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『シルク・ディグリーズ』 ボズ・スキャッグス
ボズ・スキャッグス『ミドルマン』(1980)に収められている「トワイライト・ハイウェイ」のギターソロはカルロス・サンタナが弾いている。長く伸びるハイウエイをサンタナのフィードバックと鳴きのフレーズでうまく表現し、感動モノのトラックになっている。僕がボズを聴き始めたきっかけになった歌だ。正直言ってボズの声よりもサンタナのギターに感動し、ボズを聴き始めたから、ボズに対してAORの代表などという概念は全く無く、作品そのものに惹きつけられていったというのがファースト・インプレッションである。
アメリカでは1970年代半ばからAORブームが起こり、ソフトロックに輪をかけた大人の香りがする音楽がラジオから流れ始めた。デビッド・フォスター、ジェイ・グレイドンが結成したフォープレイがその中心となり、まだスタジオミュージシャンであったTOTOの面子はボズのバッキングで力をつけながらデビューの時期をうかがっていた。僕の周りでもそれまで、KISSやエアロスミスに代表されるアメリカンハードロックを好んで聴いていた友達が次々とAORに鞍替えしていった。“なに?まだエアロ?これからはボズでしょ。・・・スティーリー・ダンもいいけど、ソウルフルなヴォーカルならボズだよね・・・”なんていう輩がいっぱい出てきた。
そんな人たちはどうでもいいんだけど、確かに時代は変革の時を迎えていた。
ボズのメジャーへのアプローチは、自分のジャンルを捜し求めていた結果の事象であると推測される。なぜなら、ボズはもともとブルーズシンガーであり、スティーブ・ミラー・バンドのギタリストだった経歴からもわかるように、メジャーになる前はいろいろと試行錯誤を繰り返していたと思われる。特にあの甘ったるいヴォーカルでは、その時の流行であるハードロックをシャウトできるわけでもなく、アクションをつけられるわけでもなく・・・。
もういいかげんロックも聴き飽きたウッドストック世代が、次に求めた大人のロック。つまり、ボズのスタイルは時代とマッチした産物なのだ。R&Bを都会的な音に味付け、16ビートを流れるように歌う。
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ボズの『シルク・ディグリーズ』(1976)は、AORのスタートラインに立った作品である。
ジャケットはモシャ・ブランカ。とにかく大人の匂いがプンプンしたアルバム。中学生や高校生じゃわからない音楽。とにかくアダルトである。R18指定の音楽と言おうか。
そして『ミドルマン』を発表。だいたいスーツを着た男がセクシーな女の膝枕で寝ているなんて、まるでフランス映画のヒトコマである。ジャケットを見ただけで音が伝わる。
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ヒットを飛ばし、ほどほどにライヴをこなし、レストラン経営に手を出し、適当に暮らしていた80年代のボズ。肩の力が抜けているというかなんというか・・・。『アザー・ロード』(1988)はそんなボズが復活するための作品だった。しかし、出てくる音は、ロック色が強く、少し無理をしているような気がしたのは僕だけだろうか。ボビー・コードウェルとの共作「ハート・オブ・マイン」はあるが、ちょっとせわしない構成という感じがした。
『フェード・イントゥ・ライト』(1996)は新曲3曲、代表曲のアンプラグド・ヴァージョン4曲を含む落ち着いたアルバムである。AORのブームから15年経ち、落ち着きと渋みが出た作品。ボズと一緒にファンも歳をとっているわけで、成長している作品という感じ。もちろん焼き直しの作品はオリジナルにかなうわけではないが、目くじら立てて言うほどのものでもないか。
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『シルク・ディグリーズ』『ミドルマン』の2枚は古さを感じるけど、AORのベンチマークとして今も成立している作品だね。
2006年5月23日
花形