見出し画像

『ベスト・オブ・ベンチャーズVol.1+Vol.2』 ザ・ベンチャーズ

 1965年生まれの僕らの世代でザ・ベンチャーズから影響を受けた人は少ないと思う。なぜなら、日本にエレキブームが起きたのは1965年過ぎ。加山雄三の映画、若大将シリーズにも<エレキの若大将>なんて作品があるくらいで(ちなみにこの作品の主題歌は「君といつまでも」だ)、日本中がテケテケやっていた時期。
テレビでは<勝ち抜きエレキ合戦>なんて番組もあり、東京ベンチャーズや東京ビートルズとかいうグループも出ていたらしい(何でわざわざ東京なんて付けるのかね?)。そんな前時代の音楽は我々世代の10歳以上の文化だからだ。
 日本のエレキブームの火付け役はもちろんザ・ベンチャーズ。江戸末期の黒船同様、エレキギターは当時の若者たちにセンセーショナルに広がっていった。衝撃の音はそれまでに聴いたことの無いものだったようだ。
そしてそこに目を付けた日本の歌謡界は、グループサウンズという文化を作り上げてしまったのだ。また、ザ・ベンチャーズは渚ゆうこと組んで「京都の恋」」「京都慕情」なんて歌もヒットさせたかんね。恐るべしですよ。
 ザ・ベンチャーズは、1965年の初来日からつい最近まで毎年のように来日している。夏になるとやってくる季節労働者のように言われていたが、最近は冬にも来るのだ。しかも夏のリードギタリストはジェリー・マギー、冬のリードギタリストはノーキー・エドワーズと言った具合に編成を変えてくる。なんちゅうバンドと思うが、曲ありきのバンドなんだろう。名曲アワーの如く、次から次へとヒット曲のオンパレードになるわけで、その曲が楽しめればそれはそれでいいという事なのだろう。

 成毛滋が昔、音楽誌に寄稿していたが、1970年前後の日本の軽音楽なんて、欧米と比べたら化石時代だった、と。レコードで聴く音を表現することなんてできない。グィーングィーンと唸る音はどうやったら出すのだろう、と真剣に悩んだらしい。
実際、成毛はアメリカに渡り、フィルモアウェストでエリック・クラプトン率いるデレク&ザ・ドミノスを目の当たりにして全て理解したそうだ。クラプトンが、いとも簡単にチョーキングというテクニックで音を伸ばしている事実。また、ギターを見るとやけに細い弦が張られている・・・ライトゲージの発見。そして、マーシャルで音を歪ませていることなど・・・。
 成毛はGSの衰退を肌で感じていたので、新たなるロックを探し始めたわけだ。しかし、当時は成毛のように海外に誰でも行けるわけではなく、一般人は相変わらずベンチャーズを見てエレキギターを学んだ。
今では当たり前のライトゲージ弦や、各種エフェクターも積極的に使用して、それらをメジャーにしたのもザ・ベンチャーズだし、エリック・クラプトンも、ノーキー・エドワーズには一目置いているとも聞く。日本では、ブルーノートスケールやチョーキング、ハンマリングなどのテクニックも、ノーキーがやるまでは、誰も知らなかった。
 わかりやすいメロディで、しっかりとしたテクニックのもと、人の心を魅了することは並大抵のことではない。いくら速弾きや、アクロバットな奏法ができたとしても、人の心に残るメロディでなければ、通り過ぎてしまう。“ふーん、うまいね。”で終わってしまうのがオチなのである。
 そこへいくとザ・ベンチャーズはメロディ重視。ライブで聴くと意外と骨太なロックらしいし・・・。そうなのだ、私はまだ生で見たことが無いのだ。哀。

 私にとってザ・ベンチャーズは、中学時代に教会のバザーで「10番街の殺人」のEPを手にして以来、いつも心に引っかかっていたバンドだった。昔の音楽雑誌で私の好きな日本のギタリストたち(鈴木茂、Char、徳武博文・・・)がみんなノーキー・エドワーズに影響を受けたと書いてあったこともひとつの要因。
 それでは、そのノーキー・エドワーズってどんなギタリストなんだろうと中学時代に思ったものだ。
後にビデオで確認したとき、ピッキング、運指ともに基本に忠実!ギターってぇのはこうやって弾くもんだ!って光線がバリバリ飛んできた。しっかりと構え、メロディアスなフレーズを奏でていた。
 そう、ザ・ベンチャーズは絶対侮れないのだ。
また、ザ・ベンチャーズはエレキ・インスト・バンド・・・ギター中心のバンドと思われがちだが、僕が一番感心したのは、ドラムである。メル・ティラー(故人)の叩くビートは、ハードロックのそれとなんら変わりない。かの山下達郎もメル・テイラーの大ファンだとか。

 『ベスト・オブ・ベンチャーズVol.1+Vol.2』(1999)は、1960年代に日本独自で編まれたベスト盤2枚をリマスターし再発したもの。ボーナス曲を含む全29曲は聴き応えがある。ザ・ベンチャーズファンならベスト盤よりも名盤がある!と言われそうだが、まずは聴いてみようと言う意味も込めてのベスト盤。
音の好き嫌いは別にしても、よくできたアレンジとパワフルなリズムを聴けば、テケテケなんてイメージは吹っ飛ぶ。

2007年2月7日
花形

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?