甲子園で笑うのは……
川原泉という漫画家がいる。
主に白泉社で描いている女性だ。
わたしは中学校の図書室で見つけて以来、少しずつ全巻を揃えてきた。
つまりめっちゃファンだ。
夏の甲子園で大社高校の試合を見ているときに、ふと彼女の作品を思い出した。
【甲子園の空に笑え!】
九州の村立豆の木高校の野球部が甲子園を目指す話し、ではない。
練習相手もいない部員9人の野球部に、新卒の生物教師が顧問になるところから話しははじまる。
練習相手もいないド田舎で下手くそな野球をしていた。
当然、甲子園を目指すどころではない。
野球部創立以来の悲願は【地区大会一回戦突破】だ。
野球連盟の英断(?)とムダに鍛えられた守備で、彼らは幸運にも県大会を勝ち抜いて甲子園の切符を手にしてしまう。
しかしどこにもスポ根要素はない。
むしろスポ根を遠巻きに揶揄するような物語だ。
東京の強豪校と知り合って「東京の人は言葉から垢抜けている」と部員たちは感心する。
羨ましいとか妬ましいという感情より「東京生まれ東京育ちってだけで尊敬する」と目を輝かせるような純朴さなのだ。
勝ちに対する欲がないわけではない。
それよりも周りを素直にすごいと認める力に優れているだけ。
甲子園をなぜか勝ち進み、決勝戦で東京の強豪校と対戦する。
わたしは試合終了直前、強豪校の監督の独白が印象に残っている。
わたしが見ていたい甲子園ももしかしたら夢の甲子園かも知れない。
きれいで汚いところのひとつもない、しあわせな甲子園。
現実はそうではない。
人間関係、資金繰り、派閥、監督の能力、保護者会のトラブル。
美しいのなんて、試合中の選手だけだろうか。
それでもわたしはきれいな甲子園を信じていたい。
きれいごとだけれど、すべての野球に関わる高校生が幸せならいい。
そんなことを思う。
大社高校には豆の木高校と比べては失礼かもしれないが……
純粋できれいな、夢の甲子園のかけらを見せてもらった気がする。
ただただありがとう。
いい、野球でした。
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