斯く斯く然々
月イチで成田空港まで仕事で行く。空港で働くのではなく、フィットネス講師の仕事です。途中コロナ禍で中断したもののかれこれ5年以上継続している。ありがたい。
で、いつもは日暮里まで出て京成スカイライナーに乗って成田空港(第1ターミナル)へ行くのだけれど、ちょうど通勤時間辺りに最寄り駅から電車に乗るので、重い荷物を持って満員電車に揺られることがしんどくなった。
色々調べたところ、家から徒歩5分程のところにあるバス停からバスに乗って行くことのできるJRの駅に成田エクスプレスが停車する。そこから乗ると時間もかからず楽そう。なので、成田エクスプレスを使うことにした。
バスだとそれほど混んでないし確実に座れるから楽。バス停からJRの駅まで少し歩くけれど、自宅から私鉄の最寄り駅まで歩くよりもぜんぜん楽。
駅のホームに早めに到着して少し待ち、成田エクスプレスに乗る。電車内もそれ程混んでなくて快適快適。車窓から見える景色も何か新鮮。懐かしい場所を電車は走る。ところが、だ。
品川駅で停車した電車からアナウンスが流れる「人身事故のためしばらく運転を見合わせます。再開時間は分かりません」
ええ、まじか。こんな日に限って?と思ったけれど、そもそも成田空港への到着時間を集合時間の1時間にしてあるので多分大丈夫だろうと、仕事の資料を広げて仕事の準備をすることにした。
再びアナウンスが流れ「20分後に運転再開します」とのことだったので、だったら大丈夫か、と一安心して、また資料に視線を落とした。
「お待たせしました、発車致します。」と、電車は運転を再開する。動き出したのでホッとした。これなら絶対間に合う。問題ない。仕事の資料を見ることにも飽きたのでスマホを眺めたり、お腹も空いてきたので、成田空港に着いたら食べようと思って家から作って持っていたおにぎりを食べたりしていた。ところが、だ。
次の東京駅でも少し停車。千葉駅を出る頃には、「予定よりも45分程遅れて」とアナウンスで伝えている。
これは、やばいかもしれない。と焦る。空港に着いてからトイレに行こうと思っていたが、そんな時間がなさそうなので、電車内のトイレに行く。洗面台で歯磨きをする。化粧を直す。
身支度をすっかり整えて、後は着いたらダッシュで向かえば間に合うだろう。成田空港の電車の駅から仕事の現場まではなんだかんだで5分はかかる。
「大変お待たせいたしました。電車は間も無く……」とアナウンスが流れて、車内も降りる人たちが準備をし始める。
「本日は、電車大変遅れまして申し訳ありませんでした。お忘れ物のないよう……」降りる人たちの波に乗って電車を降りる。ところが、だ!!!
改札を抜けてから気づく。どうもいつもと様子が違う。改札を出て目の前にあるはずのスタバがない?あれ?ココハドコ???
キョロキョロと周りを眺めて悟った。ここは、下車するべき成田空港ではない。成田エクスプレスを一駅手前の「第2ビル駅」で下車してしまった。
つまりここは、目的地のある第1ターミナルではないようだ。
最大限に焦った。どうしようか。やばい。やばいぞ。
と、とにかく誰かに聞かなくては。「ココハドコデスカ?」
ちょうど目の前に京成線のカウンターがあったので、そこにいた人に声をかけた。「恐れ入りますが、第1ターミナルへ行くにはどうしたら良いでしょうか?」
頭の中では、またスカイライナーや成田エクスプレスに乗らなければならないのだろうかだとしたら何分後の電車になるのだろうか間に合うのだろうかどうしようかどうしようかと、ぐるぐるとネガティブな思考が動くのを「落ち着け〜落ち着け〜何とななるから落ち着け〜」と宥めるもう一人の私がいる。すると、その人は、
「1階まで上がって頂いて外に出ると無料のシャトルバスが運行しています。8番乗り場からです。」とにこやかに親切に丁寧に教えて下さった。ありがたい。そのやわらかな表情のおかげで少し冷静になることができた。
バス停まで小走りで移動しつつ、仕事相手の方に連絡をする。
「いつもお世話になっております斯く斯く然々で遅れます成田空港にはいます実施時間には間に合います!」
小走りで息も弾ませながら一方的な伝え方になってしまった。
地上に出て8番乗り場を目で探した。あった!向かっている前方!バスとまってる!待ってて、待ってて。そのバス待ってて!!!と心の中で念じ叫ぶ。
念が伝わったのかどうか、バスに乗ることができた。念のため運転手さんに「第1ターミナルに行きますか?」と確認して席に座った。
このシャトルバスは、第1ターミナル→第2ターミナル→第3ターミナルを循環しているようだ。停車駅の表示を眺めつつ、「早く着け〜早く着け〜」と、これはいくら念じても伝わるわけもなく、決められた速度でバスは走り、一駅毎に数分停車する。
しばらく直線で進んだ道を大きくカーブしてしばらくしてやっと、見覚えのある景色が見えてきてほっとした。
第1ターミナルに着いてしまえば後は大丈夫。以前は、北ウイングと南ウイングを理解出来ずに迷子になったこともあったけれど、もう何度も来ているので覚えた。
旅行客で賑わう中を小走りですり抜けて、現場に着いた。
ところで、今日の仕事は「フィットネス講師」として「ストレスとの向き合い方」をテーマとした座学のセミナーで、20代の若い方々が対象だった。
自己紹介の時に、少し距離感を縮められたら良いなあと思い、到着するまでのことを「斯く斯く然々で焦っちゃいましたぁ(てへへ)」と、話してみたのだけれど、すべってしまった。
「もう少しウケるかと思ったんだけど、距離感よりも、私の心が縮んでしまいそう(とほほ)」
2時間程のセミナーを終えて、帰りの電車はスカイライナーに乗った。
見慣れた景色をぼんやり眺めながら、安心したら瞼が重くなってきた。帰りは乗り越しても引き返すだけなので問題ない。ゆっくり帰ることにしようと、束の間眠りに落ちた。