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「さすらいのラーメン五郎」【十条編】

好麺で働き始めて五年が過ぎていた。
 既に師匠の一平のナンバー2として店を切り盛りしていた。
 そんなある日、五郎は師匠から話があると言われ、店の隣にある喫茶店に向かった。
「お前、この店に来て何年だ 」
「はい。今年で五年です 」
「早いもんだな 」
「師匠の下で働かせてもらえて光栄です 」
「おいおい、いつからお世辞もうまくなったんだ」
「本当ですよ。マジですよ 」
「ところでだ。お前店を持つ気は無いか 」
「えっ? 」
「お前次第だが、どうだ 」
「いやあ、ありがたいお話ですね 」
「それでだ、お前には随分苦労させてきたからな 」
「しかも全然、顔に出さないしな 」
「師匠どうしたんですか? 」
「だから新規店を出すから、お前に任せたいんだよ! 」
「ありがとうございます 」
「でだっ。条件があるんだ 」
「何です。条件って 」
「場所と店の名前はお前が決めろ 」
「いいんですか? 」
「そりゃそうさ。お前に任すと言っただろう 」
「それともう一つ。店の売り上げの5パーセントを毎月上納しろ 」
「えっ?5パーセントもですか! 」
「やっぱりな。お前は頭の回転も早い奴だ 」
「それが瞬時に理解出来ているから任せようと思ったんだ 」
「それから貯金は今、いくらある 」
「先月の給料の分でちょうど五百万あります 」
「よしっ! 」
「あと五百万、俺が無利子で貸そうじゃないか 」
「いいんですか? 」
「そりゃやってみないとラーメン屋なんて分からないよ 」
「ただお前は行く先々で人を巻き込んで自分の味方にする能力がある 」
「そんな所まで見てたんですか 」
「恐らくここに来るまでに身に付けて来たんだろうな? 」
「若いのに、人の使い方やお金の管理の仕方が実にいい 」
「もう頭の中に、事業計画ぐらい立てているんだろう! 」
「参りました。そこまでお見通しとは 」
「そりゃあ、いつもカウンターの隅で電卓叩いて、切れっ端に書いたメモをゴミ箱を漁ってみたら想像が付くさ 」
「まさかあんなメモまで読んでたんですか? 」
「そこなんだよ。思い付きで不確かな自信で店を考える奴は多いより、あのメモを見れば銀行マンならお前の事業計画書を読んでみようと思うよ 」
「結構、綿密な単価計算やってたしな 」
「折り入ってお願いがあるんですが 」
「何だ 」
「健治を連れて行きたいんですが? 」
「やはりそうきたか 」
「あいつがいないと店を切り盛りする自信が無いんですよ 」
「そりゃなんたってお前の弟分だしな! 」
「まっいいか 」
「ありがとうございます 」
 五郎の目にうっすらと涙が浮かんでいた。

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