降水確率0%の通り雨《君の落雷 僕の静電気体質》4
僕とたけるは大学4年生、同い年の幼馴染だ。
同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校、同じ高校、同じ大学、多くはないかもしれないけど、ありがちな腐れ縁。
ちょっと違うといえば、小・中・高、クラスも同じだったことかな。幼稚園もだけど。これも少子化の現代では珍しくはない、かも?
まあ、そんなこんなで僕の横にはたけるが、たけるの横には僕がいつもセットでくっついていた。家も隣同士で、ってことはない。さすがにね。それに、小学校に上がった時から僕は通学以外ほとんど家から出なくなった。一人ではどこにも行けなかったが正しい。周りもそれを許した。通学は父か母か祖父母が付き添った。高校生になって、たけるが僕が付き添うからと、役目を交代した。それ以来今日まで、たけるがいつも僕の外出につきあってくれている。
中学も一緒の学校に行く予定ではなかった、と思う。僕は校風が気に入っての選択だったけど、たけるの志望動機は、図書室の蔵書の傾向が気に入った、だったからね。いつ調べたんだろ。高校はエスカレーターだから一緒なのは当たり前だけど、大学は分野も専攻も違うし、さすがに同じとこにはいかないだろうと思っていたのだけど、研究室の蔵書が気に入ったって、だからいつ見たんだよ!
やさしい両親がいて、腐れ縁だけどまあ僕を気にかけてくれる幼馴染がいて、順調にみえて、でも順調じゃない。
僕は障害を抱えている。生まれついてのものか、後天的なものかはわからないけど、少なくとも一生ついて回るものだということは確かだ。
人関係性記憶障害、これは適当につけられた病名。ほかに表しようがなくてこう呼んでいる。どんな障害か。他人の顔や名前が覚えられない。これは、まだ聞いたことがあると思う。でも僕の場合は少し違って、その時は覚えていられるんだ。20時間以内ならその人の顔と名前は憶えていられる。普通に会話もできる。区別がつくんだ。だけど20時間経つと消える。本当に消えるんだよ、その人の存在が、僕の中から。顔や名前だけじゃない、何を話したか何をしていたか、そのすべてが消えるんだ。ただ、自分の行動、周りの風景、勉強したこと、動物、その他生きていくのに必要な知識は全部残ってる、忘れない。”人”関係だけなんだ、記憶から消えるのは。おかしいよね、そんなことってある?散々いろんな病院で検査を受けて、有名な先生とかにも診てもらって、結果があの病名と、原因不明の一言。原因、考えられることはあるけど、誰も触れない。僕の傷をこれ以上大きくしないようにとの皆の優しさだと思っている。傷も何も僕には記憶がないのだから。
小学一年生の時、僕は誘拐された、らしい。
父と母がおしどり気象予報士として、ちょっとした有名人だったこと、母の実家が、これまたちょっとした資産家として近所で有名だったこと、このちょっとした有名さが狙われやすい要因だったのかな。本当の金持ちはガードが堅いはずだからね。母が玄関の門をあけ、道でご近所さんと井戸端会議をしているほんの一瞬のすきに僕は攫われた。
それから、すべてを見聞きしているはずの僕は、意識不明で発見された。
以上。
仕方がない、記憶がないのだから。それからの僕は”人”の記憶がないまま今に至る。たける以外は。僕のただ一人の知り合い、ただ一人の幼馴染ー
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