降水確率0%の通り雨《君の落雷 ボクの静電気体質》1
あらすじ
一見どこにでもいる大学生、倉石あきら。でも彼には人の顔と名前どころか一緒に過ごした全ての記憶が消えてしまうという障がいがある。唯一記憶が消えない幼稚園からの幼馴染、三徒たけるとともに大学に通っている。ヒト関係以外の記憶には欠落がなく、天才発明家といわれるくらい超優秀。周りのフォローもあり普通の?日常生活を送っているが、ある日、ゼミの飲み会に行ったことがきっかけで、幼いころの事件の真実と、あきらが記憶が消える理由が明らかになる。
第1話
「おーい」
誰かが呼んでいる、気がする。気のせいだよね、僕を呼び止める人などいない。
「おーい倉石」
隣の存在が何だって顔をする。僕こそ知りたい。倉石は僕だよね。仕方がないので足を止める。
「やっと追いついた、足速いのな。」
「初めまして、君、誰」
僕の名字を知っているのだ。僕の事情だって少しは知っているだろう。ならばこの返しで正解。
「あ、ごめん。俺、富田。君と同じゼミなんだけど、やっぱわからないんだよね。一回一緒に飲み会もしているんだけど。」
多分、初回の顔合わせの時のことを言っているのだろう。それ以外に飲み会には参加していない、筈だ。
「悪いけど、覚えていない、ごめん。で、今日は何の用かな。」
「えっっと、」
隣の存在が気になるのだろう。心なしか顔色が悪いぞ。彼の言いたいことが半ばわかっている僕は、それでも素知らぬ顔をする。
「その、興味はないだろうとは思うんだけどさ、その、合コンどうかなーって」
溜息一つ、でも可笑しさもこみあげてくる。
「富田君だっけ、同じゼミってことは僕とはもう3年の付き合いだよね。なら、僕の事全く知らない訳じゃないよね?しっていてそんなお誘いするの?」
校内のメインストリート。学生たちが大勢歩いていて幾人かはこちらを見ている。ひそひそ話す女の子たちもいる。僕はこの大学ではちょっとした有名人だ。悪い意味で。
「あ、も、もちろん知っているさ、対人記憶消失だっけ。人間関係が覚えられないとか。で、でもさ、倉石、ゼミではうまくやっているじゃないか。記憶がないとか、最初全然信じられなかったくらいだよ。だからさ、女の子と付き合ってもうまくいくんじゃないかって、いや、そんな堅苦しく考えなくても、ちょっと楽しく飲んでおしゃべりしたらってさ」
「だ、そうだけど、たけるどう思う?」
隣の存在、つまり、僕の幼馴染に話を振る。僕の人間関係をすべて把握し、僕の記憶に唯一残っている貴重な人間だ。彼がいないと大学生活は送れないといってもいい。
「メリットは?」
「は?」
「あきらがその会に出ることで得られる効能はなんだと聞いている。」
「効能って温泉かよ」
と茶々を入れる。
「なんだあきら
見ず知らずの団体に放り込んで、好きでもない酒飲んで、言いたい放題言われて、気が利かないとか変人とか言われて神経使わされる理由を聞いているんだが」
「それ全部君の事じゃん」
再びチャチャ
「だまれ、で、返事は?」
「い、いやだから、人間関係を広くすることは、」
「あきらにはできないと知っていていうのか。同じゼミだといったな、あきらは一人でも知り合いが増えたか?」
「そんなの、傍からはわからないじゃないか。」
「そう、わからない。わからないのに踏み込むのか、無神経の意味知っているか」
ん、たけるがいつになく攻撃的になっている、ここまで、僕は間に入る。
「もういいよ、ごめん、話聞いた時から断るつもりだったから、やっぱり知り合いのいない団体って怖いよ。それに、せっかく知り合っても明日には見知らぬ人なんて、相手にも失礼だよ。でも誘ってくれてありがとう。少しだけだけど、普通の学生になれた気がする。きっと普段の君は優しいんだね、覚えてないけど。」
あーしんど、
心にもないことを並べて、話を終わらせようとした。これでバイバイ。明日にはなかったことになる。それに、なんだか幼馴染がいつになく機嫌が悪い。こんなことで怒る奴じゃないんだが。まあいい、手を振ってさよならだーってなんだあーーー
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