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『LIVE』 DONNY HATHAWAY

 「you’ve got a friend」のイントロの4つの音がエレピから出た瞬間、観客のうねる様な叫び。この叫び声がこのアルバムの全てを物語っている。洋楽、邦楽合わせて数多くのライブアルバムが発表されているが、会場の臨場感や熱気、プレイヤーの息遣い、グルーヴなどが素直に伝わってくるアルバムとして、このアルバムは他の追随を許さない。

 もともとはピアノプレイヤーやアレンジャーとしてメジャーデビューの機会を伺っていたダニーだったが、キング・カーティスに認められ、持ち前のセンスと歌唱力を武器に1970年にデビュー。歌手になる前は黒人スラム街で音楽教師や説教師をしていたので、出てくる音や言葉にメッセージ性が強く認められる。人種問題や自由といった当時のアメリカ文化が色濃く出ているファーストアルバムの『EVERYTHING IS EVERYTHING』(邦題:新しきソウルの光と道)、セカンドアルバムの『DONNY HATHAWAY』(1971)など同時期のスティービー・ワンダーや自らカバーしているマーヴィン・ゲイ、そしてすべてのソウルアーティストに影響を与えていたのではないだろうか。

EVERYTHING IS EVERYTHING
LIVE

そしてこの『LIVE』(1971)である。当時のアメリカはベトナム戦争の真っ最中で、人種差別もまだ色濃く残っている時代だ。その時期に「WHAT'S GOIN' ON」(マーヴィン・ゲイ作。ベトナム戦争を嘆いて作られた最大のプロテスト・ソング)が1曲目。大盛り上がりを見せている。
黒人中心の観客に向かい「Talking about the Ghetto」とコールする黒人のダニー・ハザウェイ。LAのライブハウスのほとんどは黒人だったろうし、自分達の未来に向けての賛歌は暗いハウス内にコダマしただろう。その流れで「you’ve got a friend」が演奏され、会場は一体となり、あの大合唱だ。
僕がこんなに落ち着いて書いていられるのも何回も聴いたからであって、最初に聞いた時は手が付けられないほど感動したものだ。
 レコードでは、A面がLA、 B面がNYのライブスポットの録音になっている。B面はA面と違い、場所 柄か演奏もクールに聞こえる。決してさめているわけではないが、鋭いソウルフルな演奏と歌唱を聴くことができる。ダニー若干26歳の堂々とした歌唱である。

  ダニー・ハザウェイは1979年1月13日にニューヨークのアパートから投身自殺した。デュエットアルバムを製作し、公認の仲であったロバータ・フラックはこの事故を境に一時期音楽シーンから姿を消したほどのショックを受ける。何故自殺という手段を選んだか、何が彼を苦しめていたのか、未だに真相は不明のままである。
 彼が残した『自分は自分、人と比べる必要はないんだ。そして、みんな友達なんだ』という有名なメッセージがある。人種問題を通り越して、根本的な人間的な部分のメッセージは、当たり前のことを言っているに過ぎないが、そのメッセージをあえて言わなければならない境遇に立たされたダニーの気持ちが彼の死を早めたのではないかと推測する。そして、世界中で争い事が絶えない現在、再度この言葉を声に出して叫ぶ必要があるのではないか。音楽で世界が変えられる、と思っているほど甘くはないが、少なくともあのライブハウスで合唱している人たちはどんな境遇であっても、あの瞬間は、平和だったに違いない。

2005年7月23日
花形

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