Web小説発掘記 その308 カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作者 哀原正十様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330658739909192

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第2章 クラス対抗ストラテジーウォー編』から『エピローグ』までを読んでの感想、レビューとなります。

あらすじ

第3次世界大戦末期。精神を病んだ軍人の天之玄咲はCMA――1999年発売のポケットボーイ専用ゲーム【CARD&MAGIC ACADEMIA】の重度廃人だった。
地獄のような現実に耐えかねて、その度に狂気をCMAで抑える日々。
そんな玄咲の人生はある日一発の核弾頭によって唐突な終焉を迎える。
死の寸前までCMAをプレイし続けた男は地獄に落ちることを確信しながら爆発に呑み込まれ――。

そして気が付いたらCMAの主人公に転生していた。

カードとそれを読み込み発動するリード・デバイスが起こす奇跡――カード魔法。
そのカード魔法を使って戦う魔符士を育成するラグナロク学園に玄咲もまた主人公として入学する。

少しおかしくなったテンションでストーリー、そしてヒロイン――天使のゲーム知識を活用した手堅い攻略を目指す玄咲。
だが、転生から数秒後に起こしたある事件によりストーリーは初っ端から大脱線してしまい、絶妙に役に立たないゲーム知識に翻弄され盛大に空回りした挙句、玄咲はヒロインから嫌われてしまう。

失意の中、しかし玄咲はヒロインではないがヒロイン以上に可愛い天使のような見た目のモブキャラの少女と隣の席になり、なぜか玄咲に好意的なその少女に段々と惹かれていき――。

そしてある時、ついに悟る。

「彼女こそが、俺のこの世界での天使だったんだ!」


―――

―――――

―――――――


夢は壊れた。
天使は羽をもがれた。
全て俺が間違っていた。
何もかも全て俺のせいだ。

「この世界は楽園なんかじゃない」

だから、
だから。
だから――

「地獄に堕ちろ」

ストーリーと見所

一章について書いた記事はこちら↓(甘口記事です)

以前の記事にも書いてあるとは思うけど、ある程度物語のおさらいを。

第三次世界大戦が起こり、類まれなる戦いの才能を開花させた主人公。
戦争で疲弊してすり減った心の支えは携帯ゲーム機でカードゲームができるソフト。それを持ったまま死亡した主人公がその世界に転生する……というお話。

カードで戦う、いわゆるカードゲーム系のホビーアニメ的でありながら差別や暴力が横行するハードな世界観となっており、いい意味で異質さを感じることができる。

ゲームの世界でも戦闘力は健在、それに加えて当然ゲーム知識もあるから戦いにおいては無双。反面、主人公の人間性が戦争によって歪んでいる上に、ゲームのキャラクターが好きすぎて奇妙な行動をとってしまったりと人間関係での難も見所の一つとなっている。

取り敢えず結論から語るならば。
この作品は凄い。

二章を読んでくれといわれて早々に一章の話をするのも恐縮なのだが、以前のレビューにも書いた通り物語への引き込み方が、引力が尋常ではない。
ことプロローグ、最初の展開に関しては凄まじい完成度を誇るといってもいい。

そのぐらい、読者を惹き込むパワーとアイデアに溢れた作品である。

文章力に関しても相当なもの、描写と台詞のバランスがよく非常に読みやすい。文章の内容の濃さの割に結構気軽に読み進めることができる。
描写がしっかりとしているため戦闘シーンなども読みごたえがあり、スピード感と緊張感が上手く表現できている。

キャラクターの造りも上手く、ことこの物語に関しては主人公以外が元はゲームキャラクターということもあって、ネットスラングに近い言葉などを用いてわかりやすく特徴を解説しつつ印象付けることに成功している。

構成に関しても大きな問題はなく、しっかりと魅せるべきキャラクターを魅せつつ物語を展開していくことができている。

上にも書いたように登場人物が印象的なので、キャラクターの登場数が多い割にはしっかりと覚えることができるのはありがたい。

カードゲームを主体とした小説であるということから物語の中に元ネタが散見され、主人公がオタク気質なこともあってかカードゲームに対する語りからも作者さんの知識が見て取れる。
(後多分KOF)

この辺りのメタネタというか、他作品ネタの出し方も押しつけがましくなく、あくまでも知っているなら共感できるという塩梅に抑えられているのが個人的にはとてもよかった。

取り敢えず物語の完成度はかなり高く、キャラクターや文章に関しては商業作品と比べても遜色ないクオリティに仕上がっている。
極めてレベルの高い作品だが欠点がないかと聞かれるとそれはまた別のお話。

なのだが長くなるので問題点のところでまとめて紹介ようと思ふ。

キャラクター

天之玄咲

物語の主人公。
戦いに対して非凡な才能を持っており、それが理由で第三次世界大戦では兵士として戦果を挙げていた。
本人の性格はオタク気質で、興奮すると周りのことが見えなくなることもある。

キャラクターとしての完成度は非常に高く、これでもかというほど歪んだ人物像が出来上がっている。

しっかりと壊れている人間として書かれており、それが理由で周囲から距離を取られたりもする。

いい部分と悪い部分がかなりはっきりとしており、不安定さも含めて作品を象徴する人物としてちゃんと主人公をしている。

シャルナ・エルフィン

物語のヒロイン。
元のゲームではモブキャラだったが、物語の中ではヒロインをしている。

主人公とイチャイチャしたり嫉妬したり、二章では自分も力を見せたりと一章に比べてしっかりと見せ場が作られている。

グルル・イコールズ

簡単に説明するならば主人公達の武器を作ってくれる博士キャラ。

二章における出番自体はそこまで多いわけではないが、ロリ巨乳眼鏡っ子なので。

総評

評価点

表現力、文章力、キャラクターに関しては極めて高いレベルでまとまっている。
舞台設定も個性を感じられつつ、物語の構成と上手く噛み合っており、作品としての強い個性と面白さを両立させることができている。

外連味のあるキャラクターや文章、世界観設定なども魅力的で、かなり作り込まれていることが見て取れる。

ちょっと登場するキャラクター達にもゲームの外側から説明するような形で、上手く記憶に残るような印象付けをされているのは作品のコンセプトと上手く合致した工夫といっていいだろう。

問題点

上でも散々語ったように全体的に見て素晴らしくハイクオリティな小説であることは間違いないのだが、欠点がないといわれれば首を横に振る。

長いのだ、全体的に。
特に説明が。

カードゲームとしてのルールの説明、主人公達が使うデバイス(武器)の説明、個別カードの説明、キャラクター個人の特性や種族の説明、シンプルな世界観の説明。
などなど、説明部分が物語の大半を占めている。

その辺りに関しては一応、きちんと必要な場面などで解説してくれるため小分けにはなっているのだが、それでもカバーしきれているとは言い難い。

また各カードやらの説明に関しても、勿論役に立っている部分もあるにはあるのだが基本的に主人公が身体能力と最強カードでなんとかする場面が目立つのでどうにも肩透かし感が否めない。

説明だけでなく、場面に関しても基本的には冗長気味。
描写が濃かったりするのが悪いというつもりはないが、正直なところ作中で起こった出来事に対しての文章量は圧倒的に多い。

似たような場面も多く、特に主人公とヒロインのやり取りはそれ自体はとてもいいのだが、如何せん同じような話を何度も読んでいるような感覚になってしまった。

二章全体の話にも触れておくと、やりたかった話としては充分に理解できるし、キャラクター個人個人の印象もしっかりしている。

最後の総力戦は読んでいて普通に楽しむことができた反面、やはり詰め込み過ぎ感はあるというのが正直なところである。

最終評価 61点(Web小説としては充分過ぎる秀作)

問題点をまとめて書いたので誤解されるかも知れないが、小説としての出来は文句なしに素晴らしい。
(散々文句を言っておいて文句なしとはこれ如何に)

欠点がないとは言わないが、それを補って余りあるパワーに溢れている。

この小説がどう、というつもりはないがこれだけの作品を安定して生み出せるほどの筆力があるのならば、何らかの形で書籍化することだって遠くないのではないかと、そう思わせてくれるほどの作品。

かなり面白いので是非一度手に取ってみてほしい。

所要時間は『第2章 クラス対抗ストラテジーウォー編』から『エピローグ』までで凡そ3時間30分ほど。

極めて個人的な感想

主人公とヒロインの不安定さが、いい意味で物語に先の読めなさを与えていてとても良き。
この二人が悲劇に終わるのか幸せになれるのかもとても気になるところ。

あくまでも個人的な意見にはなるが、エログロのエロ抜き……まぁつまりはグロ系というか人を選ぶ描写などが多いのは気になるところではある。

勿論、そういう作風が好きな人にならより刺さること間違いない要素ではあるが。





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