雨の2曲(山下達郎、矢沢永吉)
梅雨である。湿気が多く、気分も落ち込みがちとなるこの季節だが、学生の頃は、雨の日に聞きたくなる音楽や「雨」という言葉のタイトルがついた楽曲をカセットテープに録音し、オリジナルテープを作って楽しんだものだ。
ビートルズの「レイン」やBJトーマスの「雨にぬれても」など鉄板ネタはいいとして、私が必ず選ぶ2曲の邦楽があった。
山下達郎の「レイニーウォーク」と矢沢永吉の「レイニーウェイ」だ。この2曲、意外なところに共通点がある。
もちろん「雨の歌」と言うことだが、ともに1980年に発表されたこと。そして、2曲ともシングル盤のB面だったということ。
達郎の「レイニーウォーク」は大ヒットシングル「ライド・オン・タイム」のB面。矢沢の「レイニーウェイ」は「涙のラブレター」のB面だ。
ともにB面扱いであるが、私はA面でも良いと思うくらいクォリティは高いと評価していた。
「レイニーウォーク」はもともとアルバム『ムーングロウ』(1979)に収録された楽曲でアルバムの中でも特異な曲であった。
他の楽曲がストレートなロックやジャージーなナンバーであるのに対し、「レイニーウォーク」はシカゴ・ソウル風で異彩を放ち、この曲だけ演奏メンバーも変えられている。
一番わかりやすい例でいくとドラム。
『ムーングロウ』では、ロック系のドラムは上原“ユカリ”裕、ジャージー系は村上“ポンタ”秀一が担当しているが、この「レイニーウォーク」は高橋幸宏である。ベースは細野晴臣が担当していることからも、リズム隊としては重めというか湿ったビート、まさにレイニーなのである。
高橋幸宏のビートは跳ねない。ベタベタとした粘るビートであることから達郎はセレクションしたのではないかなどと想像しながら聞くと面白いものだ。
そしてこの曲、達郎のヴォーカルもほとんどがファルセット。
1979年当時、男のファルセットなんて認知もされていない時代によくもまぁこんなにソウルフルな楽曲を作ったもんだなと思ったものであった。
当時、私は中学3年であったが、ソウルチャートを追いかけ始めた頃だったので、この曲はアメリカの黒人ソウルシンガーが歌えばいいのにと思い、達郎のサウンドストリートに葉書を出したことがあったが、読まれもしなかった。
矢沢永吉の「レイニーウェイ」は、矢沢にしては地味なシングル「涙のラブレター」のB面。但し、この歌、ブラスセクションが豪華でライブ1曲目で取り上げられたこともあるくらいド派手な歌。1989年「STAND UP TOUR」や2002年の日本武道館公演のオープニングで使用され、チョー格好良い永ちゃんの登場シーンであった。
矢沢が歌う雨の歌は数多くあるが、とりわけこの「レイニーウェイ」は、ビートも重く、矢沢の泣き節が冴えわたる。
矢沢のヴォーカルは泣き声に近い。笑っていない。特に高音を絞り上げる際は顕著に現れる。
その泣き節に重厚なホーンセクション。雨というより雷雲という雰囲気である。
印象的なホーンのフレーズは頭に残る。
ガツガツとしたギターカッティングや野太いベース。なんと矢沢自身がレコーディングしているとのこと。矢沢も思い入れもがある楽曲なのではないだろうか。ちなみにドラムのスネア音は段ボールを叩いたのだとか。今のように何でもサンプリングされた素材があれば何てことないが、1980年当時はこの段ボールの音がベストサウンドだったのだろう(ちなみに拓郎の「結婚しようよ」(1972)のスネアも段ボールだった)。
とにかく、矢沢の「レイニーウェイ」を聴くと身震いするというかなんというか。
こういう楽曲を作るミュージシャンって中々最近いなくなった。
雨はシトシト降ったり、ドシャ降りであったり。季節によっても雨の情景は変わる。
五月雨、こぬか雨、9月の雨、氷雨、Hard Rain、Summer Rain・・・。タイトルだけ見ても面白い。
雨が降り、家の中で篭ってしまう時、雨の歌を探しながらレコード棚を探索するのも一考かと。
2014年7月8日
花形