コードに引っかかってコケる
頭の花はとうに枯れていた。
それでも顔を出さなきゃいけない会というものが、この世にはコンビニの数だけ存在する。
しなしな歩きながら、しなしな人の輪に入る。
誰そ。
会わずしてその歳月伍年ナリ。
UWA! Meccha Kawaiku Nattanee!
おっと、かつてそこそこに仲良くしていたあの子、舌に金属を嵌め込んでいるぢゃないか。随分頼もしくなったものだ。
へい旦那!ジャン負けでジン一気でゴンス!
くっくっく、主も悪よのう、
さいしょはぐっじゃんけんぽいっ
頭の花はますます枯れていった。
みんな、みょうちきりんなところを変えながら何も変わらず、かと思ったら足の親指みたいな実は大事だったところをすっかり変えていたり、もう何が何だか、ああ、全員初対面ということで、いいでしょうか。
しなしな、外に出る。
外に出たら、花は多少生き返った。
なあ、お前、あの頃、コードに引っかかってコケてたよな。
突然後ろから声をかけられて、振り向く。
赤いネクタイだ、と思ったまま、答えた。
あ、はい。そうです。コケました。卍の集団に追いかけられまして。あの頃は卍が流行ってたので。はい。
あの頃、俺も逃げてたんだ、実は。
あ、そうだったんですか。
それで、お前と一緒にコケた。
あっ。それはそれは。
ごめんな。
いや謝ることでは。
じゃあ。元気で。
はい。お元気で。
あのさ。
はい。
お前、大した役者だったよ。
頭から、花がもげて落ちた。
私は頭に、茎だけ刺している人間になった。
そうか、あの頃、私はこの赤ネクタイと一緒に逃げて、一緒にコケたのか。そんなこともあったかもしれない。
けど、昔の話だ。
今の私は、青いネクタイをつけるような人との方が、一緒に逃げたい。
その夜。
自分の部屋に帰ると、部屋の北東の隅から南西の隅まで、天井から床まで、大量のコードで張り巡らされていた。
これは、ひっかかってコケてはいけないやつだ。
みっちょんいむぽっちぶる!!
私は叫んで、足をそっと部屋に入れた。
クローゼットの隙間から、青ネクタイが応援した。頑張れ!
私はベッドまであと半分というところで、途方に暮れた。
コードの網が果てしない地獄のように感じる。
疲れてきた。
ねえ逃げたいな、一緒に逃げない?
と私は青ネクタイに言いかけて、あ、そうか、あれはクローゼットの中だから、もう逃げ場にいるのか。
というわけで、このコードたちに、言いたいけど言えないことたちに、引っかからないように、ひとりで歩く。私はどうやら大した役者らしいので、別にひとりでも、大丈夫である。
ところがどっこい!
ひとりが大丈夫なんて、というか、嗚呼アタクシヒトリッキリダワァなんて、不遜で下品で馬鹿なのである!
ばーか、ばーか!(チョッ, チガッ, バカジャナイモン!)
ばかは〜♪一生なお〜♪ら〜ない〜♪
天井の上で、神様が煽ってきた。
その瞬間、ベッドの手前までようやく辿り着いていたというのに、一番最後のコードにとうとう引っかかり、コケた。
ああ!
みっちょんはやっぱりいむぽっちぶる!!
私はベッドに倒れた。
目が覚めると、そこは深海だった。
私はホウライエソになっていた。
ああ、惨めだなぁ。
こんなに顎が外れて、こんなに目も飛び出て、こんなに歯も汚くて、真っ暗な海でほんとうにひとりだ。
神様は少しも、許してくれなかったんだ。
私は濃紺の空間を寂しく泳いでみた。
ふと泡に反射した自分を見ると、頭に茎が刺さったままだった。