見出し画像

降水確率0%の通り雨《君の落雷 僕の静電気体質》6

まず、川を探さなきゃ。この山って人が良く通るのかな、細いけど道ができている。昼間の熱波も少し収まって、風が気持ちいい。僕の住んでいたところとは離れているのか、それとも山だからなのか、大分過ごしやすい。
さ、どこか寝床をさがさなきゃ、洞穴でもいいから、なんて思いながら歩いていると、急に視界が開けて、円のように刈り込んだ地面の上に、小さな社が建っていた。人一人が十分休めるくらいの大きさだ。
あたりに人気はなく、その社にも誰かが参っている様子は見られない。
「ついてる!」
もちろん、使わせてもらうことにする。鍵もついてない。
「お邪魔します」一応声をかかけて中に入り、荷物を降ろして板間に座る。「新しいのかな」木の香りがする。ゆっくりと横になる。
「疲れたよ」誰に言うでもなく声にする。本当に疲れていた。こんな風に涼しいところで寝っ転がるなんていつ以来だろう。気持ちいい。周囲を探索したり、危険な獣がいないか調べなきゃならないのに、そう考えながら僕はいつしか眠っていた。

幾日か経った。この山での生活も慣れてきた。社に着いたその日、久しぶりにぐっすり眠った僕は、元気よく目覚めた。ちび君からもらった乾飯?らしきものを食べ水を飲み、すっかり気分良くなった僕は、さあ探検!と社の周りを調べて歩いた。社の裏手には小川が流れていた。これは大助かりだ。水はとてもきれいで、手を浸したらとても冷たかった。思わずすくってごくごくと飲む。入れ物の中の水も美味しいけど、川から直接飲む水は、冷たくて体にしみいるようだった。
「本当についてる!」こんなについてていいのか、屋根のあるところで眠れるだけでもすごいのに、神様ありがとうが止まらない。
いいことは、それだけではなかった。果物が鈴なりの木も見つかった。野菜も豊富にあった。誰かが住んでいるのではないか、此処ではなくともどこか近くに、と思いはしたが、果物や野菜に人の手が入っている感じはなかったので、たまたまかと納得しておいた。とにかく生きていくのに困ることはなさそうだ。水と食料と寝床があればなんとかなる。野獣の巣も付近には見当たらなかった。ここで、暮らしてみよう、到着して二日目、僕はそう決心した。

山での暮らしは快適だった。まず、熱波にさらされることがない。下界ではあんなに毎日暑かった、いや熱かったのに、ここでは夜は涼しくて風が心地よい。昼間はさすがに暑いけれども、あんな焼けるような日差しはない。冷たい川で顔を洗い身体を拭けば気分爽快だ。色々な果物を収穫し、野菜を採って食べる。川に魚がいないのが残念だが、下界に居た時だってそうそう食べれたものではないから、問題はない。朝起きて、ご飯を食べて、付近を歩いて探検して、戻ってきて水浴びして、夜、ぐっすりと眠る。
熱波や疫病が流行りだしてからずっと遠ざかっていた、穏やかな生活を、僕は過ごしていたんだ。
終了の合図は、大地の震え。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?