降水確率0%の通り雨3《君の遠雷 僕の健忘性体質》7
「長老から呼び出しよ」
「介入でしょうか」
「中立を保てる状態にあるの?ねえさん」
「さあ、きっと、あなた次第ね、たける、いいえ皇子」
門脇を伴っていつものように三姉妹の飛空艇を訪れたたけるに、ありさは厳しい声をかける。
「何のことですか」
「余計なことはいい。情報は得ているはず。ならば、あなたはあなたのすべきことを果たすべきだと思うけど?私の言っている意味が分からないほど、あなたは馬鹿ではないでしょう。門脇も」
「たける」
「すぐに終わらせて、また来ます。時間なんかかけない」
「期待しているわ」
「あまね」
「え、、と」
「いってらっしゃいは?」
「あ、いってらっしゃい?」
「いってきます」
「たける、とっととこい!」
門脇に引きずられるようにたけるは駆けていった。
「あの、なんだったの???」
「永久の別れの挨拶よ」
「そっかー」
「あまねちゃんにも、一緒に来てほしいんだけど、いえ、本当は連れていきたくない、だけど一人にしたくもないの」
「ねえさん、それは」
「ただの、予感、、あまねちゃんどうする。こんな言い方卑怯だけど」
「もちろん、一緒に行きます。皆の傍にいたら何があっても平気」
「私にまかせて!あまねは私が守る!」
「ふふっ、あきつには守ってもらってばかりだわ。私にも守らさせてね」
「それはないな~」
「ひどい」
あははと、笑い声が起きる。
「あの2人なら大丈夫ですね」
「そうだね」
あきつもあまねも強い。それもしなやかな強さだ。そう簡単には折れはしない。
「私たちも私たちのできることを」
「はい」
彼らもやるだろう。駆けていった2人を想う。隣に立つ資格を得て帰っておいで。でも肝心な相手に破り捨てられそうだけど。しゅんと肩を落とした二人の姿が想像できて、ありさはひとりくすくす笑っていた。
「戦争が始まったの?」
長老のもとへ向かう飛空艇のなかで、あきつが聞いた。
「そうね、まだといえばまだね。実質的には、交戦は始まっている。ただ明確な宣戦布告がないだけ」
「吸収の国の方からの攻撃があったのです。しかも大規模な。問題は何の予兆もなく始まったてことでしょうか」
「本当に突然だった」
「理由は、理由は何だったのですか?」
あまねが、食い入るように聞く。
「あまね?」
「戦争の準備をしているという噂はあったの。だけど、そうはしないとも思っていた」
「それは」
「そう、私たちがここにいるから、統始の使いがね。
統始は世界のお目付け役を担う一族。ま調停役のようなものね。その統始の使いである私たちがこの国にいることは、吸収の上の方にも伝わっているはず。しかも第6皇子までここにいた。それでも仕掛けてくるなんて、ちょっとびっくりしているのよ」
「そうさせるだけのものがここにあるということですね。それで、長老というのは」
「最長老、星の最初から生きているとされている」
「ただのじじいだよ」
「あきつ」
あずさがやんわりとたしなめる。
「長老が何考えているか、今回ちょっとわかりかねてるのよ。ここに至るまでに何らかの指示があると思っていたから。でも、いいえ、やっぱり判断は長老に会ってから下すわ、もうすぐよ」
飛空艇は森の中に静かに降りて行った。
辺りが暗くなり、飛び交う照明弾の明かりがひときわ目立つようになっていく。あまねの声が響く。
「それでも、時は動くのです」
たとえ私を捕えようとも。
長老の部屋へ案内されると、長老が立っていた。
「久しぶりですな」
私たちへの言葉ではなかった。
「久しぶりですな、時止めの姫」
「私にはあなたがわかりません」
「これはこれは、私も歳を取りましたからな。あなたとともに舟に乗るはずだった童です」
「ごめんなさい、思い出せません」
「長い永い時の彼方の事ですからね、そこの姉妹が生まれるよりはるか昔の」
「何、あまね長老のこと知ってるの?」
「いいや、こうして会うまでは、姫はわしのことを知らなかったと思う。長い永い果ての再会じゃ、いや、会えるなどとは思ってもみなかった」
「そうですね。誰とも会うことなどないはずだった。あなたが、壊したの?私の舟を」
「檻でしょう、舟などではない。いいえ、わしではありません、宇宙の意志ですよ」
「だから、何の話をしているの!あまね、長老の知り合いだったの?」
「わしとではない。わしの父とだ。父はこの方の近衛兵だった」
「長老の父親?」
「ちっとも変わられない、あの頃のまま、わしがこの方に会ったのは一度だけ、父の陰からお姿を見た一度のみ。だが、ずっと忘れることはなかった、今まで」
「きもっ」
「何か?」
「いいえ、なんでも。知りたいのはただ一つ。吸収の国が戦争をする理由です」
「わしと利害が一致したからでしょう。彼らはあなたの、時止めの姫の力が欲しい。私はあなたの傍で仕えたい。故に、あなたを吸収の国へ連れていくこと。それだけです」
「私に力などなにもないわ」
「たとえば、万に近い年月を同じ姿で生き続けるのも、素晴らしい力ではありませんか。不老不死を望む者には何よりほしい力だと思いますね。」
「私はー」
「あまね、さがって、もう我慢できない」
「そうね、これはちょっと頂けないわ、長老」
「か弱い女の子をいじめるのが趣味ですの?」
「その方はとてつもない力を持っている。必要とするものに力を貸してくれと言っているだけだ」
「で、利用するだけ利用して、いらなくなったら捨てるの?ふざけるんじゃないわよ!!」
「あきつ?」
「あまねに何があったかなんて知らない。聞くつもりもない。ただ、あまねを傷つける奴は誰であろうと許さない、それだけよ」
「そういうことです。長老、私たちは私たちで動きます」
「くそじじいは、ひとりで泣いてな」
「これはこれは、ひどい言われようですな、ただ一人の姫を想っているだけなのに」
「過ぎれば毒!確認しておくけどこの戦いを止める気はないのね」
「利害が一致しているので」
「この、くそじじい!あまねは絶対守って見せるわ!行こう!」
あまねは、長老の傍に寄り、何事かささやく。
「あまね、近づいちゃダメ」
「大丈夫よ、じゃあね」
4人は走り去っていく、飛空艇の方へ。
一人残された長老は、あまねの言葉を、頭の中で繰り返していた。
『悪役にさせてごめんね、ありがとう』
(あの方は知っておられたのか)
本当の理由を、ならば、
「先にお礼を言われてしまったら、やるしかありませんな」
おっほっほと長老はおかしそうに笑った。
「何言ってたの?」
「きもいよ、このくそじじいって」
「あはは、それ以外の形容詞ないよね」
「ふふ、でも私何回あきつに守ってやるって言われたかな」
「あら、何回だっていうわよ。言うだけでなく実行もするわ」
「うん、知ってる、だから私も言うわ、絶対あきつを守る!」
「ん、じゃ、守りっこね」
「うん」
「ほら、じゃれてないで早く来なさい」
「ありさねえさんが呼んでる、行こう!」
「うん!」
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