんなのしんじられないわ、おばあちゃんの、そのまたおばあちゃんも歌ってた歌なのに。一体何歳になるのよ」
「生きているって、どういうこと?」
「んーとね、はるか昔の事なんだけど、本当に時間を止める力を持った姫がいたんだって。で、その力を恐れた王が姫を追放した」
「その姫は自分の時間を止めて、今もどこかで生きているって」
「その姫はどこに」
「わかるわけないわ、神話の昔の話よ」
「あら、この間、姫が見つかったて兵士が叫んでたじゃない」
「違う姫の事でしょ、ばかげてるよ」
「君たち、ありがとう、たける」
「ああ、急ごう」
「おい、どこへ行くんだ」
飛空艇へと向かうたけるを門脇が止める。
「あいつのとこに決まっている」
「おまえ、ありささんの言葉忘れたのか」
ー皇子としてできることを
「そう、今お前にしかできないことは何だ」
「軍の侵攻を止めること」
「そう」
「おやじ、ぶっとばしてくる」
「おいっ、ま、いいか」
「わかったな、兵を引け」
というか、すでに彼らの周りに立っている兵などいない。皆地面に伏して倒れている。たけるに胸倉をつかまれている王は、それでも必死に言葉を紡ぐ。
「お前に何がわかる、あの姫は絶対に必要なのだ。この国の未来のためにもな」
「どういうことだ」
「吸収の国は、今、無時限へと引きずられている。止めねばならぬ。それはわが国だけではない、あらゆる国が時限の境目に落ちようとしているのだ」
「だから?」
「あの姫を人柱にして時を止め続けてもらう。それしか世界を救う手立てはない」
「だから?」
「必要な力なのだ、いい加減にしろ!」
「あの姫を舟に乗せたのはなぜだ」
「それは、姫の力が危険だったからだ。神話の昔のことだぞ」
「で、久々に帰ってきたら人柱かよ。それは怒っても仕方ないよな。俺が!」
バキッ、床が砕ける。
「たける、全軍止めたぞ」
「ありがとう、じゃ戻ろうか」
「世界が滅びてもいいのか」
「一人の姫で左右される世界なんて、どっちみち滅びるよ」