降水確率0%の通り雨3《君の遠雷 僕の健忘性体質》3
「本当、あずささんの手料理は最高ですね!」
感嘆の声をあげながら、にこにこと料理を平らげていく。
「あまね、どんどん食べてくださいね」
あずさも、楽しそうに次々とあまねに料理を差し出す。
「どんだけ、腹減ってたんだよ」
ありさに、一緒にご飯しようと誘われたたけるもそこにいる。
「もしかして、舟に食料がなかったとか?」
「いえ、ご飯はあるにはあったけど、こんなにおいしくなかったから」
少し箸を止め、逡巡して、また話し出した。
「冬眠と覚醒を繰り返しながら漂っていたので、そもそも食べる必要がなかったんです。起きているのはほんのしばらくの間で、その時は食べたりもするんだけど、同じものしかないから全然楽しくなくて」
あまねはにっこり笑う。
「だから、ご飯が美味しいのって初めてなんです!お腹がぺこぺこで、それで美味しいご飯が食べられるのって最高ですね。皆さんありがとうございます!」
そうして、あまねはまた食事を再開した。本当にうれしそうに。
かいつまんでしか語られない話の向こうに、深遠な何かがあるとは感じたが、その時は誰も聞こうとはしなかった。単純にご飯が美味しいのがうれしい、そこに嘘はないのは確かだったから。
「で、舟は壊れてしまったのね?」
「はい、そうだとおもいます。どういう壊れ方をしたのかはわかりません。いきなり消えてしまった感じです」
「おうちはどこかもわからないのね?」
「そうですね。わかったとしても私追放された身ですので、帰れないかと」
また、さらっと爆弾を落とす!
「だから、ごめんなさい。帰る家がわからないのではなく帰る場所がないというのが正しいんです。舟が壊れてやっと自由になったなんて思ったのですが、だんだん心細くなってお腹もすいてきたし、で、皆さんを頼ってしまいました。こんな変な奴に優しくしてくれて本当にありがとうございます。たくさん食べたのでもう大丈夫です。では、私はこれで。皆さんの旅の無事をお祈りいたします」
「「おい」」
あきつとたけるが、立ち上がりお辞儀をしたあまねに怒ったように声をかける。
「なんの真似だ、それは」
「まさか、食い逃げしようってんじゃないわよね」
「すみません、お金は持ってなくて、あの」
「あまねちゃん、それはちょっとないかなあ」
「失礼は重々承知です、こんなに良くしていただいたのに、でも」
「ごはん、美味しかったですか?」
「はい!とても」
「私、まだまだレパートリーありますよ?」
「?」
「食べてみませんか?明日も、明後日も、ずっとこれからも」
あまねの青い目から涙が零れ落ちる。
「でも、でも、、」
「でもはなしで」
あずさがそっとあまねを抱きしめる。
「ここが嫌なら、俺んちに来るといい。部屋数だけはあるから気兼ねなく暮らせるぞ」
「いきなりだし、無粋すぎるし!もっと空気読め!」
あきつが、戦闘態勢に入る。それをいなしながら、たけるは、広いんだからいいだろうとあおるような言葉を紡ぐ。
「そんなに簡単に城に住民は増やせませんよ」
「うわっ」
「なにっ、のぞき?」
「人聞きの悪い、たけるが通信機のスイッチ入れたんでしょうが」
「あ、れ?」
「どこから聞いてたのよ」
「俺んちに住め、ってとこからかな。誰を誘ったんですかね」
「誰でもいいだろ」
「連れてきたらすぐわかることなのに、まいいさ。皇子城へ帰ってきてください」
「だ、そうよ、吸収の国の第6皇子様?」
「ありさねえさん?」
「知っていたのか」
「放蕩息子ってことだけね」
「で、帰ってくるんですか~」
通信機から声が飛ぶ。
「あまねはうちにくるか?」
「嫌」
「どうして?」
「ありささんとあずささんとあきつと一緒にいたい。あずささんのご飯食べたい」
「いや、メシかい。ということで、俺は帰らない」
「わかりました。では、」
「おう、帰れ」
「追跡します、おねーさん、今度は俺にもご飯御馳走してくださいね」
「「はあ?」」
通信は切れた。
「ちょ、ちょっとなんなの!あれはいったい誰?」
「幼馴染で、近衛の門脇、、」
「じゃなくて、なんでついてくるのよ、あんたもよ!」
「旅は道連れ」
「ちがう~~」
「まあまあ、あきつ、いいじゃない、皇子も」
「たけると呼んでください」
「たける、そのうちあなたの目的聞かせてね」
「、、、はい、そのうち」
「なんのこと?」
「ふふふ、まあ、そのうちに」
あずさがあきつの肩をたたく
「あ、あまねは?」
「ふふ、あそこですよ」
広いソファの上でタオルケットを掛けて、あまねは眠っていた。
傍らに座り、顔を覗き込む。白銀の煌めく髪、空の青を映す瞳は今は閉じられている。
「ふふ、子供みたい」お腹が膨れて眠るなんて。
『初めてご飯が美味しいと思いました」
幸せそうにたべるあまね。
(どんな)
「どんな生き方してきたんかな」
「おおーい」
後からたけるがのぞき込んでいる。
「なんだ?」
(放蕩息子で傍若無人かよ!ろくな皇子じゃない)
「さ、」
たけるがあまねに近づく。
「なにするの」
「いや、俺の船に連れて行こうかと。逃げられたらたまんないし」
「やめーい」
あきつVSたける、バトル再び
「ね、あまね、もう敬語はなしにしない?」にこっとありさ
「そうですね、気安く話してくれたらうれしいですわ」にこっとあずさ
「そうよ、わたしみたいにしゃべってよ」にこにこっとあきつ
「あ、ありがとう、ございます」うるうるっとあまね
「ございます、はいらない」
「うん、ありがとう、ありさねえさん、あずさねえさん、あきつ!」
談笑中
あきつ「あはは」
あまね「うふふ」
たける「おい、あまね」
あまね「去ね」
たける「はい」
あまねは怒らしてはいけない、あきつはそう思った。
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