『まぼろしの世界(12inch+LIVE)』 エコー&ザ・バニーメン
北朝鮮は日本だけに留まらず、中国や韓国にも緊張感を与えている。ロシアへの派兵も加わり、ウクライナとの戦争が助長される危機感が高まる。
戦争の緊張感が2017年にも感じた7年前のブログから世の中は全然変わっていないのだ。
2024年10月
アメリカと北朝鮮の代表2人が核ミサイルのボタンに指を乗せていた頃、お花見で盛り上がる日本では、一部のマスコミだけに緊張が走ったが、概ねどのテレビ局も普段どおりのバラエティ番組の中で荒唐無稽な笑いを提供していた。
そんな2017年4月14日の午後、ソロ公演のため来日していたイアン・マッカロク(エコー&ザ・バニーメン)はマネージャーと2人、無許可で日本を出国してしまった。招聘元のスタッフはもちろん、英国から連れてきていたスタッフにも話をせずにである。
戦争開始を危惧し身の危険を感じての行動なのだろうが、スタッフはもとよりファンに対する礼儀もあったものではない。
しかし、この不届きな行動・・・決して褒められたものでは無いが、果たして・・・。
核戦争の危機感をあまりにも感じ取れていない日本。
何をしでかすか分からない北朝鮮の代表と、つい1週間前に中国主席との会談中にミサイルをシリアに向けて砲撃したアメリカの代表の手元には常に核ミサイル発射装置があり、アメリカNBCは4月15日をXデイとして報道していた。
そのような報道が飛び交う中、北朝鮮とアメリカの戦場になると予想される日本の緊張感の無さといったら。
いたずらに報道を煽る必要はないが、イアン・マッカロクの取った行動を非難することができない気もする。
さて、このようなマイナスな書き出しで始めてしまったが、イアン・マッカロク率いるエコー&ザ・バニーメン。
1970年代後半に結成され1980年代後半まで一線で活躍し、後世のバンドへの影響力は非常に高いものがある。
ジャンル的にはネオ・サイケやオルタナティブ・ロックと称され、コールドプレイやニルヴァーナへの影響力は多大だと言われている。
バンドとしては、アメリカでの商業的成功は成し得なかったが、世界中に根強いファンを持ち、メンバーの死亡などで一度は解散状態に陥ったが今でもマイペースに活動を続けている。
私が彼らを最初に聞いたのは1983年頃だったか。
部屋でFENを流していたら、聞き覚えのあるヴォーカルが妙な唄を歌っていると思った。
「ドアーズにこんな唄があったか」という第一印象。「モリソンは死んでいるのだから、なにか未発表音源でも見つかったのか・・・」
それがアルバム『ポーキュパイン』(1983)との出会い。エコー&ザ・バニーメンのヴォーカルであるイアン・マッカロクは、ドアーズのジム・モリソンと間違えるくらい曲調や声のトーンが似ていたのだ。
そして、続けてイギリスのどこかで行なわれたライブ音源が放送されたのだが、テレヴィジョンの「フリクション」をトム・ヴァーラインのヴォーカルのように不安定に歌っていたのだ。このヴォーカルは只者では無いと思った。
当時アメリカではマイケル・ジャクソンの『スリラー』(1982)をはじめ、ケニー・ロギンス、ジャーニー、ホール&オーツなどがメガヒットを連発。洋楽テレビ音楽番組の「ベストヒットUSA」は華やかなラインアップで彩られていた。
そんな弛緩した私の頭の中に入り込んできたエコー&ザ・バニーメンである。
私はもともとニューヨークパンクが好きである。ニューヨークパンクはパティ・スミスしかりベルベット・アンダーグランドしかり、唄という作品で人間そのものを表現し、それが悲痛なロックであり静寂なバラッドであり、ポエトリー・リーディングであり、音楽表現の自由さが無限大にあるところに惹かれていた。
そんな中でイギリス、しかもリバプール出身のエコー&ザ・バニーメンの演奏はとても異質に感じられたのだ。
当時のイギリスのニューウェーブの筆頭はポリスであり、もう一つの流れとしてパンクバンドであったザ・ジャムから派生したスタイルカウンシルが人気を二分していたが、エコー&ザ・バニーメンからはイギリスの匂いよりニューヨークの匂いがした。モッドな雰囲気も無かったし・・・。
そして翌年、アルバム『オーシャン・レイン』(1984)が発表され、その中の「キリング・ムーン」は彼らの代表曲となった。
この「キリング・ムーン」・・・切ない男のラブソングだ。
蒼い月の下で出会い、一瞬のうちに私を魅了した貴方。
貴方は残酷にも私にキスをした。魔法のような世界に私をいざなう。
そして宝石をちりばめた空にキリング・ムーンが昇ってくる。
運命・・・意志ではどうにもならないもの・・・どんなことが起きようと私は待つ
貴方が私に身を委ねるまで・・・
「キリング・ムーン」に魅了され、何度も聞き込んでいたが、後に発表された12インチの「オール・ナイト・ヴァージョン」がこれまた特筆ものなのだ。
重厚なストリングスとVOXのビザールギターのチープな音のコラボレーション。
イントロを聴くだけで神経がどんどん覚醒されていく。9分にも及ぶ超大作。白眉のパフォーマンスである。
そして、この「オール・ナイト・ヴァージョン」を収録したアルバムが『まぼろしの世界(12inch+LIVE)』(1988)である(原題「NEW LIVE AND RARE))。
1988年の来日時に編集盤として制作された企画盤で、タイトル曲の「まぼろしの世界」は言わずと知れたドアーズの名曲である。イアンのヴォーカルは、ジム・モリソンが憑依した如く鬼気迫るヴォーカルとなっており、しかもこの曲のプロデュースはドアーズのキーボーディストであるレイ・マンザレクが務めているという懲りよう。
他にも、ビートルズやストーンズなどのロックの名曲をカバー。
特筆は前述したテレヴィジョンの「フリクション」まで収録されていること。これは嬉しい1曲である。
41分と最近のアルバムと比べると短い収録時間のアルバムだが、おなかいっぱいになること間違い無しである。
逃げるように帰ってしまったイアン・マッカロクだが、もう再び日本に来ることは無いだろう。
とりあえず現段階ではミサイルは飛びかっていないが、緊張は続いている。
2017年04月17日
花形