見出し画像

降水確率0%の通り雨《君の落雷 僕の静電気体質》12

広い体育館の区切られたひと隅に、幼いあきらが、眠そうに目を擦っている。
「おにーさん、僕、のどかわいた、なにか、くれませんか?それに、ねむいや」
おにーさんと呼ばれた、誘拐犯の1人は
「こまったな、ジュースはないし、かといって、」
「そのお茶でいいです」
「ガキ、これは」
「お茶が、い、い、で、す」
凄まじい圧が、あきらから発せられていた。
連れ攫ってきた時から、2人の誘拐犯は、そこはかとなく後悔している。なにか、何かわからないけど、猛獣の檻の前にいるようなそんな感じを受けていた。早く迎えにきてくれ!この2人は交渉やお金の受け渡しとかには関わってはおらず、頼まれたのは、攫ってくることと、迎えが来るまで、あきらとここにいる事。
「迎えの気配がしたら、君たちは姿を隠して、子供だけがいた、と言う状況を作ってください。子供が引き取られたらそこでミッション終了です。いや、そうだな、子供の様子、ビデオにでも撮っておいてもらおうかな。」
それで、スマホで動画撮影をしていたのだが、
子供が喉が渇いたと言い出したのだ。

「すぐ迎えが来るって言われてのに」
「お茶!ください!」
「どうぞ」
「ありがとう」
「おい!」
「いいじゃないですか。他にないんだし、度数もそんなに高くないんだから、大丈夫でしょ、泣かれる方が面倒じゃないですか」
ぐびぐびぐび
「冷たくて美味しい、しゅわしゅわのお茶!」
「おっいい飲みっぷり」
「そこらでやめとけ」
2杯目を飲んでいたところで、あきらの身体に変調が起きた。なんだか胸がドキドキして、頭がぐるぐるしてる。
あいすがとんでくる。
「あきら、だめだ、それ、お酒みたいだ!」
「これ、お酒ー!?」
「あきら!」
「どうしよう、あいす」
どーん!身体の中で爆発音がする。とたんに、身体中から何かがはじけ始めた。
「なにこれ、バチバチする」静電気?そう思ったとたん全身の毛が逆立ち勢いよく放電が開始する。
「うわー」
「あきら!」
同時に渦のようにあらゆる思考がばらばらになって襲い掛かってきた。
あいつ、なにやってんだよ、もういいや、きえちまえ・・・
創世の記憶、中世の記憶、太古の記憶、はじまりの、、爆竜!
「やめてーーーーー!!」
巨大な黒竜が徐々に姿を現し始めた。
「だめだ消えて!お願い!」
あきらの声に呼応するように、空中に機械のような生物のような物体が現れて、網のように広がり、
「やめてーー」
「あきら!!」
網のように広がった機械のようなものは、あきらと、あきらを抱え込んだあいすをふわっとくるみ、やがて消えた。

あきらにスマホを向けていた誘拐犯は、
「おい、ガキ、どうし、、」
ごーっ
たの音を発する前に、辺り一面に雹交じりの雨がスコールのように降ってきて、一瞬でびしょぬれになった。
「おい、なんでだ、ここ屋内、」
天井に穴でも開いてんのかとあわてて上を見上げた時、それが落ちてきた!
ずどーん!!
誘拐犯の2人は、雷に打たれた衝撃で外へと弾き飛ばされていた。

「あの時、俺が着いた時には、あいすの気配を感じられなかった。その時にはもう」
「そう、記憶の爆竜におびえて目を閉じていた、あいすごと」
「その機械か、」
僕の手の甲にある痣にしか見えないそれ。たけるはちゃんとわかっていたようだ。
「うん、これは記憶を消すのではなく、見えなくする機械。昼間取り入れた記憶をスキャンして人に関するものだけ見えないように加工する。あいすはこの15年間その作業をやっていてくれた。僕の中で」
「おなえの中から、あいすが出ることはできなかったのか」
「何がきっかけで記憶の爆竜が来たのかわからなかったから、お酒のせいだけとは思えなかったし。だから、僕はアイスに頼って、ううん甘えてずっと不可視化をしてもらっていたんだ、僕の記憶にすら残ってなかったけど」
でも、僕の外に出ることはできたのかもしれない。そう思ったけどたけるには言わなかった。

僕が2度目の誘拐を経験し、たけるが白を的中させたその後ー
僕は夢の中であいすに久しぶりに会った。
「あきら」
「あいす」
「見えるようになったんだね」
「あいすが」
「俺はデータを加工しただけ。見えなくするメガネはあきらの意思であきらがかけていた。それをはずしただけだ」
だから、もう普通に見えるだろう?とあいすが言う。
「でもどうして、クリアしてしまう方を選ばなかったんだ?竜ごと消す方が簡単だったはずだ」
「怖かったから、竜も怖かったけど、何もない空間で一人になるのはもっと怖かったから」
「そ、うか」
「ただ、そのせいで、あいすを巻き込んだのはごめん!本当にごめん!」
「なにをいまさら、俺たち二心同体だろ、ま、いつか償ってよ15年分!」
「怒ってないの?」
「めちゃくちゃ怒っているさ。ズタボロに殴り倒したいくらいにはね」
「当然だね」
「わかってないな、平手打ちしたいのは、あきらだけど、半殺しにしたいのは、別のやつ」
「抹殺じゃないんだね、少し安心した」
「こだわるのはそこ?誰をって聞かないの?」
「知らぬが仏というだろ、神だけど」
「そっか」
「だから、どうぞ」
「どうぞって?」
「殴っていいよ、気の済むまで。僕のしてきたこと考えると、それこそ瀕死でもしかたないや」
「...あきら、変態?」
「殴るよ?」
「それは、こっちのセリフ。自分から殴られるなんて愚の骨頂、馬鹿のやること、わかってんだろ?相手の感情に囚われて自分を滅するなんて決してしてはいけない、それも忘れたの?」
「そう、だ、ね、ごめん。まだ、弱い自分に酔っている」
「弱さが悪いんじゃない、誤魔化しが最悪」
「うん、わかった、ありがとう、あいす」
(弱ってるあきらも可愛いな)
「なに?」
「なにも、でこれからどうする?写真もデータもおしゃかみたいだけど。ま、写っていたとしてもあきら1人だろうし、俺と爆竜が、映り込んでいたとしても、手ブレかトリックかで終わるだろうけど?あいつら以外はそれで終わり」
「そのあいつらが問題」
「あと一つ、そもそも、なんでメガネを外す気になったんだ、あきら。俺のため、だけじゃないよな?」
「...姉さんが言ったろ、事態が変わったって。ぼくも、わかってた」
「聞いてたのか」
「聞こえてきたんだ、そして、、」

「、、ということだから」
「うん、わかった、了解。じゃとりあえず、帰ろう、あきらは」
「おきたら、とりあえず学校へ行くよ。コンパ台無しにしたお詫びと記憶が正常になったっていう報告をしに」
「面白い連中だから反応が楽しみだな。だけど、ねえさんたちは、かんかんだろうなあ、お説教は3日3晩かな」
「かんべんしてー」
あいすのくすくす笑いと僕の悲痛な声は、誰知らぬ空間へと流れていった。

「ね、えさ、ん」
「母さん、あきらが目を覚ましたわ!」
「あきら!」
飛んできた母さんが僕を抱きしめた。心配したとぽろぽろ泣く母に、大丈夫だからとごめんを繰り返す。
しばらくして、落ち着きを取り戻した母は
「あきらが倒れたと聞いて、ありさとあずさも飛んで帰ってきてくれたのよ」
仕事大丈夫なのと、母と姉が会話しているが、ちょっと待て、この家では子供は僕一人だったはずだよ、お母さん!?
「そんなのいくらでも、操 作 するわよ」
「そうね、案外 簡 単 ですよね」
長姉と次姉が意味ありげに僕を見る。そういうことね、さすがです、過去と現在を司る運命の女神のお姉さまたち!

その後、母に呼ばれてやってきたたけるは、僕を見るなり頭に拳骨を落としやがった。
「痛い!馬鹿になるじゃないか!」
「お前は生まれる前から馬鹿野郎だ!」
あんまりだよ


ここから先は

0字

消える記憶と遠い思い出 ごちゃまぜファンタジー

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?