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映画「BEATCHILD 1987 ベイビー大丈夫か」

 夏のコンサートイベント。その中でも雨は数多くの伝説を残した。そんな一つのイベントのフィルムが見つかり限定ロードショーされたのは26年の時を超えたものだった。
そして、そのフィルムはDVD化されることもなく、ひっそりと姿を消した。
再び伝説になった。
2024年8月



 それは・・・ロックだった。まぎれも無い、ただのロックだ。今で言う「Jポップ」なんて軽い響きの言葉では表現できないもの・・・。あの極限状態の中でいくら軽いポップソングやバラードを演奏したとしても、それはロックになっただろう。それくらいミュージシャンも観客も一つ筋の通った関係になっていた。
そして会場全体が神々しく見えた

 映画「BEATCHILD 1987 ベイビー大丈夫か」を見た最初の感想だ。

 今思うとあの頃の音楽地図は混沌としていた。
音楽メディアはレコードからCDへと変わり、MTVが登場し音楽と映像が混在。プロモーションビデオと称して小さな映像作品を制作し、歌手が役者の真似事をする時代に変っていった。そして、耳障りの良い音楽が世の中にあふれ始め、ある評論家は「音楽と映像の融合がこれからの音楽シーンのポイントとなるから70年代のようなメッセージを伝える音楽は生きにくくなるだろう」なんて無責任なことを言っていた。
 そんな時代に、ビートチャイルドたちが熊本県阿蘇に集まった1987年夏。激しい雷雨の中7万5千人を超える観客は寒さに震えながら、音楽の感動に身震いしながらオールナイトコンサートを体感した。
 出演者は佐野元春with HEARTLAND、ハウンドドッグ、尾崎豊、渡辺美里、ザ・ブルーハーツ、白井貴子、岡村靖幸、BOOWY、ザ・ストリート・スライダース、レッド・ウォリアーズ・・・。
日本のウッドストックとも呼ばれ、当時は大変な盛り上がりを見せたが、豪雨の中の開催で低体温症になる観客が続出し、救急車と怒号の中のコンサートとなり、主催者側には危機管理能力を問われる暗い一面も見せた。それは、熊本県の阿蘇は天候が変りやすく1981年夏に行なわれた「南こうせつ・サマーピクニック」も雷雨によりコンサート半ばで中止を余儀なくされている事実もあり、そんな山間部でのイベント開催に疑問を呈する評論家がこぞってビートチャイルドを批判したからだ。しかし、そんな雑音を気にせず走り抜けた若い力(出演者、主催者、そして観客)は、最高の思い出を心の石に刻んだ。
(死傷者が出なかったことで救われたという見方もあるが・・・)

 今回、当時の古いフィルムが見つかり、映画化の話がまとまった。そして限定ロードショー。
 当時の私は大学生で、バンド活動を行なっていたが、BEATCHILDには何の興味も沸かなかった。ただ当時から気になっていた「岡村靖幸」が出演しているなぁくらいの認識で、1人のアーティストのために熊本までは行けないと思っていた。
 佐野元春もハウンドドッグも尾崎豊も渡辺美里も商業的に成功しているミュージシャンであったし、BOOWYが光り輝き、ザ・ブルーハーツがスター街道を登り始めた頃のことだ。
 音楽事務所のマザーエンタープライズやハートランド、レコード会社ではソニー系列ののミュージシャンが中心に集まっているのでアーティスト的に多少の偏りは否めないが、当時のJロックを語る上で外せないミュージシャンたちが集まったことは、少しだけ気になったものだ。
 当時の私の愛読書は「宝島」と「ロッキング・オン」だったので、このイベントのことも大々的に取り上げており、雨のオールナイトコンサートについてドラマチックな活字が躍っていたから当時でもなにやらただ事ではないなという気持ちになったものだ。

 何故、ここに出演しているミュージシャンに対して特別な感情も無い私が今回このコンサート映画を見る気になったか。それはただの懐古趣味ではない。
BEATCHILD開催の2年前。1985年6月15日国立競技場で行なわれた「ALL TOGETHER NOW」。全国の民放が協賛したイベントで、吉田拓郎、オフコース、南こうせつ、さだまさし、といったベテラン組、はっぴいえんど、サディスティック・ミカ・バンドならぬサディスティック・ユーミン・バンド。また、山下久美子、白井貴子、ラッツ&スターなどの若手、そしてチェッカーズまでが飛び出すバラエティに富んだ出演者。そしてそんなビッグネームが並ぶ中、トリを務めたのは人気上昇中であった佐野元春とサザンオールスターズである。そして、この組み合わせがトリを取ったこのイベントは、次世代に引き継ぐ儀式の様にも感じられた。
 そんなイベントを体験した者として、その2年後に行なわれたこのイベントで彼らがどのようなパフォーマンスをしていたのかを確認したかったのである。
 私は当時から歳の割には拓郎や陽水など、一世代前の音楽を好んで聞き、同世代の友達が応援するサザンや元春、尾崎などを敬遠していた。彼らのことをどこか青臭く、どこかコマーシャルっぽく、二番煎じ的に見ていたからだ。しかし、時を経て振り返ったとき、そんな感情よりも雨中という逆境の中で必死にパフォーマンスを繰り広げる彼らを1人の音楽人として見てみたかったのである。音楽の好き嫌いを抜きにして音楽を必死に伝える彼らの雄姿を確認したかったのである。

BOOWY

 映画を観た感想として・・・
私は今までに何度も野外コンサートやオールナイトコンサートに参加したことがある。そして雨の野外コンサートも数度経験している。
オールナイトコンサートは非日常のイベントなので演奏者も観る方もアドレナリンは高まるが、同時に疲労も溜まっていく。そしてみんな「ハイ状態」になる。体力と気力を持つ者だけがオールナイトコンサートを駆け抜けることができるのだ。
私はあるオールナイトコンサートで、ラスト1時間ずっと涙が止まらなかったことがある。感情が制御できなくなってしまったのだ。しかし、周りにも同じような人がいて何故か妙な一体感も得ていたが、これは一種の集団ヒステリーのようなものかもしれない。
そして、そこに音楽はあるのか・・・音を楽しむというより音との戦いかもしれない。
 BEATCHILDは「史上最低で最高のロックフェス」と銘打っているが、まさにその通り。
みんな、雨と泥でぐしゃぐしゃ。だけど極限の表情がたまらなくいい。音楽を超えたエナジーがそこにふつふつと湧き出ている。
私がもし、あの場所に身を置いたらきっと声が枯れるまで騒ぐんだろうな、という雰囲気が画面から湧き出ている。

白井貴子

 このコンサートでもし雨が降らず、たんたんと行なわれていたら・・・と考えると特筆することのない、大勢の客が集まったコンサートというだけかもしれない。しかし、豪雨と雷。そこに立ち尽くす客。極限の中でのパフォーマンスと72,000人の観客のエナジーが伝説を生み出した。昔から野外コンサートで雨が降れば伝説になるが、そのいい見本かもしれないが、それにしては過酷な映像なので、音楽映画というよりは自然現象に立ち向かう人間たちのドキュメンタリーに見える。白井貴子のステージなんてまさにドキュメンタリー以外の何者でもない。
そうやって観ると、たいして興味も無かった音楽も面白く見ることができる。

DVDにもTVにもネット配信もされないこの映画。
観とくなら今だよ。

岡村靖幸

10月26日(土)から3週間の限定ロードショー!
音楽監督:佐久間正英

2013/10/29
花形

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