乾かすよデコポン
ドライフルーツを作ろうとした。換気扇をつけ忘れたので、家中がデコポンになる。
明日、じゃなくて、あたし、そういえば右利きだった。と言って左手から箸を持ち替えたとき、AくんもBちゃんもCも静まり返って、Dは鼻を鳴らした。Eは「両利きではないの?」と言った。FはEに対して鼻を鳴らした。
問題。A~F+あたしの中で、人狼は誰でしょう?
目が合わない。大勢で話すと、いつも目が合わない。話している人は、いつも他の人と目を合わせていて、私が話している時でも、いつも他の人の反応を見ている。あ、虹。って言ってみた。みんなが振り向いた。私の作り出した虚構に、みんなが目を向けたんだから、それはほとんど、私のことを見てくれた、ってことでいいの?
あ、虹。もう一回言った。みんなが目を逸らす。あ、待って待って、ツチノコ。
あ、うそ、ペガサス。ごめん違った、ユニコーン。あ、え、やばすぎ、イエティ。やばすぎ。足跡でかすぎ。
アメリカの大学に行こうかなと思っています。えー、亜米利加?すごくない?
お前はさ、総理大臣にならないの?え?ならないよ?だって法学部じゃないし。法学部じゃないからなの?そうじゃない?文学部から総理大臣にはなれないでしょ?
違うよね?え?違うよね?
ドライフルーツは、何度もお湯で、デコポンをいじめる。茹でて、湯を捨てて、茹でて、湯を捨てて、そうして、また砂糖水で茹でて、乾かす。もう、ズタズタだ。ズタズタのデコポンだ。丁寧に、茹でてあげればよかった。
丁寧に、生きてみたつもり?そうなのかな。でもドライフルーツはまずいし。
乾燥するまで一日も待ってられないな。で、待ってられなかったことが、すごく多い気がする。
あなたが夢に出てきたことが、たくさんある。夢から覚めようとするとき、脳の中の、忘却するための機能が、働くらしい。それでも忘れなかったことを、人は夢と呼ぶらしい。だから要するに、あなたのことを忘れようとして、なのに覚えていたってことが、一回のみならずあるんだよ。
私は悲しいよ。あなたの中に、ずっと誰かがいて。あなたも悲しいよね。私の中にずっと誰かがいて。もうこんなこと終わりにしよう。ついでにクソまずいドライフルーツ食べませんか?まずいだけじゃなくてお腹も壊せますよ。消化不良を起こすので。
あ、虹。と言って、何回でも付き合ってくれたあなたも、とうとう私から目を離し始めた。どうしても、どうしても、他の方法じゃ、無理だったんだから、仕方ないんだろうけれど、それでも、それでも。家中がデコポンになって、私は一人、ずっと、乾いていく柑橘を見ている。