キタダヒロヒコ詩歌集 133 夜行列車十首 その➂
沼津を出れば眠ってしまう。やがて神奈川県内へ。車内アナウンスは貴重品盗難への注意の呼びかけを最後に途絶えた。……
6 「横浜です」のアナウンスに目輝かせ旅の疲れも忘れむ、友よ!
4時05分。「おはようございます。」の車内放送。まもなく横浜着を告げる。
7 4時12分青く明け来し川崎の冷気の中をわが汽車は行く
4時08分横浜着、同09分発。川崎には停車しない。あと東京まで停車駅は品川と新橋のみ。もう空はあおみを帯びはじめた。皆起きはじめている。横浜のアナウンスに胸躍らせていたN君、いよいよ東京だ。
8 東京に着く時空は明けゐるか――友等の顔に見入りて想へり
9 建物の輪郭徐徐に浮き出づる 暁から朝へ、いま移りゆく。
10 東京の市街に只今列車は入れり 友少し許(ばか)り鼻汁(はな)をすゝりて。
品川4時29分、新橋35分、そして東京39分。冷気の中のプラットフォームに降り立てば、不意に鼻汁(はな)をすすったN君の向こうの空に、もはや朝の明るさはみちていて。
(了)
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この夜行列車は「ムーンライトながら」としてその後も長く愛されました。わたしたちがそうしたように、青春18きっぷで乗れるのも魅力だったのでしょう。ですが、残念ながら現在は廃止されているようです。たっぷりの体力と時間が必要な移動手段でした(グリーン車なら、たしか少しはリクライニングシートで後ろへ倒せたかも)……。
あっ、……ひとつ重大な脚色があります。わたしの乗ったのは電車ですが、「汽車」と歌っています。芭蕉張りの虚構、おくのほそ道張りの脚色と言っていいでしょう(笑)。
それにしても、旅はいいものです。
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