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『シーズ・ザ・ボス』 ミック・ジャガー

8年前のコラム。
当時から私はジジィって言ってる。失礼な話だけど愛着を持っているのだ。でも今年もストーンズはツアーをしている。80歳を超えてもロックンロールだ。
ミックもキースもロンも死ぬまでロックンロールなんだろうね。
2024年11月


 ミックを見るたびに思う。元気なジジィだな、と。
60年代のミックはまだ悪ガキの匂いをプンプンさせていた。いたずら小僧が近所の悪ガキを集めてバンドをやってるといったところか。
70年代のミックは友との別れを数度経験し、少しだけ大人になった。ビートルズは解散し、音楽が産業化され、その中心で音楽界を牽引した立役者になったが、時として偉そうな態度もとった。
80年代のミックはソロ活動を始め、キースとの不仲説も持ち上がりファンは彼らの動向に一喜一憂した。念願の初来日公演を行ない、ストーンズよりもシャープな演奏を聴かせてくれた公演を日本人はありがたがって観覧した。その1年後にストーンズが来日するとは夢にも思っていなかったから・・・。
90年代のミックは、疲れを知らずに疾走し続け、コンサート規模も莫大なものとなっていた。顔の肉はたるみ、しわは深く刻まれたが、ミックがステージを全力疾走する姿を見て誰が彼を孫のいるジジィと思うか!
では、00年代のミックは・・・。
 僕はストーンズも好きだが、どちらかと言うとミック・ジャガー・ファンである。
彼のソロアルバムは、何にも縛られないミックがそこにいる。ブラスをふんだんに施したダンサブルな作品や、ジェフ・ベックとの競演などストーンズでは見ることの出来ないミックがそこにいる。なぜなら、ブルーズ好きの男達が集まって結成されたストーンズのビートでは収まりきれなくなったミックがそこにいるからだ。きらびやかでゴージャスなサウンドに賛否両論集まっているようだが、僕はミックの音楽の幅の広さを感じることが出来るので、ウェルカムである。
40年の音楽活動の中で、単なるブルーズ好きからエンターテイメントの力を身につけ、人々を歓喜の渦に巻き込む男として現在のミックは存在している。ビートルズが来ようが、ディランが来ようがミックはストーンズとともに独自のやり方で今まで突っ走ってきた。もうこれだけで賞賛である。
 彼が1回のコンサートで走る距離は20kmと言われていた。そんなステージをいまだに続けている。そりゃあ違法なドーピング(ドラッグ)をしていると疑われても仕方ない。それほどまでに元気なのだ。
しかし、ミックの腹筋を見るとそんな噂もミック自身が楽しんでふれまわっている気もする。あの腹筋はちょっとやそっとで出来るもんじゃあない。

 ミックはソロアルバムを4枚発表している。1枚目は、『シーズ・ザ・ボス』(1985)である。ストーンズを離れ、大胆な音作りと豪華なゲストに囲まれたミック・ジャガー・ショーである。2枚目の『プリミティブ・クール』(1987)はファーストを踏襲した作り。3枚目の『ワンダリング・スピリット』(1995)はいきなりストーンズかと思わせるほど真正面なR&Rアルバムで、それなら本家を聴くよという気になり、4枚目の『ゴッデス・イン・ザ・ドアウェイ』(2001)は58歳にもかかわらず、全然落ち着いていないロックスピリッツを感じることが出来るアルバムだが、年齢を前提に聴いてしまう悪い聴き方をしてしまったので“歳のわりには”という形容がついてしまう。
だから、僕のお気に入りは『シーズ・ザ・ボス』ということになる。バンドが充実している時にソロアルバムを発表してしまう行動にみんな驚いたが、そんなことはお構いなしのところがミックらしい。

 『シーズ・ザ・ボス』が登場した時、キースとの不仲説も浮上し、解散がささやかれたいわくつきのアルバムである。
シックのナイル・ロジャースやバーナード・エドワーズ、ビル・ラズウェルなどの共同プロデュース。とにかく金のかかっているアルバムで、ゲスト陣も超豪華。ジェフ・ベックやハービー・ハンコックが参加。ストーンズでは出ない音の洪水である。最先端の派手でヒップ・ホップなサウンドに昔から歌い続けているブラック・ミュージックをブレンドしたミックならではのソロアルバムである。
また、映画に勝るとも劣らない超大作プロモーション・ビデオも制作し、ミックの意気込みを感じることも出来た。アルバムジャケットは情事のあとのとぼけたミックの顔が最高であり、ベストなデザインだ。

 ミックのソロアルバムはどのアルバムもレベルが高く、楽しみながら聴くことが出来るが、僕はこの『シーズ・ザ・ボス』が特異な存在で気になる。簡単に言うと、意外性とバブルの香りが充満する危険なアルバムだからだ。タイトルからして最高である。
バブルはいつか崩壊するものだが、ミックのバブルはまだ割れていない。


2006年6月12日
花形

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