降水確率0%の通り雨《君の落雷 僕の静電気体質》5
やめてくれー、こんな公衆の面前で、恥ずかしさの頂点だ。
目の前で土下座している初対面の彼、冨田といったか、はでかい声で訴えてくる。
「お願いします、最後までとは言いません。途中まででいいんです。付き合って下さい。」
、、誤解を招きかねないセリフだ。
「だから、あのね、」
「そこまでして誘う理由はなんだ」
不機嫌さを残したまま、たけるが問う。
「なんで、、、なんでだろう、ただ、どうしても倉石と一緒に行きたくて、あれ、どうしてこんなに一緒にいたいんだろう?」
悩み出した冨田は放っておいて、僕はあることが頭に浮かぶ。多分そこにあいつらは、あいつはいる!来る!
「たける、僕参加しようと思う。」
「連れてってやる」
「ありがと」
まだ、うんうん悩んでいる冨田に向き直る。
「冨田、くん?誘ってくれてありがとう。君の熱意に負けたよ。そうだね、なんだってチャレンジだよね、行くよ、そのコンパに。詳しい日程教えてくれないかな。」
にっこり笑ってそういうと、冨田は破顔一笑、抱きついてきた!
「こっちこそありがとうだ!できる限り、君が楽しく過ごせるよう努力するよ」
いい奴なんだよな、ズレてるけど。
あとでゼミで会った時に、場所と時間を知らせるよ、みんなにこの快挙を知らせなきゃと、冨田は走っていってしまった。取り残された僕らは、なんだか脱力して、それでもそれぞれの講義を受けるべく教室に向かったのだった。
「怖くないの?」
なに、なにが?
「知らない人ばかりで、ずっとひとりなんでしょ?」
そんなの、いまさら、だよ
「おいでよ、、」
どこへ
ここは、、
徐々に思考の焦点があってくる。
「起きたか。」
ガバッと起きあがろうとしたが、手で戻される。
「頭突きをするな」
確かにあのまま起きてたら、お互いに頭をぶつけて、衝撃だったかも。しかたがないので、たけるの膝枕に頭を戻す。
「何があったの」
「こっちが聞きたい。眠いといったかと思うと、そのまま、廊下で寝た」
「僕が?」
「お前が」
「はあ?なんで?」
「だからこっちが聞きたいといっている。心当たりは?」
「ないよ!そりゃ少しは夜更かししたけど、12時前には寝たし。」
「理由もなく突然猛烈な睡魔に襲われた、と」
「信じないの?」
「違う、いろいろな可能性を探っているだけだ。」
そういって、たけるは顎に手を当てて動かなくなった。沈思する時のたけるの癖だ。だから僕は邪魔しないように口をつぐんだ。
たけるの頭には膨大な量の知識が詰まっている。詰まっているだけではなく自由自在に取り出して活用可能だ。僕も天才少年発明家なんていわれてきたけど、たけるこそ本当の天才だと思う。彼の知識に偏りはない。文系理系問わずなんでも知ってる。なんせ国会図書館の閲覧可能な本は全て読破したと嘯く奴だ。どう考えても不可能だと思うけどたけるならもしかしたらと思わせてしまう。それくらい知識に隙がない。
今、彼の中では過去の症例や論文、事件簿などが駆け巡ってるんだろう。
ただ、彼にも欠点がある。あれだけ知識があり、語彙もあるのに、アウトプットが極端に下手だ。言葉足らず、ともいう。とにかく自分を、自分の考えを表現できない。正解に辿り着いているのに答えを書き間違えている、そんな感じ。だから、たけるが考えている間、僕もたけるの言葉を解読すべくじっと彼を見ていた。
「色々な症例をあたってみたが、該当するものがない。緊張からくる一時的な血流不足かなと思うんだ」
あれ、たけるにしてはまとも、いやストレート。
「貧血おこしたってこと?」
「そうだな、貧血起こすほどのショックを受けるなら、やはり、コンパは、やめてー」
「いくよ、だから、予定組んでよ、僕は覚えていられない。」
「、、わかった、準備しておく」
「ごめん」
「なぜ謝る」
「迷惑かけてる」
「俺も楽しんでいるからお互い様だ」
「俺も?」
「そろそろお前のゼミに行くぞ、たまには違う教室も新鮮だ」
「しょっちゅう来てるだろ、僕より顔馴染みのくせに、自分のゼミはどうしてるの」
それには答えず、たけるは勝手知ったる僕のゼミへと歩き出した。
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