浪人時のスクェア
最近、娘(次女)から
「パパは浪人して大学に入ったんでしょ」と言われたので、「浪人とは大学に行くためにがんばる人のことで、アタシはがんばっていなかったから浪人とは言わない」と言ってやった。
「でも、ママとその頃出会ったんでしょ」と食い下がってきたので、
「ママは勉強しに図書館に通っていたが、アタシは図書館の横の児童館で毎日卓球していて、飽きると図書館で本を読んでいたんだ」と答えた。
そんな会話を聞いていた家人は、
「あなた、本当に勉強してなかったの?」と今更ながらの質問。
「あーそうだよ。何をしていいかわからなかったからね・・・。図書館だから好きな本は読み放題だしね。飽きたら近くの名画座で映画を死ぬほど観てたなぁ」なんて答えたら、マジでドン引きされた。
「じゃ、なんで大学行ったの?」なんて聞いて来たから「面白そうな大学を見つけたから」って答えたら、娘が大笑いしていた。
「結局やりたいことしか、やらないんだよね~、私とパパは・・・」なんてしみじみ言いやがった。
しかし、あの頃はなーんにもしていなかったな。
外に出ない時は、家でずーっとテレビを観てた。
朝の「ワイドショー」、昼の「笑っていいとも」に続き、午後は、ほぼほぼドラマの再放送なんだよね。
でも、我が神奈川県のテレビ神奈川だけは攻めてたね。
ま、予算がそんなに無いからMTVや公開録音の映像をダダ流しするだけなんだけど、そんな音楽番組の中で、「ミュージック・トマト」っていうのがあって、みんな「ミュートマ」とか言ってた。
で、そこでやたらと流れていたのが日本のフュージョンバンドのスクェアだった。
スクェアの名前を初めて認識したのは、1970年代後半に音楽誌「新譜ジャーナル」で読んだ松任谷由実ライブレポートで彼女のバックバンドだったということ。そして、その後レコード屋で見た彼らのアルバム『脚線美の誘惑』(1982)のアルバムジャケットが妙に艶っぽいという印象だった。
だから、「ミュートマ」でヘビロテしていたアルバム『ADVENTURES』(1984)は、初めてちゃんと聴いたスクェアだった。
当事のフュージョンバンドといえば、カシオペアやプリズム、KYLYNなどがテクニック重視、そこにパラシュートやなにわエキスプレスなどが加わり混沌としていた中、スクェアはこの『ADVENTURES』でジャズ・フュージョンチャートでは無く、一般チャートで8位を記録した。わかりやすいジャズというか、それは一つ間違えればイージーリスニングになってしまうくらい心地よいメロディーであり、時代的もシャカタクなどが全世界でヒットしていたことから、「時代の音」だったのかもしれないな。
とにかく毎日流れていたので、安藤まさひろのギターソロが歌えるまで聞き込んだわ。というか、スピードラーニング状態。
『ADVENTURES』(1984)は聴きやすいアルバムで、日本のフュージョンアルバムの中でもテクニックだけに走ることなく、とてもメロディアスな楽曲が多く収録されている。
それはリリコンを奏でる伊東たけしがまるで歌っているかのような、それはヴォーカルアルバムのような、そんな印象のアルバムなのだ。
リリコンの仕組みは良くわからないが、グリッサンドの音がサックスのそれよりクラリネットのそれに近い気がする。つまり、ベンディングというかギターでいうところのチョーキングと言うのか・・・。
強いビートでは情熱的になり、スローではむせび泣くような音になる。
冒険者(ADVENTURES)というコンセプトで進む楽曲。
明るいビートでキャッチーなメロディラインの「ALL ABOUT YOU」、旅情の雰囲気の「Cape Light」、大団円の「Travelers」と聞き応え十分である。
その後スクェアは、私が大学に入った年には『R・E・S・O・R・T』(1985)を発表。CMやテレビ番組のテーマソングなど様々なタイアップで名を馳せて行く。『S・P・O・R・T・S』(1986)と続き、F1のテーマソングで有名な『TRUTH』(1987)で昇華。リリコンもここまでなんだよね。
その後もバンドは続くんだけど、屋台骨の伊東たけしが脱退したり、サックスやキーボードもメンバーチェンジが激しくなり、どちらかと言うとギターの安藤正容のプロジェクトみたいになってきたね(いつの間にか、まさひろが正容になってた!)。
振り返るとなーんにもしていなかった2年間でリアルタイムに聴いたアルバムってスクェアだけかもしんないね。古いジャズやブルーズ、ウッドストックに出ていた連中のアルバムしか聴いていなかったから、スクェアの音が妙にキラキラしていたね。そりゃ、明日もわからんモラトリアム人間がウキウキした音楽聴いてても様に成らんしね。
今、アルバムを聴き直すと、リチャード・クレイダーマンみたいなイージーリスニングに聴こえるな。アレンジの古さかな・・・。なんか、田舎のおじいちゃんの家に行ったみたいな感覚だわ。
あ、これ、アタシなりの褒め言葉よ。
しかし、次女の言葉・・・
「結局やりたいことしか、やらないんだよね~、私とパパは・・・」ってなんか重いな。
2019/3/13
花形