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Fって知ってっか?!

 ヤマハのソリッド・ステートアンプでFシリーズをご存知だろうか。
70年後半から80年代に活躍した名機で、ローランドのジャズコーラス(以下JC)と並んで全国の練習スタジオに設置されていたギターアンプである。

 このアンプ、現在、都内でほとんど見かけなくなったが、たまに地方の古い練習スタジオやライブハウスにひょこっとあったりする。そんな、このアンプ。私は大好きなのだ。
 ヤマハは様々な楽器を開発しているが、私はこのFシリーズが最高の商品であると信じて疑わない。
なぜならば、Fシリーズは「ファットサウンド」でありながら、且つクリーンな音も出すことができるといったコンセプトを持っていたからである。
真空管アンプでファットサウンドは理解できるが、耐久性や機動性を鑑みたとき小型トランジスタアンプであのサウンドを出すというところにFの意義があったように思うのだ。
 同じ時期にJCも活躍していた(現在も活躍中)が、キーボード用のアンプとしても使用できるこのJCの音は、クリアすぎてトレブルが非常に強い印象がある。しかもボリュームカーブが激しく上がるラインなのでメモリを1つ上げるのに非常に気を使う。 音がすぐでかくなり、気を緩めるとピーピー言ってすぐハウリングを起こす。しかも「ディストーション」なんてつまみも付いていたが、とても使える代物ではなく、「コーラスアンサンブル」搭載のアンプということで有名になっただけというのが私の印象だ。
 また、妙にクリアすぎるのも音の単一化につながり、没個性になる気もして私はどうも苦手だ。
その点Fは、クリーントーンもゲインを上げたブーストサウンドも自然な響きである。真空管アンプのようなコシのある音も出る。しかも、この自然な響きで太い音を出すというところにこのFの存在意義があると思うのだ。だからわざわざ名前にFを入れた理由は、この小型ソリッド・ステートアンプで太い音が出るというところに固執している証なのだと勝手に思っている。だってメーカーとしては、太い音を単純に出したければ、大型の真空管アンプを作ればいいという話だからね。トランジスタアンプで太い音とクリアな音の両立を図るという挑戦の結果なんだとプロジェクトX的に一方的に判断した。

ギターアンプカタログ

 さて、私のエレキ人生はたった4年だが、その間のライブハウスやスタジオでは常にこのFがいた。たまにフェンダーのツインリバーヴ系に浮気をすることもあったが、基本はFである。そんな私が大学も卒業し、エレキギターも卒業し、アコースティックギターに染まり始めた頃、ある事件がおきた。
私は、アコースティックギターの定番であるマーチンを買いに御茶ノ水の楽器街を彷徨っていた。新品よりもビンテージの掘り出し物がないかと彷徨っていたのである。そんな時に、ある中古楽器屋に立ち寄った。
 ギターを何本か試奏しているうちに私の視界にあの黒いボックスが飛び込んできたのだ。
 時は1995年。いやはや、紛れもないFではないか。しかも学生時代によく出演していた渋谷ヤマハ・エピキュラスで使っていた50WのF。
思わずマーチンを放り出して(そーっと置いて)、Fに向っていった。
4万円。・・・微妙な価格設定。
でも、こりゃ今買わずしていつ買う?・・・ここで会ったのもなにかの縁・・・エレキギターだって家に何本もあるんだからアンプだって満足のいくアンプ欲しいじゃん・・・Fって言ったら100WのF100-212やF100Gなんだけど、家で2段積みにしてもしょうがないし・・・おっ、これはF50-112のコンボタイプだからあまり場所もとらないし・・・。
なんてことを考えながらじーっと見ていた。

 その日はマーチンをさっさと買って家に帰ったのだが、Fのことが気にかかっちゃってね。
次の日にまた横浜から御茶ノ水まで繰り出していったのだ。しかし、マーチンを買ったばかりなのでそんなに予算の余裕もない。ということで家にあったお宝写真集「浅野ゆう子」とデビュー前の「山口智子」が載っている「Number」という雑誌を持って家を出たのだった。そう、御茶ノ水の隣町は神田神保町。古本の街である。
お宝写真集と雑誌を売って、Fを購入したのである。

 私は重たいFを家にもって帰り、すぐに音を出した。あのときの音が甦った。スプリングリバーヴもしっかり利いているし、ストラトやギブソンのSGなんて一般的に音が細いというイメージのギターで鳴らしても、しっかり低音部分を押し上げながらどこまでも音が伸びる。浅野さんや山口さんを棄ててもFを手にしたことは正解であった。

 最後に、Fというアンプは意外にプロミュージシャンにもいまだに人気がある。私が最近見たF使用のギタリストは、内田勘太郎、和田アキラ、小川銀次・・・そういえば、昔ピットインで私の敬愛する鈴木茂も使っていた。私はそのセッティングを見て自分は間違っていなかったとなぜか感涙に咽んだことがあったっけ。

ということで、Fはいまだに家で太い声で鳴いている。

2009年7月29日
花形

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