降水確率0%の通り雨《君の落雷 僕の静電気体質》8
午後5:00ジャスト
丸い掘りごたつのテーブルに僕たちは着席していた。教授を真ん中、といっても丸いからどこが真ん中とかはないんだけど気分的に、右隣に吉川さん、左に小林さん。
「教授、両手に花ですね」
花本人である吉川さんが言うと、
「私は花より、、」
「それ以上は禁句です、教授」
やんわり、しかしぴしりと小林さんが止める。柔らかい雰囲気の人なのに結構辛辣なのな、ここに来るまでの道中での会話なども思い出して僕は思う。
だけど、親しい、阿吽の呼吸というのも感じられて
「楽しいゼミなんだね」
「君もその一翼を担っているよ」
つぶやいた言葉に、門脇がかぶせてくる。
「びっくりした、え、僕が?」
「そう」
「門脇オーバーラン」
「これくらいはセーフでしょう」
吉川さんのつっこみに、門脇がまた、笑って答える。
ちなみに、吉川さんの右隣りか門脇でその隣がたける、そして、僕、富田と並んでいる。
「いや、明らかに失策だ、スリーバント失敗くらいのな」
「へー三徒、君に言われる筋合いはないけど」
なんか、不穏な雰囲気、だけど僕はその時次々運ばれてくる料理の方に意識がいっていた。
「うわーなにこれ、おいしそう!ね、ね、冨田これ素材は何、肉?さかな?」
隣に座る冨田に、聞きまくる。基本的に母の料理しか食べない、外食なんてしないし、学校のある日のお昼はお弁当持参だ、ので、運ばれてくる料理はとても斬新で珍しい。
「ああ、どんどん食べてくれよ、あと、こっちがメニューで気になるものがあったら言ってくれ、別途注文するからさ」
「えーいいの、ありがとう、うわーすごい、こんなにたくさん」
僕はくいしんぼうである。冨田の解説をききながら、どんどんメニューを見ていたら、
「食べ物もだけど、飲み物も頼んでね、倉石はお酒は飲めるの?」
「あきらは酒は飲まない、お茶かジュースだ」
「君には聞いてない、ね、倉石、このお店はノンアルコールの飲み物も充実しているんだ」
「ノンアルコール?」
「そう、お酒に見えるけど、お酒じゃない、ま、ジュースみたいなものかな。ビールもワインも、カクテルなんかもノンアルコールのものがあるよ。」
試してみない?そういわれて、興味がわいてきたのも確かだ。お酒はちょっと怖いけど、味だけお酒で酔わないんならちょっと試してみてもいいかも。
「面白そうだね、ね、たける」
「まあ、アルコールも入っていないことだし、大人気分を味わうのもよいんじゃないか」
「いちいち、確認取るんだね、、、じゃ、倉石はノンアルコールの、カクテルなんていってみる?」
「おい、最初はビールだろ、ビールがいいよな、倉石?」
「ビールってどんな味?」
「そうだな、ほろ苦いっていうか」
「苦いのはちょっと、、」
「サワーもありますよ、ほとんどジュースみたいだから飲みやすいんじゃないかな」
「ノンアルコールなんだろうな」
「もちろん。試し切れないくらい種類がありますよ。」
「じゃ、それおねがいします」
「そうか、それじゃ、俺もノンアルコールビールで」
「たける?」
「俺もそれほど酒が得意じゃない」
「そうだったんだ、知らなかったよ。富田、この店に連れてきてくれてありがとう。おかげでお酒気分が味わえるよ」
「いやいやいや、そんな」
ん、なんでそんなに慌てているんだ?ま、いいか
「では、みんなの健康とゼミの発展を祈って、かんぱーい」
僕はノンアルサワーのグラスを、たけるはノンアルコールのビールジョッキを掲げて乾杯する。乾杯って初めてするからワクワクする。いや、記憶がないから何もかもが初めてで、全てにワクワクしていた。
「倉石、おいしい?」
「すっごく、おいしい。このサワー?もさっぱりしていてごはんに合う」
「よかった、どんどん食べて。ここ、料理とお酒が評判でさ、ノンアルも充実しているから飲めない人にも人気なんだぜ。」
覚えていたいな、このおいしさ!でも大概大丈夫だよな、人は消えてもご飯は残る!そんな決意をして、食べて飲んで、時折みんなと会話した。みんなは僕が返答に困るような、身内だけがわかる話とか昔の話とかは僕にしてこなかった。本当にありきたりの研究の話とか、人が絡まない話をしていて、気を使われているのが鈍い僕にでもわかった。ありがたいな、そう思っていると門脇が話しかけてきた。
「ね、食事もだいぶ進んだし、カクテルなんていってみない?もちろんノンアルのね」
いたずらっ子のように笑うんだなと思った僕は、雰囲気に少し酔っていたのかもしれない。いつもより饒舌にもなっていたような気がする。
「カクテルね、いいね」
もちろん僕はカクテルがどんなものかは知らない。
「じゃ、頼んでくるね」
少し変だと後で思ったんだ。飲み物は店員さんがテーブルまで来て注文を取っていたのに、わざわざ注文しに行くなんて。でも雰囲気によってた僕はそれに気づくことがなく、たけるは席を離れていてその場にいなかった。
悪魔の一滴
誰のために酔う?
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