『1984』 ヴァン・ヘイレン
ハモンドオルガンの前に立つと必ずプロコルハルムの「白い影」を弾いてしまう。
ピアノの前に立つと自然とビートルズの「レット・イット・ビー」のイントロが出てきてしまう。
では、アナログシンセの前では・・・ヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」なのである。
あの軽快なイントロを弾くだけで一気に「ジャーンプ!」なのである。何の変哲も無いシンセフレーズだが、80年代のロック小僧はみんな反応してしまう。
エディが間奏でいくらギターの速弾きを駆使しても「ジャンプ」の中ではあのシンセフレーズの前に全てがひれ伏してしまう。それだけ印象的なフレーズだ。
(プロモーション・ビデオで楽しそうにシンセを弾いていたのはエディ・ヴァン・ヘイレン本人だったけれど・・・)
『1984』(1984)はコンパクトにまとめられた80年代ロックの名盤だ。40分にも満たない収録時間にロックがギュッと詰め込まれている。
ダラダラと74分もCDを流して結局ノルことができないアルバムに比べると、きついテキーラをワンショットで呑み干し、口から火を吹きながら体が瞬時に熱くなる、そんなアルバムである。
それまでのアルバム『VAN HALEN』(1978)、『WOMEN AND CHILDREN FIRST』(1980)では、新人バンドにありがちな勢いとトリッキーなエディのギタープレイにばかり耳がいってしまい、名プロデューサー、テッド・テンプルマンをしても特徴を伝えきれず、不完全燃焼だった。
アルバムセールスはそこそこ伸び、全米チャートも駆け上るが、何故か今ひとつ。
その原因はオリジナルのヒット曲がでないことにある。
ヴァン・ヘイレンのイメージはキンクスの「ユー・リアリ・ガッタ・ミー」やロイ・オービソンの「オー!プリティ・ウーマン」といったカバー曲をヒットさせていたが、オリジナルのヒットは皆無だった。だから、いくらデイヴがパフォーマンスをしても、ライヴ会場だけの世界で完結してしまう。
しかし、『1984』は捨曲なしの名曲ぞろい。「ジャンプ」「パナマ」「ホット・フォー・ティーチャ―」・・・。
シングルチャート1位を同アルバムから3曲も記録。名実ともにアメリカンNO1に就いた瞬間だった。
但し、アルバムチャートは最高位2位止まり。1位はあのマイケル・ジャクソンのモンスターアルバムである『スリラー』(1983)。「ビート・イット」ではエディがギターを弾いているから皮肉なもの。
さて、このヴァン・ヘイレン・・・。
『1984』のアルバムを境にリード・ヴォーカリストが代わってしまった。
デイヴ・リー・ロスからサミー・ヘイガーへ。
僕はヴァン・ヘイレンといったら、断然デイヴのヴォーカルを推す。
あのアホらしいまでのパフォーマンス。エアロのスティーブン・タイラーやKISSのポール・スタンレーと同じ匂いを持つあの獣の匂い。
ヴォーカリストというより、エンターテイナー・・・というよりロックスターなのだ。
デイヴはコンサート中にサーフボードに乗って観客の中に飛び込み、人の波に乗る。観客に運ばれ、ステージへと戻る。人の海となった会場は大興奮。
『1984』は、お手軽にカラッとした気分になるにはもってこいの1枚である。
おまけに、デイヴのバカっぽさが目に浮かぶくらいわかりやすい作品。
2006年9月2日
花形