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降水確率0%の通り雨2《君の雷鳴 僕の過敏性体質》8

ー幕間ー

「牛車牛車 しっぽしっぽ、しっぽしっぽ、しっぽっぽー」
「あいすあいす、めっちゃ跳ねるねこれ、ぽーんぽーん」
「お前たちもう少し静かにできないか」
「無理でしょ、もう結構長い付き合いなんだから、いい加減諦めなさい」
大きめの牛車とはいえ、子供4人で乗るとそこそこ狭い。さらに、そのうち2人が、はしゃいでいるとなると、相当に狭い。
彼らはたけるの発案で、物見遊山に行くところであった。

乗る前から異常にはしゃいでいたよなあ。
「えーー乗っていいのホントにホントに、お付きの人って歩くもんだと思ってた」
「お前だって曲がりなりにも貴族の子息だろうが。そういう設定だったろ」
「あ、そうか、忘れてた、ありがと門脇、あー牛車だあ」
「あいすーー見てみて、こっち、さっき女房の人が持ってきてくれたんだけど、お弁当、すっごいの、もうったくさん」
「言葉がおかしいぞあきら。そんなに興奮して、」
「おねがい!!たける!すこしでいいから!」
「あのな、それは、皆の分の弁当だ、もちろんお前も食べるんだ。というか、初めからお前がたくさん食べることを見越して用意したのだから、食べてくれないと困る」
「たける、、、いいやつ!たける、神!一生ついてくーーお弁当に!」
「あきら!」
「あいす!」
「牛車牛車、しっぽしっぽ」
「おべんとおべんとうれしいな」
物見遊山の成り行きをほんの少しだけ心配しているたけると門脇だった。

なだらかな山に入り、大きな桜の木の下に牛車を停め、ござを敷いて地面に座る。
「きれい、花びら」
桜の花びらが、風に乗って皆の周りを舞い散っている
「少し、舞おうか」
「うん、あいす」
2人は桜の木の下に立つ。
「では、伴奏など」
懐から笛を取り出し、たけると門脇は奏し始める。
桜色の花びらが舞う中、白銀の髪と赤の髪がなびく。裾を払い袖を揺らしくるくると舞い踊る二つの影。笛の音が宙に彷徨い、まるで桃源郷ー
いくなーー!
今にも天に昇っていきそうな、儚い、女神ーー
気づけばたけるはあきらをしっかと抱きかかえていた。
「たける?たける」
「あ、すまない」
「どうしたのさ」
あきらは、何でもないかのように、くすくす笑っている。
「あー、踊ったらお腹すいちゃった。ごはんにしようよ」
「それが目的できたくせに」
「あいすだって」
牛車に戻っていく2人を見ながら
「たける」
「ん、山の気に惑わされたのかもしれない」
「そうだね、そうかもしれない」
自分ももしかしたら、しかし門脇は何も言わなかった。

「おべんと食べたら次は何するの」
さっきの舞姫の儚さなど、うそだったかのように、口いっぱいに食べ物を放り込みあきらがいう。
「この近くに滝があるそうだ。そこに行こうと思う」
「うわー僕、滝、大好きなんだ、近くで見られるなんてすごく嬉しい」
「僕も滝が好きだな。全身が水滴に包まれるのがいいよね」
「「ねー」」
「それじゃ、出発しますか」

「うわー」
大量の水が落ちてくる。どーっという音。どれだけ滝つぼに落ちていこうとも、次々に水が落ちてくる。
「すごい」
「あきら?」
あきらはじっと滝を、落ちてくる水を見つめていた。
「この水を登っていけたら、僕も竜になれるかな?」
小さな声でつぶやく。
強く気高い竜に僕も
「あきー」
「なれるさ。あきらは絶対なれる、僕がついている」
あいすが、後ろからぎゅっとあきらを抱き締める。
あいすに先を越され手の行き場のないたける。
「遅いんだよ」
あきらを抱きかかえたあいすと隣で立っていた門脇がくすくす笑っていた。
「このやろー」と思いながらも機会を逸したのは確かなので、挽回すべく皆に川遊びを提案した。

夕方、遊び疲れた年少組二人は、互いに寄りかかりながら夢の中へと入っていた。牛車の揺れもよいゆりかごとなるのか、少々の事では起きそうにもない。
「たけるも寝なよ」
「いや、私は大丈夫だ」
門脇にお前が寝ろとは言わない。主人の前で寝るのは、たとえこの関係性でもしてはならないことだ。
「この二人は私を主人とは思っていないのだろうな」
「思ってほしいのか」
「いや、まったく」
穏やかな寝顔をじっと見る。
小さい、綺麗な、白い顔。
「この子達は何を背負っているのだろうな」
時折見せる大人びた顔、切羽詰まった、泣きそうな顔、子供をさとす親のような顔。
無理矢理に聞き出すこともできない、歯がゆさ。
「待つだけです。友達なのだから」
「門脇、、ああ、そうだな」
ことこと進む、牛車の音
いつか、きっと
まだ明るさの残る夕暮れ時に桜の色が舞っていた。

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