Web小説発掘記 その176 My Angel 作者 甲斐てつろう様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330661939221242

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。

あらすじ

丈二と麗奈、現実と上手く向き合えない2人による逃避行。

ストーリーと見所

現実と上手く向き合うことができず、母には成功者だと嘘を吐くうだつの上がらない男が主役の物語。

彼は好意でアパートに住ませてくれる友人と喧嘩になり、そのまま車を盗んで逃亡。そこで出会った19歳の女の子と色々あって一緒に短い逃避行に出ることになる。

とまぁ、とんでもない感じで始まるお話。どうやら映画を意識した作品らしく、その辺りに関しては割と雰囲気が出ていたのではないかと思える。

情景や場面の移り変わり方、その辺りの取り方は確かに実に映画的に読むことができた。

……まぁ、何故か頭の中では舞台は日本ではなくアメリカで、二人でオープンカーで荒野に敷かれた道路を走っているイメージが浮かんできたのだが。

お話としてはあらすじにもある通り、現実に向き合ってきた男と女の子が出会いお互いに身の上話をしていく中で心を通わせる。

楽しい時間はいずれ終わり、やがてやってくる現実。
二人はお互いの心を支えにして現実へと向き合っていくが、そもそも何故背を向けていたのかを思い出していく。

現実とは非常なのだ、何処まで行っても。

ほんの少しの時間で勇気を得たとしても、そこに立ち向かう力がもらえたわけじゃない。

その事実に押しつぶされそうになるが、しかし同時にそれは二人だけに与えられた試練ではない。
誰だって同じで、そこに潰されないように耐えてながら生きていくことに気が付く、そんな物語。

こちらの物語は折角なので映画として見た前提で、映画館を出て友人と感想を話していると仮定しよう。

筆者の意見としては悪くない映画だったが、ちょっと甘い部分があったと言うのが正直なところだ。
ライブのシーンから海へ続く場面は普通にとてもいいシーンだと思ったし、その後の主人公が母親に真実を告げる場面も意外性があった。

気になったのはその少し前、テーマパークでの会話だろうか。
もう少し物語のテーマに合わせたやり取りが欲しかったところではある。

ちょっとふわふわしてたように思えた。

また最終的に『愛』に帰結していく辺りももうちょっとその前からそれっぽい会話なりが欲しかったところである。

ただその辺りを含めても映画的な物語としてはよくできていたし、割と読んだ後の満足感もある作品だった。

キャラクター

岬 丈二

物語の主人公。

冒頭ではできる奴のような空気を出しているが、実際はその真逆。
詐欺まがいの会社で働いて家賃は滞納、挙句に友人と喧嘩になってその車を奪って逃げるとんでもない奴。

なのだが根が悪人と言うわけではなく、その辺りに関してもいい意味でも小物感がある。
その部分のキャラ付けは見事で、その友人が放っておけない感じもよく出ていたように思える。

最終的には考えを改めて、現実に向き合っていく。

渚 麗奈

物語のヒロイン。家出少女。

成り行きで丈二と合流し、そのまま逃亡劇に出る。

身の上話をしながら少しずつ距離を縮めていき、最終的には丈二の心を少しずつ解していく。

彼女自身もまた丈二との出会いによって救われるのだが、彼女の事情はもうちょっと台詞以外で語っても良かったのかなと思ったり。

総評

評価点

爽やかな読後感のある、映画的なお話。

道中は最終的にどうなるのか読めない部分もあるが、少しずつ二人が前向きになっていく姿には勇気を貰える人もいることだろう。

映画的な雰囲気も良く出ていて、短編ながらに読み終えたときの満足度は高い。

問題点

後半は少し駆け足と言うか、もうちょっと丁寧さがあっても良かったかも知れない。

テーマパークでの会話がちょっとふんわりし過ぎていたようにも感じた。

最終評価 56点(Web小説としては充分な良作)

作者さんの言う通り、確かに映画っぽく楽しめる作品。勿論小説として読みにくいなんてことは全くなく、文章はしっかりしている。

台詞回しなどのおかげで映画的な雰囲気が強く出ているように感じられた。

作品としてはとても読みやすく伝わりやすい。テーマにも共感できる部分が強く、だからこそこの小説を読んで何かを感じ取れる人は多いのではないかと思う。

物語にも芯が通っているのでブレず、最終的な終わり方も希望を感じさせる爽やかなものとなっている。

そう言った諸々の要素から、万人にお勧めできる良作小説と言えるだろう。

映画気分でポップコーンでも摘まみながら読んでみてもいいかも知れない。

所要時間は凡そ40分ほど。

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