Web小説発掘記 その89 乱世に吠えし災厄よ 作者 未翔完様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890600863

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは記事を書いた時点での最新話である第七話『赤毛の傭将《下》』までを読んでの感想、レビューとなります。

あらすじ

ルミエルド大陸。
六百年もの昔に出現した〈魔族〉の手によって一時は荒廃した大陸。
なれど人々は果敢に戦い、長き戦いの果てに、大陸には五大勢力とも称せられる諸国家群が並び立つこととなった。

ヴェルランド聖王国。
リッセルスバッハ騎士団国。
エリアーノ都市同盟。
ゼルディア連合王国。

そして。大陸中央に鎮座する覇権国家〈アルザーク帝国〉。

……平穏の中にあった大陸は再び、戦乱に堕ちようとしている。
その最中で。
〈災厄の皇子〉と呼ばれ、グリューネヴルム帝室第六皇子にも関わらず幼い頃より周囲から疎まれてきた青年〈ディアーク〉は決意する。
自らが新たなアルザーク皇帝となり、大陸を統べることを。
彼の従士長たる老齢の帝国魔導貴族〈レイナード・フォン・ヴァルトブルク〉と共に。

起こるべくして、それは起きた。
帝位を継承・簒奪する為、はたまた私利私欲の為だけに幾つもの帝国内勢力が争い周辺諸国が介入した、六年にも及ぶ内戦を史書はこう記している。
〈帝冠戦争〉と。

汝、災厄の皇子よ。
遍く理不尽を踏み越え、野望を掲げし覇皇となれ。

ストーリーと見所

骨太で重厚な雰囲気で書かれたファンタジー戦記もの。

災厄の皇子と呼ばれて忌み嫌われていた青年が、一人の魔術師と出会ってそこから長きに渡る戦いが始まる……多分。(この記事を書いた時点ではまだ始まっていないので)

大きな特徴としてあげられるのはまずその世界観の造り込み。宗教から様々な用語、国ごとの文化や成り立ちなど序盤の時点で様々な情報が開示されている。

これらに対してくどくなく、かつ物語の進行に合わせたスマートな説明をしてくれるので物語としてはとても理解しやすい作りとなっている。

戦記ものいうのはどうしても用語が多くなりがちなので、その辺りの配慮はありがたい。

ストーリーとしては序章から読者を惹きつけやすい始まりとなっており、主人公自体の登場は少し後になるのだがそれが気にならないぐらいに面白く書けている。

またそのシーンの中でさらりと魔法の存在について触れることで、世界観に馴染んだ形でその存在を読者に示しているのは実に上手い。

世界観や人々の文化に関しても力を入れて描写されており、食事シーンやちょっとした所作や台詞にもその辺りが伺える。

まだ序盤ながら多くの人物の陰謀や利害関係の交差、同時に様々な謎が提示されることで読者が物語に強く引き込まれるような作りとなっている。

キャラクター

ディアーク

物語の主人公。

災厄の皇子などと呼ばれてはいるが、物語の中の彼は他者への礼儀を忘れず不義に対して怒り、自身の過ちを素直に認めることができる好漢。

レイナード・フォン・ヴァルトブルク

ディアークの従士となる老練な魔法使い。

一見すればファンタジーの代表ともいえる主人公を導く偉大な魔術師のようにも見えるが、どうやら彼自身にも何らかの野望がある模様。

読者にとってディアークの最初の味方と見せかけて、一筋縄ではいかなさそうと、この物語自体を象徴してくれるような人物。

総評

評価点

とにかく文章が上手い。

様々な用語が読者を混乱させないぐらいのペースで散りばめられているので、それに対して今後の活躍の期待や物語の中でどう活躍するのかを楽しみにすることができる。

全体的に描写が上手く、重々しい世界観にマッチしたような厚みのある描写ながら、情報の取捨選択が巧みなので不要な情報がなく、読んでいて疲れることがない。

ストーリーに関してはまだ始まったばかりなので判断としては難しいが、破綻はなく登場人物も魅力的、また様々な国や人の思惑が絡み合うであろうこれからに期待をするには充分過ぎるほどの面白さを誇っている。

作者さんには四話ぐらいでいいと言われていたのだが、面白かったので最新話まで読んでしまった。

問題点

現状では大きな問題はないが、世界観を丁寧に説明している分だけ少し展開が遅いと言えなくはないかも知れない。

もっともそれに関しては今後何かしら大きな出来事があればすぐに解消される程度の問題とも呼べないようなレベルのものではあるが。

最終評価 65点(Web小説の中では文句なしの秀作)

序章と動き出したばかりの物語でこれだけ魅せられるのは素直に凄い。

ストーリーに関してはまだまだ始まったばかりと言うこともあって判断が難しいが、今後を期待させるには充分なものが既に書けている。

特筆したいのは文章で、どうしても用語が多くなったり小難しくなりがちな戦記ものと言うジャンルを大分読者に優しく、頭の中にストーリーが入ってきやすいように書いてくれている。

世界観は重厚だが、非常に文章は読みやすい。

物語も魔法があったりとファンタジー小説が好きならばかなりとっつきやすい内容となっているので、戦記ものが好きな人も、そうでない人が試しに読んでみるのにもいい感じの秀作小説。

所要時間は記事を書いて時点での最新話『赤毛の傭将〈下〉の4』までで凡そ40分ほど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?