デジタル化に関する法制度(民間分野編)(2)
スマホでなどを使ったオンラインでの取引の機会や、民間事業者から交付される書類をデジタル発行されるような機会が増えてきています。こうしたことの背景には、2000年以降、徐々に進められてきた社会のデジタル化を支える法制度の整備があります。前回は民間手続に関するアナログ規制の緩和に関する主な法律などを見てきましたが、今回は電子契約等を安心して行うための電子署名の仕組みなどの基盤整備に関する法律を、簡単にまとめておきたいと思います。
民間分野の法制度としては、前回に続く二回目となります。
取引等のデジタル化に関する主な法律
前回は、民間手続に関する書面規制の緩和に関する法律を見てきましたが、今回は、電子契約等を安心して行うための基盤を整備する主な法律について見ていきたいと思います。
電子署名、電子委任状、商業登記電子証明書に関する法律のほか、広く電子契約に関するものとして、電子消費者契約や資金決済に関する法律等についても、見ていきたいと思います。
電子署名法(2000年)
電子署名法は、電子契約における電子署名の法的効力等を明確にする法律で、2000年に制定され、2001年4月に施行されています。正式名称は、「電子署名及び認証業務に関する法律」です。
主な内容としては、電子署名の定義と認証業務を定める第2条と、電子署名の効力を定める第3条を押さえておくことが重要かなと思います。
まず、第2条第第1項では、「電子署名」について、本人性(第1号)、非改ざん性(第2号)の2つの要件が定められています。
また、第2項、第3項では、電子署名が真正なものであることを証明するために、第三者がおこなう認証業務について定められています。認証業務とは、電子署名が本人によって行われたものであることを証明する業務のことで、このような業務を行う事業者は認証局と呼ばれています。認証業務のうち、一定の厳格な基準をクリアした電子署名に関する認証業務が、第3項の「特定認証業務」と思っていただければよいかと思います。
なお、マイナンバーカードを使った電子署名についての公的認証については、公的個人認証法で別途定められています。
また、電子署名法の第3条では、パスワード等が適正に管理された電子署名付きの電子文書(電磁的記録)について、「真正に成立したものと推定する」と規定されています。この規定によって、要件を満たす電子署名付きの電子文書は、紙媒体で署名又は押印が行われている文書と同様に、真正に成立したものと法的に推定されることになります。
取引等のデジタル化を進めていく上では、インターネットを通じて意思表示等を行う者の本人確認や、送信される内容の真正性等を確保するための機能が提供されることが必要ですが、この法律によって、電子証明や認証業務のサービスが普及するための基盤が整備されたと言えると思います。
なお、前回ご紹介した2021年の一括法などで、取引等での交付書面のデジタル化が進められていますが、一部の契約については、紙媒体で契約書等を作成しなければならないという規制が残っています。このような場合には、電子文書、電子署名等によることは認められません。
電子委任状法(2017年)
電子委任状法は、電子委任状の信頼性を確保するための電子委任状取扱業務の認定の制度などを定める法律です。「電子契約を取り巻く環境の変化の中で、電子委任状の信頼性が確保されることが電子契約における課題となっていることに鑑み」(同法第1条)て、2017年に制定されました。正式名称は、「電子委任状の普及の促進に関する法律」です。
電子委任状とは、法人の代表者が使用人等に代理権を与えた旨を表示する電磁的記録のことです。具体的には、電子取引等を担当する職員に対して電子文書に電子署名等を行って送信することを委任したことを、電子的に証明する際などに使われます。電子委任状によって、代理権が明確な電子署名を用いることができるようになります。
「電子委任状」「電子契約」に関する定義を定める部分を参考まで引用しておきます。
商業登記法(2000年改正)
商業登記法は、その名の通り、会社等の商業登記に関する法律ですが、2000年の改正で、商業登記に基づく電子証明書に関する規定が設けられています。電子証明書は、電子署名を行った者が本人であることを証明するための電磁的記録(電子データ)です。
商業登記電子証明書は、登記所(法務局)が会社等に対して発行する電子証明書で、商業登記法第12条の2に規定が置かれています。なお、この条文の最初に「前条第1項各号に掲げる者」とありますが、商業登記法第12条では、印鑑証明の交付を請求できる者について規定されており、これらの者が電子証明書についても請求することができます。
会社等で利用できる電子証明書には、民間の認証局等が発行する電子証明書などもありますが、登記簿を管理している登記所(法務局)が発行する電子証明書は、最も信用力が高いものと言って良いと思います。
余談ですが、公的個人認証制度では、電子証明書は、マイナンバーカードでICチップに格納されますが、商業登記に基づく電子認証では、電子ファイルの形式で提供されています。
また、商業登記法の第12条の2ですが、第1項のカッコ内に、「デジタル庁令・法務省令で定める」とあるように、この部分は、デジタル庁と法務省の共管になっています。
電子消費者契約法(2001年)
電子消費者契約法の正式名称は、「電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律」で、その名の通り、電子消費者契約に関する民法の特例を定める法律です。2001年に制定されていますが、制定当初の名称は、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」でした。(制定当初は、電子メール等での承諾通知に関して、通常の隔地者間の意思表示に関するルールの特例もこの法律で定められていましたが、2017年の民法改正で規定が整備されたため、現在は、電子消費者契約に関する特例の規定のみがこの法律に残っています。)
「電子消費者契約」については、第2条に規定がありますが、消費者と事業者との間の契約で、パソコンやスマホの画面を介して、電子データで行うようなものが対象となります。
第3条では、このような電子消費者契約に関する、意思表示の錯誤に関する特例が規定されています。民法第95条第3項では、表意者に重大な過失がある場合には、錯誤無効の主張ができないこととされていますが、電子消費者契約で消費者が行なう意思表示については、一定の場合に、この民法第95条第3項の規定が適用されない(消費者が錯誤無効を主張できる)という例外規定を設けています。この規定によって、パソコンの操作ミスなどの場合に、消費者から契約の無効を主張することができることとなります。
電子消費者契約法は、全3条の短い法律です。
民法の改正(2017年改正、2020年施行)
民法では、従来から、当事者の合意のみで契約が成立することが定められており、当然に電子契約も認められていましたが、2020年に施行された改正民法で、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と明文化されました。(その後、電子契約の根拠となる規定として、民法522条2項が挙げられることが多いです。)
なお、電子契約について、どのように民法の規定が適用されることとなるのかといった解釈について、2002年以降、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」が、経済産業省から公表されています。最近では、2020年4月に施行された民法改正に対応して、2020年8月に「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」が改定・公表されています。
電子記録債権法(2007年)
民間企業の取引では、手形や小切手などの有価証券で、債権の譲渡などが行われていますが、同様の機能をデジタルで実現するため、2007年には、電子債権記録法が制定されています。
この法律では、電子債権記録機関が作成するデジタルの帳簿に記録することで発生や譲渡等の効力が発生する「電子記録債権」についての規定や電子債権記録機関に対する監督等についての規定が置かれています。
なお、電子債権記録機関には、財産的基盤や適切な業務遂行能力を有する株式会社を電子債権記録業を行う者として指定することとされています。
資金決済法(2009年)
資金決済法は、金銭の決済に関する事業についてのルールを定める法律で、2009年に制定されています。正式名称は、「資金決済に関する法律」です。
直接的に電子契約に関するものではありませんが、◯◯ペイなどの新たな資金決済サービスについて、「前払式支払手段発行業」に関する規定を設けて対応等が図られています。
民間分野に関する法制度については、以上としたいと思います。
次回からは、情報の保護・利活用やサイバーセキュリティに関する法制度を見ていけたらと思います。
少しでも何かの参考になるような情報を発信できればと思いますので、引き続き、よろしくお願いいたします。