松尾潔氏と山下達郎氏
今回のジャニーズ性被害問題について山下達郎という個人名がネットで独り歩きしてしまったことを鑑み、思うところを記載したい。
まず、大前提としてジャニー喜多川氏の性加害問題についてBBCの特番やその後の被害者の証言から事実として受け止めた場合、これは絶対にあってはならないということである。アメリカ映画界でもハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・パワハラの問題でも広く世の中に喧伝され、その後も有名な俳優たちがその罪を暴露され俳優生命を絶たれている。
ジャニー喜多川氏の問題はデビューを餌に少年たちに襲いかかっていたことであり、この異常さをBBCが報道したことが発端となった。ジャニー喜多川氏の問題はそれまでにもフォーリーブスの故・北公次氏の暴露本「光GENJIへ」を出版し10刷の重版を数えたが、マスコミは殆ど取り上げることもせず闇へと葬った。何故か・・・。
この時点で刑事罰が及ばないものについては、資本の原理からマスコミはジャニーズ事務所に対しての忖度により何も報じなかったと思料する。
1904年(明治41年)に施行された「強姦罪」はあくまでも男性が加害者、女性が被害者と規定している。男性から男性の強姦という概念が罪として定められておらず、この改定は2017年(平成29年)の「強制性交等罪」「準強制性交等罪」の施行まで変わらなかったのである。
人道上の罪と法令上の罪がないまぜとなり、ジャニーズという日本でのトップ芸能事務所の力により事実がマスコミに出なかったと仮定するには容易いことだ。
しかし、それまでにもジャニー喜多川氏の男色の噂はあり、一般人である私も知っていたぐらいであるから、業界内では公然の事実という事も考えられる。但し、一般人である私の知る範囲はジャニーズJrが被害に遭っていたという血生臭い話ではなく、笑いのレベルでの男色だったのではないかと回想する。もちろん、ハラスメントであれば、どんなことであっても許されることではないが。
さて、2023年7月6日の松尾潔氏のツイート。
「長年業務提携契約を結んでいたスマイルカンパニーから業務提携契約解除の申し出を受け、スマイルカンパニーに自分を業務提携に誘ってくれた山下達郎もその解除を認めている」という内容をツイートした。
そして、その後松尾氏のブログ「松尾潔のメロウな木曜日」にて「スマイルカンパニー契約解除の全真相」と題し、長々と経緯を連ねている。
それから日刊ゲンダイでは毎日のように松尾氏の発言を掲載し、SNS上でも情報が交錯し、ネット住民やYouTuberも騒ぎ始めたため、山下達郎も自身のラジオレギュラー番組内で事態の説明を行なった。
ここでの山下達郎の発言においても賛否は分かれたが、山下達郎自身がSNSを行っておらず、7分間の説明だけが独り歩きし、切り取り記事となってメディアを駆け巡る事態に発展。SNSの使い手である松尾氏は山下達郎の説明の一つ一つを否定しながら異論を発信した。
以上が一般人の知り得る事実。
松尾氏のブログも山下達郎のラジオでの説明も、ツイッターやYouTubeで確認することができる。
ここからがネット社会の闇というか妙な集団心理というか・・・。
切り取り記事で発信するバカや妙な思い込みで山下達郎を非難するバカ、の多いこと。山下達郎を糾弾しておけば正義と言わんばかりに。
今回のこの騒動の私の意見は、松尾氏のツイッターに「山下達郎の名前」を出したこと。これが全ての始まりであり、悪の根源。
松尾氏はブログ内でもこの自身のツイートは弁護士の確認を取って出したと記載していたが、弁護士に確認すれば何でもいいのか、ということ。
そして何故山下達郎の名前を出したかというと、松尾氏と山下達郎の両者を知る人がこのツイートを見て当然抱くであろう疑問に予め答える為と記載されている。何のことやら・・・このブログの一文を見て松尾氏は自分に酔ってる、と思ったのは私だけか。
なぜなら、不特定多数の一般人も見ることができるツイッターというSNSで松尾氏が山下達郎の名前を出した理由はどう見ても世間に問うているように見えるからである。
山下達郎という憧れのミュージシャンと音楽の話で意気投合し、仕事も一緒に行うようになり、コンサートパンフレットの一文も任された関係。それが自分の正義と思って発したジャニーズ問題が発端となりスマイルカンパニーとの業務提携解除。山下達郎もその解除を認めたと発信。松尾氏からしてみたらスマイルカンパニーとジャニーズ事務所の関連やその影響力はわからなかったのだろうが、まさに青天の霹靂だったのだろう。
スマイルカンパニーの社長に泣きながら説得された後、双方の弁護士立ち合いのもと業務提携解消。
山下達郎の名前をツイートに出したことが、ここまで大きな問題になると松尾氏は予想していたかどうかわからないが、結果的には修復不可能な間柄になったのではないか。
そして、双方の弁護士が合意した業務提携解消という一般人では知らなくても良い情報を公に出したこと。松尾氏が業務提携解消について異議を申し立て、訴訟を起こすというなら話は別だが、解消後にわざわざ山下達郎の名前を出して大きな話題としたところに常識を逸した行為と私は見る。
もし、ここで山下達郎をスケープゴートとして立てたのであれば、相当狡猾な人という印象だ。
山下達郎のラジオでの説明は、性加害という事については絶対あってはならない事、と明言している。但し、その被害内容については自分のあずかり知らぬところというスタンス。自分は音楽を作ることを生業とし、そのような行為が行われていたことは知らなかったと言っている。当然一般人の私同様、噂レベルでは知っていたかもしれないが、ラジオでは知らないという事を表明している。
「知らない」と「知っていて黙っている」は大違い。
また、この性加害の問題についてノンポリを通す人がいるならば、それは中立ではなく、既存権力の追認であることを覚えておかなければならないだろう。
山下達郎は「知らない」と言ったが、世間はその言葉を吹き飛ばし、性加害について意見を言った松尾氏を支持し山下達郎を糾弾した。
そんなこともあったからか、山下達郎のラジオでの説明は「悪いことは悪い」と言った後、ジャニー喜多川の功績やジャニーズのタレントの素晴らしさを訴える。罪と芸は別物という考え方であり、ジャニーズに忖度などしているというのは根拠の無い憶測であると言い放った。そしてここで再度「繰り返しますが、性加害を容認しているものではない」と話した。
最後に「それでも私がジャニーズに忖度しているというなら、きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう」と締めたのだ。
本来ならば音楽専門の番組内で話す内容では無い。それを聞きかじりのネット住民や日刊ゲンダイや原稿代を稼ぎたいライター達がくだらない憶測記事を出すに至り、そんな声が本人に届いたかどうかはわからないが、山下達郎も江戸っ子のノリで最後の言葉を言い放ったのだろう。
この一言に世間は大きく反応した。
そもそも、山下達郎の音楽性は一般大衆に受け入れられるものではなかったが、1980年にブレイクし、いつの間にか日本のポップス界の中心に添えられるものとなった。しかし、山下達郎自身は拘りの塊で、CDにしろコンサートにしろ、しっかりとした不文律があるミュージシャンである。ミュージシャンの中でも頑固な部類に入る人だ。
それをネット住民が今回のことで「発言にがっかりした」「ファンを辞める」「CDを捨てる」などと書き込み、それが可視化することで気にも留めていない人の目に晒されることにも繋がった。本質もつかめないまま進んでいくこのネットの流れは、この1か月の動きをみて私は気分が悪くなるのを通り越して恐怖にすら感じてしまった。
山下達郎は業務提携解消を認めたから糾弾されているの?
ラジオで余計な一言を最後に言い放ったから、不買運動が起きるの?
山下達郎にみんなは何を求めているんだ?公正な裁判官かい?清廉潔白な理解のあるおじさんかい?
ネットの便所の落書きみたいな記事を信じて、さも自分が裁判官になったようにブログを書くバカが多過ぎはしないかい。
何も成し得ていないバカほど人のことが気になって、正論ぶるのではないかい。
今回のこの騒ぎの中、私は山下達郎のコンサートを観た。
冒頭の挨拶で
「今、何かと世間を騒がせております。しかし、コンサートは全然関係ありませんから!最後まで楽しんでいってください!」のコメントだけ。
それからの3時間は、70歳のミュージシャンの精一杯のパフォーマンスを堪能した。マイクを通さぬ生声で3階の座席まで響かせる歌声はミュージシャンの至宝である。
片や松尾氏はそれからも山下達郎の名前を出し、ツイートをくり返す。
松尾氏自身も2017年にジャニーズWESTのプロデュースをしているのだから、当時からその噂を知っていたのではないのか。知らないと言うなら山下達郎の気持ちはわかるはずだし、知っていたのなら罪はもっと重くなるだろう。
日本の大作曲家服部良一の次男も性加害の被害者を表明。調査が進めば、これからも被害者は声を上げるだろう。加害者であるジャニー喜多川氏が死亡している事や2017年以前の法令は適用できないと仮定するなら、どのような落としどころになるかはわからないが、少なくとも、今回の山下達郎は、松尾氏の言いがかりに付き合っただけという気がしてならない。
業務提携契約解消の話は本来なら会社間でやってくれ。その後、松尾氏がジャニー喜多川氏の問題について先頭きってやる分には問題ないのだから。
2023年7月28日
花形