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読書感想画コンクール

小学校5年生の時、読書感想画コンクールというものがあった。なにかというと、決められた本を読んで、その本の感想を絵にするという文字通りのコンクールだ。題材は「葉っぱのフレディ」という本だった。あるところに一本の大きな木が立っており、その木に沢山なっている葉の一枚が主人公のフレディだ。そのフレディが冬が来て最後に枯れ葉となって落ちていくという悲しげのあるストーリーだ。僕はそれを読んで絵を描いたのだが、途中で投げ出してしまった。絵を描くのが苦手だったのだ。そんな時、担任の先生が昔美術の担当をしていたということもあり、書き方を教えてくれた。最初はコツを教えてくれたのだが、それでも僕は言うことを聞かない。なんたって小学5年生だ。絵に興味などない。呆れた先生は、僕が途中で投げ出した絵を、こういう風にこんな風に描くんだよと付け足して描いてくれた。そこまでは良かったのだが、なんと最後の最後まで書き上げてしまったのだ。明らかに僕の絵ではないクオリティの作品が完成してしまった。それに対し少し不満はあったのだが、そのまま時は流れ、いつしかそんなことは忘れていた。ある時、昼休みのことだ。急に担任に呼び出された僕は複雑な気持ちになった。あろうことか、その作品が県で最優秀作品として選ばれたのだ。それの報告だったのだ。先生はどんな気持ちで僕に報告したのだろう。祝福の気持ちなどは一つもなかった。そこには気まずい空間だけが流れていた。それを描いたのは、紛れもなく先生だったのだから。まさかそれが県の最優秀作品に選ばれるなど思ってもみなかったのだろう。「この絵が県庁に張り出されるから」と言われた時は動揺した。それは僕の絵ではないと心の底から思った。もちろん僕は県庁には見に行かなかったし、友達のみんなからも称賛されたが、詳細は内緒にしていた。後日、立派な額縁に入った絵が僕のところに届いたが、みんなの前で先生は引き攣った顔で、「おめでとう」と一言だけ言った。今でも僕の家のリビングには過去の栄光として、その額縁に入った絵が飾られてあるが、まさか美術担当の先生が描いた絵などとは小学生の僕には言えるはずもなかった。家族は嬉しそうにしていない僕を見て、さぞかし不思議がっていたことだろう。今でもその絵を見る度に、当時の呼び出された時のことを思い出すのだ。

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