降水確率0%の通り雨2《君の雷鳴 僕の過敏性体質》10
空気の塊がうにょうにょとうごめいて壁になっている。そこへ、みけさんがとっとと歩いていき、ぶすっ、爪で一撃。しゅーと音をたてて、空気がしぼんでいった。
「さすがだみけさん、急所を一発で!」
さ、たける行くよと、なんだか気の抜けているたけるを引っ張りながら走る。
また、目の前に壁が現れる。今度は念の壁だ。
あきらは呼吸を整え何かをつぶやきだした。手の中に薙刀のような形の鋏が現れる。
息を吸って吐いて、
「漸」
空間を切る。その向こうに黒服の一団が現れた。
「たけるに何の用」
「迎えに来た」
「あなた、お父さん?違うよね、たけるの父は帝だもの」
「ある意味父ともなろう」
「何の話だ!私の事なら私にわかるように言え!」
「我々は皇子を連れに来た」
「・・・反乱か」
「反乱、そうだな、古き悪しき習慣を滅し、新たな次世代を構築する。皇子の力が必要なのだ、ともに来てほしい」
「そのようなことうまくいくはずもない。帝はそう簡単に倒れぬ、都もな。それにこのように力も人望もない末席の皇子に与するものが要るとも思えぬ」
たけるが力こぶしを握っている。額には汗。歯を食いしばっているのは己の内の何かと戦っているから?
オッケー皇子、いやたける、ならばーーぶった切るまで。新たなふざけた夢を語る、この胸糞悪い連中の未来を!
「皇子」
「皇子じゃない」
「そうだね、たける、
たける、僕を信じてる?」
「何を」
「いいから、信じてる?」
「当たり前だ」
「なら、、開放できるよね」
「おい、貴様、何を言っている」
黒集団の頭らしき奴ががなり立てる。
「僕が全部受け止める、未来ごと」
長鋏が宙に浮き、くるくると回り始める。
たけるが息を止める。
「僕はこの3年間、たけるの力を誘導してきた。壊れないよう、暴発しないよう、そして君の真実の願いにだけ呼応するように調整してきたんだ。」
あきらとたけるとそして黒集団を取り巻くように水の渦が取り巻いていく。出来上がった巨大な渦。その中心にあきらとたける。
「ここで逃げても仕方ないよ、たける。君の力は強大で凶暴だ。そしてその力は今なら全て君に従う。彼らと一緒にすべてをぶち壊したいならそうすればいい。止めないし止められない」
「あきら、お前は、」
「誰だとでも訊く?陳腐だね」
「俺に何がさせたいんだ
俺の何がわかるっていうんだ」
「何をさせたいか、、うーん、君のしたいこと?
何がわかるって、寂しがりの猫好きな坊ちゃんてことしか知らない」
「は、はは」
「そして、、僕たちの大好きなたけるってだけだよ」
稲光が走った。太陽が落ちてきたかのように辺りが燦然と光に満ちる
「まぶしいーなんだー」
黒集団が次々と、消えていく
「あは、すごいや、光の生まれる前にお帰り、そしてやり直すんだね」
『かわいい私の子』
だけどおれのちからがはつどうしたしゅんかんにおれをすてた
『ここにいてもらっては困る』
さんざんりようしてさいごはそれかよ
俺は
俺は
「僕は信じられる?」
あの目は、あの声は
青い青い透明な湖畔のように澄んだ目
人をおちょくってばかりの笑いを含んだ声
だけどいつもまっすぐで、だから
「開放して」
全世界がきらきらと輝いて、その輝きの中心に、彼がいた。
「あきら」
「はい、よくできました」
「なにがだ、一体俺は何をさせられたんだ」
「分解と再構築」
「なんだそれは」
「簡単に言うと、君は破滅への時限爆弾なんだよね」
「じげんばくだん?」
「つまり、一定の時期が来ると、災厄を振りまいちゃう?機械みたいな。さっきの連中はそうとまでは知らなくて、ただ、巨大な力を利用すること目指してたみたいなんだけどさ、そんなことされるとほんっと迷惑。はっきり言って、子供が戦闘機の操縦桿握るようなものよ。なにがおこるかわかんないわ。
とりあえず、災厄の部分だけ取り出して無毒化してあなたに戻したの。一度、全部取り出さなきゃならなかったから、全力出してもらったんだけど、了解?」
「え・・あきつ・?」
「え、あ」
「そのしゃべりかた、あきつか!?」
「・・あきら、だよ」
「だが!」
「あきら、なんだよ今は。」
「・・・」
「あきらがきらいか?」
たけるは全力で首を横に振る。
「そっか、ありがとう、うれしいな
でね、実はちょっと言いにくいんだけど」