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理のカタン、情のカタン

※本記事は2023年7月9日に自身のブログに投稿した記事の転載です。


ボードゲームのカタンに最近ハマっています。学生時代にそこそこやってはいましたが、最近熱が再燃して知り合いのコミュニティに入れてもらい日夜プレイしています。

カタンガチ勢ではないので最先端の環境とかは知りませんが、Twitter上に流れてくるカタン関連のブログ記事を読むと初期配置考察が多いので、逆張りで別のテーマで書いてみます。まあカタンで最もロジカルになる部分って初期配置ですし、実際初期配置でゲームの半分は決まると言っても過言ではないので初期配置考察が大切なのは事実です。ですが要素の残り半分、そのうちの大きな割合を占めるのは「交渉」だと考えています。なので今日は交渉をテーマに書いていきます。今回の内容はボードゲーム全般に言えることですが、基本的なカタンのルールは確認しておくのがベターです。以下に公式ルールのリンクを貼っておきます。




1on1対戦ゲーム:正しさ=強さ

僕は元々ポケモンとかシャドバとかの1対1の戦略型対戦ゲームの出身で、そのタイプのゲームで勝つためには「いかに合理的で正しい選択を取り続けるか」が重要視されます。多少の運要素に左右されはするものの、80%正しい選択を取れるプレイヤーは50%しか正しい選択を取れないプレイヤーよりも長期的な勝率は高いでしょう。そして正しい選択を取るためには論理的に物事を判断する必要があって、それは毎ターンの選択であったり試合全体の大局観だったりします。

例えばポケモン対戦なら目の前のポケモンにだけ効果抜群で通る技よりも相手が交代したとしても通る技を出した方が勝ちに繋がります。相手がどんな行動を取ったとして対応できる合理的な行動を選択することが肝要です。そのため対人ゲームで強い人はロジカルな思考をする能力に長けていて、高学歴の人も多い傾向にあります。

ポケモン、シャドバ、将棋、格ゲーなどいわゆる対人ゲームと呼ばれるジャンルでは、目の前の人間は倒すべき対戦相手でしかなく、勝敗はゲームシステムのみに左右されるのでロジカルに正しい選択を取ることこそが強さです。


ボードゲーム:正しさ≠強さ

カタンは4人のプレイヤーが一つの島にテリトリーを築きながら自身の土地を発展させ、10点獲得することを目指すボードゲームです。資源の調達はダイスの出目によって決まり、集めた資材で家や都市を作り点を稼いでいきます。最終的に一人が勝ち残り三人は敗北するルールですが、試合中の交渉や協力は認められています。

この「交渉」という要素がミソで、先述の対戦ゲームにはあまりない要素です。今でこそオンラインでやることもありますが元来ボードゲームはオフラインで面と向かってプレイするものです。目の前の相手は敵対するプレイヤーですが、場合によっては協力相手でもあります。となるとこれは論理の問題であると同時にコミュニケーションの問題でもあるわけです。人間は全員が合理的ではないので、対戦ゲームと違って合理的な選択が正しい選択とは限りません。正論を言っていても聞き手にとってはムカつく内容であるかもしれないし、同じ内容であっても誰が発言するかで受け取り方も変わってきます。もちろんある程度合理的な選択をしないとボドゲは勝てませんし、強い人ほどロジカルなのは共通しています。ただし論理だけでは勝てないのがボドゲの難しさであり面白さであるわけです。


長期利得と短期利得

ゲームにおいて論理的に思考するというのは、長期的な視点で物事を俯瞰できるという要素を含みます。それはカードゲームなら大局観と呼ばれる概念で、例えば最終的に勝つために特定のターンでは痛手を負ってでも準備をする必要がある、という感じですね。大局観が分かっているプレイヤーは長期的な利得(勝利)がどうすれば得られるか分かっているので、短期的な利得(目の前のターンの損得)を必要に応じて放棄することができます。

一方で非合理なプレイヤーほど目先の損得に囚われる傾向にあります。先ほどのカードゲームの例で言えば、とりあえず今のターンで優位が取れていれば勝てるだろうと漠然と考えている状態です。

この利得の考え方は当然カタンにおいても有効です。カタンにおける大局観は大きく二つあり、一つは「この配置ならどういうふうに点を稼いで勝利するか」、すなわち「自分の長期利得の獲得」です。例えば初期配置で麦・鉄・羊が多く取れるプレイヤーはカード・都市化戦法をすべきだとか、鉄が取れない配置なら開拓地を多く立てて最長交易路を取って点を稼ごう、といったプラン立てですね。

そしてもう一つは「他プレイヤーをいかに優位な状況に立たせないか」、つまり「他人の長期利得の妨害」です。こちらはモロに交渉が関わる概念ですね。例えば次のターン最長交易路を獲得して勝利しそうなプレイヤーAがいれば、別のプレイヤーBに資材を融資してAを妨害する行為を指します。これって一見短期的には自分は得をしませんが(自分の点は増えていないので)、長期的に見ればAの勝利を遅らせたことで自分にも勝ちの芽が出てくるので自分も得をしています。ある程度カタンをやっている人ならこういう場面に遭遇したことがあるはずです。ただこの交渉が成立するのって全プレイヤーが合理的である場合に限られるんですよね。「俺はこのターン損するのが嫌だ!融資したくない!」というプレイヤーがいれば普通にAが勝ちます。1on1対戦ゲームであればゲームシステムによってのみ勝敗が左右されますが、ボドゲは人間という不確定要素が介入することでロジックでは解決できないエラーが発生する余地が発生します。


理の交渉、情の交渉

では先述のようなエラーはどうして発生するのでしょうか。一つはその人が単純に下手なプレイヤーであるからです。論理が通じず気分でプレイする、目先の利益しか見えないプレイヤーはロジカルな交渉では説得できないかもしれません。ただこのパターンは順当に下手な人が負けるのでロジカルプレイヤーにとって大きな障害にはなりません。

二つ目の要因はプレイヤー同士で大局観が異なっているからです。散々使っている「合理的」という単語は、あくまで神視点での意味であって、実際はプレイヤーごとに意味合いが変わってきます。プレイヤーAの勝利を妨害するためにプレイヤーBに最長交易路を獲得させる融資を行うという先ほどの例でいくと、もしかしたらプレイヤーCは自身が最長交易路を獲得することが勝利条件だと思っていて交渉に応じないのかもしれません。Aに上がられる可能性が高いリスクを負ってでもBに最長交易路を渡さないことが長期的な自身にとって合理的だと考えている場合ですね。これに関してはロジカルなプレイヤー同士でも普通に起こり得ることです。ただしこの場合は交渉と説得によりCを協力させることができる可能性があります。コミュニケーションで互いの価値観のすり合わせができればエラーを潰すことができます。

三つ目の要因は感情の不確定性によるものです。繰り返しになりますが、ボードゲームは対戦の場であると同時にコミュニケーションの場であり、コミュニケーションはロジックだけでは成り立ちません。

例えば「木を1つ提供するので土を1つください」という内容でAがBに交渉をする場面を想像してください。仮に「Bさんにとって土は希少な資材だからこの交渉はあなたにとっても良い条件なんですよ(だから交渉に応じてください)」とAさんが発言した場合。この交渉のお互いのメリットを説明し交渉に乗ってもらうとする、これは「理」の交渉です。

ではここでAさんが、「この交渉は俺(A)にとって〇〇というメリットがあって~、Bさんにとっては▲▲で~、今この状況ではCとDが■■だから~~、(中略)結果★★なので交渉に乗ってください(発言時間5分)」と語りかけた場合はどうでしょう。この場合でもそれぞれの利得について説明した上で交渉してるので理論的な内容はほぼ変わらないはずですが、Bさんは(なんか話長いな~、必死だな~)と不信感を募らせるかもしれません。加えて高圧的であったり、乱暴であったり、オドオドしていたりしても同じように人に不信感を抱かせます。人の話し言葉(パロール)には発言の内容以外にも口調や抑揚、話の長さやアクセントなど様々な意味が乗っかているのです。

そもそもカタンでは各プレイヤーが勝利に向かって行動するものとする、という前提条件がある以上、交渉えお吹っ掛けられたBにとってメリットのある交渉でも実際は吹っ掛ける側にとっても何らかのメリットがあるわけで、交渉の真意は吹っ掛ける側のその人しか知り得ません。なので発言で不要な情報を乗っけることはそれ自体が疑念というリスクを孕みます。ある人が論理的に正しいことを言っていたとしても他人が発言者に疑念を持っていれば交渉が通らなくなることもあります。何だかんだ言っても人間は理だけではなく情で動く生き物なので、他者の信頼を得ることも結構大事な要素です。そして信頼を得るためには理だけでなく情が必要になることもあります。それは恩だったり、話し方といった情報だったり、パーソナリティだったりするわけです。この辺っていかに相手を蹴落として優位に立つかという戦場を生き抜いてきた対戦ゲーマーだと抜けがちな視点なので自戒も込めて語っておきます。

コミュニケーションは論理だけじゃうまくいかないこともあるというだけの内容で長くなってしまいましたが、この辺で終わります。


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